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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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陽に当てられた若葉

「…ファンさんのためにも早く向かいましょう。ジャン・ド・パラド伯爵の元へ」


「ん? ファンさんのためにってなんだ?」


「ここの領地を治めているのは伯爵です。けど…彼の人柄からして、ここまで領内で教会の影響が及び、王都の風潮が深刻化しているのを単に見過ごしているとは到底思えません」

 

 単純な疑問を口にしたハイクの軽い口調とは裏腹に、真剣にそう思案するドーファンの顔は真面目そのものだった。

 

「そこまでの人物なの? ドーファン」


「うん。伯爵は普通の貴族にはない理性と常識に富んだ人物だよ」


 チラッと横目でファンさんの方を見ると、こちらにハイクの乗る愛馬アルと一緒に近づき、僕とイレーネを含めた三人に耳打ちする。三人に耳打ちする。


「父王が崩御して次代の王を決める時に、ボクの事を後押しして奮闘してくれた一人が伯爵なんだ。伯爵ともう一人の人物が亡くなる前の父へ提言してくれた。“二人の王太子にあっては長兄が王位を継承するのが世の理です”ってね。彼らのおかげでボクは王になれたようなもんさ。」


「ドーファンには兄弟がいたのね」


「う、うん。そうなんだ……下に弟が一人ね」


 イレーネの指摘にとても言い辛そうに返事する。

 …どうやら兄弟仲はあまり良くないのではと勘繰ってしまう歯止めの掛かった語気であった。

 王位継承という単語と共に不穏な影が見え隠れしてしまう。


 そんなドーファンの様子を察してなのか、こちらを見守っていたクワンさんが調子のいい声を発する。


「私も伯爵の元へ早く行くのには賛成だ。これ以上、野暮な事態の悪化をみすみす見逃してしまっては国の威信に関わるだろうな。私が仕える主にはそれ相応の対応を求めてしまうなぁ〜」

 

「…えぇ、任せて下さい。そのためにもクワンさんにはそれ相応の働きをして貰わなければですがね」


「言ってくれるね、ドーファン様。…無論、全力は尽くす所存だ」


  呆れ顔でありながらもドーファンもすかさず冗談を返した。案外この二人は似た者同士なのかな?

 ドーファンは宮廷内のやり取りは得意だろうし、クワンさんも腹黒そうだからこんな掛け合いもお手のもんだと伺える。


「じゃが、これからの移動は危険じゃ。もうじき夜になる。この先に川が流れておる場所があるから今日はそこまでの移動を目指せばいいんじゃないかのう? 水の補給も馬達への水やりも必要じゃ」


「そうですね。私もそれが良いかと」


 夕暮れが差し迫った空模様を見上げて、キャロウェイお爺さんとズゥオさんの意見は合致した。

 ドーファンは振り向いて一つ頷き、みんなに号令を掛ける。


「では、今日は川までを目指して移動しましょうか。早速行きましょうっ!」


 一斉に黒雲達が疾走する。木々の間を駆け巡りながら吹き下ろす山風を共にしながら。

 風が薫り木の葉が舞い、夕焼け空から紅の陽射しが差し込んだ。

 陽に当てられた若葉。対比しあう色彩の新緑と紅鏡(こうきょう)が重なり合った時、美しい金色の輝きを放つ。さながら素晴らしい絵画のように鮮やかだった。

 まるで…纏まりのない僕達のようだ。みんなの個性は別々出し、たまには衝突する事もある。だけど、根底にある譲れない想いが同じだからこそ、こうして前を向いて共に歩めるんだと…。


 彩られた景色の中を潜り抜けた時には山奥にある村は遠く離れ、離れるにつれて吹き荒れた感情も凪いでいった。



 緑と赤を混ぜると黄色になるらしいですね。

 実際に木の葉を夕方頃に空に向けて翳してみましたが、書いたように上手く金色にはなりませんでした。


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