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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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”変人の御老体“

「さぁ、王はこちらの席へ。もう一つ空いている席にはどなたが座られますかな」


 当主の伯爵の座る古びた椅子の対面に、大きな机を挟んで同じ時を経たであろう二脚の椅子置かれていた。

 

「クワンさん…と言いたいところだけど、やっぱりカイに座って貰うよ。ただ、クワンさん…みんなにも意見を求める時があるだろうから、その時はよろしくね」


「ここは大人な私だ。潔く身を引こう。ちょっと悔しいけど」


「…クワン。大人はこんな時に悔しいとか言わねぇ、大人気ねーな」


「ふん。このくらい言わせてくれなきゃだよヨゼフ君。この私が子供相手に譲歩してやっているんだからな」


 偉そうに腕組みをしたクワンが僕の席の真横に立ち、恨めしそうに席を睨んでいる。座りづらい…。


「……ヨゼフ? 君はもしかしてギルドに所属している槍の名手ヨゼフか?」


「おや? 伯爵様はヨゼフ殿をご存知で?」


 思わぬところでヨゼフの名前が伯爵の口から出た。ズゥオさんもつい気になったようで質問をする。


「あぁ、私が懇意にしているジャック・ド・ウィルバー男爵がヨゼフの事を熱心に語っていたからな」


「ジャックか…懐かしいな」


「ヨゼフ師匠。その…男爵? って人と仲良かったんですか?」


 初めて聞く名前だった。ヨゼフが今まで語ってきた名前にはない人物。それでもその名前には思い入れを感じれる友の名だったのだろう。語る唇は躍動感に包まれながら話し出した。


「ジャックは俺が転生した地を治めていた領主だ。何にも知らない俺を庇護してくれてな。アイツの領地はとってもいい笑顔に溢れていた。領民はアイツを慕っていた」


「まさかヨゼフさんが知っていたなんて…意外な繋がりもあるもんですね。…男爵も良識ある貴族です。彼はあらゆる種族の人に分け隔てなく接すると(もっぱ)らの評判ある人物です。ボクは彼にも逢いたいですね。彼の知見は間違いなくこの国の政治を向上させるでしょうから」


「へぇ、シャルル様とヨゼフ君が褒めるとはね。ちょっと逢ってみたいね」


 僕も同じ感想を抱いた。あらゆる人に分け隔てなく接する人か…そういう人物こそ僕達のやろうとしている沢山の改革に必要な人物だ。

 男爵。この地位は確かに他の爵位に比べれば低いと言わざるを得ない。国によって細かい名称は変わってくるけど、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、士爵の順の爵位となっている。


「その人が前にド…シャルルの言っていた伯爵と共に王位に後押ししてくれたって人?」


「ううん、違うよ。男爵も支持はしてくれたけど、表立って率先して後押ししてくれても立場や権力はそこまで強くないんだ。だからこそ、ある程度の権力を有する貴族の発言は宮廷内で必要になってくる。だけど…ボクを後押ししてくれた二人は、両人共に自分の領地に籠りっ放しだからね」


「ふふ…私への当てつけですかな、王よ。それは仕方ありますまい。私もあの“変人の御老体”も、与えられた地位は王宮内での立場よりも自領への責任の方が大きいですからな」


「「「「「変人の御老体??」」」」」


 あたかも会話の中で明らかに浮き出た文言に皆が反応してしまう。

 何だそれ? 伯爵もまぁまぁな高齢のはずだけど、その伯爵から御老体扱いとは。しかも変人ときたもんだ。


「何せあの人物は、私と共に先代の王に“長兄が王に相応しい”とだけ言い残すと、他の貴族への根回しは全て私に押し付けて自領にすぐ引き揚げられてしまった。全く…ほとほと困った御方だ。だからこそ下級貴族に顔が効く男爵の力も借りて、王都の貴族にも少しずつシャルル王の正統性を浸透させ形になった。……無論、あの御老体の一言があったお陰で先代王も決断されましたがな」


  困ったと言っている割には、とても顔は楽しんでいるように見える。陰謀が渦巻くであろう貴族とのやり取りにおいて、数少ない心許せる間柄だと知れるだけの砕けた柔らかい表情だった。


「それって…よっぽど先代王の信頼が厚かったって事じゃ……」


「そりゃあ、もう。用兵においてこの国であの御老体に並ぶ者はおりませんからな。先代王の治世において…そして、今でも魔族の侵攻を食い止めていられるのは御老体の力があってのもの。部下には自分の事を勝手に“将軍”などと呼ばせる程に自身の権威など気にも留めない人ですし」


「ま、魔族ッ!? 魔族がいるのッ!?」


 まさか魔物に続いて魔族までもいるとは……。この何でもありの世界で今更ながらに驚愕してしまった。魔族と戦っているって事は敵対関係なのだろう。


「おや? 知らないのか? この国の北方の地は氷雪に覆われた万年冬の寒さの地。そこは魔族との国境となっていて常に争いが絶えない地だ。私が暖炉税の撤廃を望んでいるのは、かの地で未だ国のために戦い続ける御老体のためでもある。……まぁ、本人は要らぬ御節介だと言われるだろうがな。前を向き続ける事にしか興味のない方だから。だからこそ”辺境伯“という地位はあの御老体にしか務まらん」


 


 ずっと前に出てきた人物がようやくカイ達の話題にも上がってきましたね。

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