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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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会談 四 この反応でいい

「恩人?」


「そう大袈裟な存在ではない。私は当然の事をしたまで。“王都の風潮”とやらのせいでキャロウェイが王都に居づらくなったのを助けたまでだ」


 そうか。キャロウェイお爺さんも言っていた。人族至上主義のせいで王都に居られなくなったと。


「儂にとっては大袈裟な存在ですぞッ! 何せ伯爵様は…」


「…キャロウェイ」


 サッとすぐに鋭くさせた視線には、“これ以上話すな”という強い意思が宿っていた。

 すぐにこれ以上話すのをキャロウェイお爺さんは制止し引き下がった。


 以前、ヨゼフも声を荒げて何か言おうとしたキャロウェイお爺さんを止めていた。二人は一体何を知っているのか…。

 それに…伯爵とヨゼフは何かを知っているのに、二人の間には旧知という言葉は介さなかった。

 さっきの初めて逢ったであろう反応には、嘘や偽りなどという不義な存在はなかったからだ。

 この不可解な謎は一体……。


「キャロウェイの造った物は気になるな。是非とも明日に見させてくれ。それによってはこの領地の相応な土地で、ジャガイモ、米、竹の育成を許可する。最初は試用期間という(てい)で小さな土地で試してからだがな」


 破顔一笑。一重にこれ以上の詮索は無用と伯爵は話しを戻し、笑みを浮かべながら前向きな方向で話題を進めた。

 気にはなるものの伯爵が全員に軽い圧を浴びせる前に、シャルルはすぐに反応を示しありがたく話しに乗っからせて貰うようだ。


「ありがとう、伯爵。そう言って貰えて安堵した。ボクもカイのもたらす成果がどの程度のものをもたらすかはわからない。だけど、確実に良い結果を生じさせるものであると期待している。……それに、これは必ず成功させなければならない。この理由を…()()()()()()()()()()()()?」


 最後にぼそりと漏らした一言は、不透明な膜で覆われ包み隠された意味が付されていた。

 これはある種の試しであり、伯爵とこちらとの距離を推し量る物差しでもあった。今までの会話でどこまで伯爵との距離を近づけたかを量り、測り、図るための。


「…王も御人が悪い。どうも王は我々の間に隔たるものを急速に取り除かれようと必死のようだ」


 ………失敗したか。すぐに次の切り出し口を脳内で模索するもそれは徒労に終わる。伯爵の口はこちらを真似て一呼吸を入れた後に再び紡がれる。


「…帝国。これの動きがどうも怪しい、そう王もお考えなのでしょう。私の元にはそこまで多くの情報は入っておりませんが、友好国である帝国から最近やたらと商人の行き来が活発のようです。これを帝国との関係が深くなった証拠だと考えているのが貴族の大方の者の意見です。…しかし、私はそうは思いません」


 酔いが醒める決め手となる一文を、最後に伯爵は添えた。眼光には唯ならぬ力強さが秘められ、試された期待に応えるだけの目力が眉間の皺と共に刻まれていく。


「なぜ今頃になって何の前触れもなく、ここまで友好的な姿を一方的に見せてくるのか。しかも今は王が即位したばかりのこの時期にです。王の器量が問われる今、この時に…。私のような者であれば、これまでと変わりない貿易を維持しつつ、王の統治の様子を観た上で交易を増やすか減らすかを考慮した上でようやく交易量に手を下す。だが、帝国はすぐに手段を前に進めた。……しかも貴族の間で”本の虫“と揶揄される王に対してです。これのどこに信を置く事が出来ましょうや」


 王の評判を的確に表し、それがシャルルにとって不名誉な言われようであっても臆せずに根拠の一部に乗せた。

 王位継承後の大事な時期に帝国のあまりにも友好的外交に対する不信。

 伯爵はやはり理性に長けた人物だ。都合の良いように物事を濁った視点から眺めるのでなく、あくまでも第三者の目線から立って状況を判断出来るだけの能力を有している。

 つまり…英雄たる資質を備え持った人物だ。


「…ふふ、やっぱり多くの貴族がボクをそんな風に観ているんだね。やっと生の声を聞けて嬉しいよ、伯爵」


「こんな老いぼれでなければ諫言も恐れはしないでしょう。後先短いこの身でなければ」


「だが、貴重な諫言だ。それが聞けたならこれまでの話しの布石も全て理解して貰えるだろうね」


「……布石ですと?」


 シャルルは一気に話しを大詰めに畳み掛ける。そう、ここからが本番だ。今までの会話、内政面についてはあくまで布石。


「なぜここまで伯爵の真意を問い…内政面を整える必要があったのか。これは内密な情報なんだけど、恐らく帝国は我らの国との交友を破り近々攻め寄せてくる可能性がある」


「…ッ!! 何ですとッ!!」


「そんな馬鹿な…ッ!!」


 焦燥は椅子から身体を起き上がらせる程に、急に倒立した衝撃で椅子が後ろに倒れ落ちるくらいに強烈な一撃だった。

 脇に控えるシャマは護衛の任務も忘れて、見事なまでに脱力した様相で大きな隙を見せていた。

 暫し茫然とシャルルの顔を見つめる事しか伯爵には許されていないように、会話の主導権を握ったシャルルは語り出す。


「これはいつ訪れるものかわからない。明日なのか、明後日なのか…来年なのか。しかし、そう遠くない未来だと考えている。恐らく…ここ数年以内だ。そのために急速に国内の統治を安定させ帝国の襲来に備える必要がある。それと…大きな策を事前に施す必要も」


「大きな策…王は帝国に勝たれる算段がおありなので? あの強大な軍備を誇る帝国に…」


 頭の整理が追いつかない伯爵に猛然と次から次へと話しを進展させる様は、嫌でも会話の主導権を握らせない腹づもりなのだろう。

 ならば、ここは僕からの援護射撃も行わせて貰うか。


「僕からシャルル王に提言させた頂いた策が三つございます。この三つを実現するためには、伯爵様の御協力と御理解を頂戴したく存じます。その策とは─────」






「「……………は?」」






 二人は今日一番の呆け顔で、この上なく呆れてくれた。

 …この反応でいい。人に呆れられるくらいでないと、帝国の油断なんて買えないんだから。



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