核心を突く
「思わぬ所で欲しい人材を得られたな…これはいい交渉が期待出来そうだな」
ニヤリと黒い笑みを浮かべたクワンさんは非常に上機嫌になり、瞬時にファンさんの優れた能力を謀略の一部として画策していた。
クワンさんみたいな人物のために狡賢いという言葉は生まれたんだろうなぁ…。
「そ、それは良かった。な、何か狙いがあるんだろう? 米を国単位で栽培したいなんて、ふ、普通は思いつかない。つ、つまりみんなはそういう人物なんだろう?」
………そう唱えた刹那、一気に場には緊張感が張り巡らされる。
見逃せない囁きにドーファンとクワンさんの目つきは鋭くなる。だけど、警戒対象となった当の本人は全くそんな気はなかったようだ。
「わ、わ、わ…そ、そんなつもりでは言ってない。わ、私はむしろ…みんなのために役立てて嬉しいんだ」
「嬉しいだと…?」
「あ、あぁ。私はみんなに救われた。だ、だからみんなのために役立てるなら本望だ。ど、どこまで通用するかはわからないけど、きっとこの知識は使えるはず…」
そこには偽りなどは垣間見えなかった。本心からそう望んでいるようで、必死さ懇願へと昇華していた。
その想いを汲み取ったのかクワンさんは忠告を与えた。
「ふむ…あとはどれだけ信用出来るかだが……君もそこまで踏み込んで話してくれたんだ、わかっているとは思うけど信用足り得る人物と判断するまでは君への目を光らせるからな」
「と、と、当然の理だな」
「クワンが言っちゃうのね、その台詞。普通、ドーファンが言うものじゃないのかしら?」
「まぁまぁ…イレーネ。ここはクワンさんに任せましょう。優しいクワンさんは放っておけないようなので」
「…ッ! や、優しくなどないッ! 厳しい現実を教えてやっているだけだッ!」
「それも親切にな」
「くどいッ!!」
「「「「ぷ…ぷふふふ」」」」
子供達全員に図星なところを指摘されて、ムキになっている様子が堪らなく可笑しくて、ついつい笑いが溢れ出てしまう。
それは前向きな兆候でもあった。なぜなら僕達の陽気な掛け合いでファンさんにも自然と笑みが伝播したから。
「…み、みんなは仲がいいね。ど、どうやら良い出逢いに巡り逢えたようだ」
「フッ…それはお互い様だよ。これからよろしく頼むよ。まぁ、君が付いてきたいと想っていたらだけど」
「む、む、無論だとも」
クワンは右手を差し出し、ファンさんは力強く手を握った。なんだかんだ言いながらも、クワンさんはとても機嫌が良さそうだ。
きっと、自分の中で想い描いた将来への航路図に必要なピースをファンさんに見出したのであろう。
それだけ彼の能力は傑出していると、素人目から見てもわかる。
「君の事情はこっそりドーファン…様から聞いたよ。この中で一番偉いのはドーファン様だ。それ相応の敬意だけは示すようにね。これから行く先でその正体はわかるからそれまでの楽しみにしてくれ」
先程までの警戒心を解いて、彼の前でもドーファンを様付けで呼ぶ事にしたようだ。
「あ、あぁ。楽しみにとっておこう。と、ところでずっと気になったんだが…あれは何だ? あんな道具…見た事ない」
興味を示したのは調理に使用していた竹製のトライポッドだった。一般的な意見も聞けるいい機会だ。感想を尋ねてみよう。
「あれはトライポッドって言います。竹と呼ばれる植物を使って、鍋を火にかけるために使用するためのものです。わざわざ程よい大きさの手頃な木を探す手間を省けるんです。部位ごとに組み合わせるので実際は小さな袋に入るだけの収納で済み持ち運びも楽です。どうです? 便利だと思いませんか?」
「ほ、ほう。な、なるほど。確かに旅をする上では役立つ。き、木々の少ない土地の旅には大いに活躍しそうだ」
「そうです! その通りですっ! 僕もそれを想定して考えてみたんですよ」
おぉっ! 一瞬のうちにそこを理解してくれるのは嬉しいっ!
砂漠地帯は火種になる枯れた植物はあっても、なかなか手頃なサイズの木なんて見当たらないだろうなとも想定して造った。
尤も…鍋を使わずにフライパンを使えば済むかもだけどね……。
でも、本当の目的はもっと別にあるんだよね。
「カ、カイが考えたのか? す、凄いな。……う、うーん。こ、こ、これは聞いていいのものなのか…」
「何か気になる点でもありますか? もし良かったら今後の参考にもなるのでお聞かせ下さい」
とても躊躇った様子で言ってもいいものか彼は思案していた。そわそわした様相を呈していたので、尚更気になってしまい尋ねてしまう。
こちらとしては改善点を聞くだけの安易な心積もりだったのだけど。
……しかし、安易さは時に大きな衝撃をもたらす。軽い気概だったからこそ核心を突かれた時の一撃は重いのだ。ファンさんは僕の狙いを寸分違わず正確に射抜いてきた。
「…ふ、普通の旅をよりも、もっと違う目的を感じる。こ、これを利用すれば軍の給餌の時間だって、た、短縮出来ると想像してしまうのだが……」




