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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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国が彼らの生きる術を奪っている

「ご名答。今は暑い季節ゆえに大きな問題にはなりません。しかしながら、この国では冬になれば寒波が押し寄せ、酷い極寒の地域においては人々の手足は寒さで凍りついて壊死してしまう場所もあると聞き及んでおります。……ですが、民達のほとんどの家に暖炉はありません。なぜなら国が彼らの生きる術を奪っているからです」


 痛烈な批判を伯爵は語った。しかも、この国の王に対して何ら臆する事もなく言葉も飾らずに。

 ここまで率直に直言をしてしまえば、民よりも国を重んじる王であれば伯爵になんらかの処罰を加えたであろう。

 だが、伯爵はそれでも語ったのだ。この国の王を…目の前の小さな少年を信じて。

 決して視線を逸らす事なくドーファンを見つめながら続けて訴える。


「王よ。こんな片田舎の我が領土に来られる機会など今後もそうはないでしょう。王都で奏上などもっての他なので言わせて頂きます。どうか…民達の暮らしに王の憐れみをお示し下さい。彼らに生きる希望をお与え下さいますよう……」


 (こうべ)を垂れ、必死に民のために願い出る。“王都で奏上などもっての他”。これは王都での伯爵の立場、もしくは周りの貴族の目が(かんば)しくないという断言だ。

 当然だとも言える内容だ。貴族の富を減らす税収の撤廃を訴えているのは、自ずと敵を増やす行為だ。自らの保身を大とする貴族からしたら侮蔑の視線をぶつけるのが自然だろう。

 だからこそ、今なのだ。王に自分の考えを知って貰える唯一の機会だと伯爵は捉えた。他の貴族の視線がない…この瞬間を。


 そして、この咄嗟の伯爵の判断はまさに絶妙な隙間を突いた献言だった。なぜなら王は伯爵の助力を請うためにここを訪れ、その返答も伯爵の期待以上のものを与える。


「ありがとう、伯爵。やっぱり貴方の元を訪れたのはどうやら間違いではなかった。もちろん伯爵の要望に応えるつもりだ。…ただし、それには条件がある。伯爵…貴方の全面的な協力を願いたい。ボクには貴方の力が必要だ。これは悪い話しじゃない。なぜなら伯爵の利に…この領地の民の暮らしも向上するだけの案を持ってきたからだ」


「民の暮らしを向上…? どうやら私の訴えに思わぬ形で王は応えて下さるようだ。それも予想の範疇を超えた期待によって。…いいでしょう、まずは王の案とやらをお聞かせ願いたい。それによっては全面的な協力を誓いましょう。では、早速こちらへ」


 控えていた家人によって開かれた扉の奥から、まさに応接間と呼ぶに相応しい厳かな雰囲気が漂ってきた。

 指し示された交渉の場にいよいよ席が用意された。握り締めた拳には緊張で手汗が滲む。横目にドーファンを見つめると彼は小さく頷き、それに僕も無言で頷き返す。

 

「わかった。行こう」


 普段は猫背の背中がピンと張り、遂に念願の舞台に踏み入れる足にはズシリとした重みが纏わりついたまま、僕達は奥の応接間への入室を果たした。




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