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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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“彼は今…ここにいる”

 問い詰める声には無数の棘が巻き付けられ、鋭く人を傷付ける切り口を帯びていた。


「貴方達もわかっているのではないか? その男が…碌に口も聞けない役立たずだと」


「役立たず…だと……」


 無慈悲な切先を突きつける老人の枯れた声に、ドーファンは誰よりも早く反応した。

 反射的なものであったのであろう。忿懣(ふんまん)の情が静かながらに一端を見せていた。


「何を怒っている。私は当然の事を言っているだけだ。人との会話もままならない者は役立たずではないか。……神は全知全能だ。欠損のある人間を神は認めない」


「ねぇ…あの人は何を言っているの、カイ。何であの人達はこっちを睨んでいるのよ」


 会話の内容を聞き取れずに混乱するイレーネは、小声で後ろにいる僕に語りかけてきた。

 場の変化についてこれずに困惑を深めるばかりだった。

 

 僕自身、村の人達の言っている事を理解出来ない。

 ……いや、理解したくなかった。まさか本当に彼らは自ら望んで差別的な発言をしているのかと、考えたくもない事実を受け入れる事を未だ心は拒んでいた。

 

 だからこそ、彼らに問わなければならない。


「それは…貴方自身のお考えですか? それとも、この村にいる全ての人の総意でしょうか?」


「全員の総意だ。君こそ何も思わんのかい? その者の話し振りは明らかに神の目に相応しくないだろう」


「…聞くに耐えませんね。どうやら貴方達の物言いは酷く歪んだ考えで捻じ曲げられているようだ」


「…おいッ! カイ君ッ!」


 誰かの叫びの制止を振り切る程に怒りの感情は暴走し、馬上から降りて村人達の前へと進ませる原動力となった。

 彼らの前に立った時、明確な敵意が注がれ多勢に無勢な状況もあって、思わず一瞬怯んでしまう。

 …だけど、ファンさんのために…目の前にいる間違った考えに囚われている人達のためにも訴えなければならない。


「貴方達の信じる神を僕は知りません。ですが、はっきりとわかる事があります。貴方達の信じる神様は本当の神様ではないという事です」


 その刹那、言葉を言い終えると同時に燃えるような憤怒があちこちから噴出する。


「神を冒涜したッ! なんて口汚い子供(ガキ)なんだッ!!」


 そんな不満や過激な意見が飛び交う中、火に油を焚べるように彼らに向けて言葉を送る。


「貴方達の意見では、まるでその人が尊敬に値しないみたいな言い振りだ」


「そうだと言っているッ! 碌に話しを出来ない者にどんな尊敬を向ける事が出来ると言うのだッ! そもそもお前はそいつの何を知っているというのだッ!?」


「知らない…それに、知る必要もない。彼は困っていた。それが全てだ。道半ばで倒れるくらいに身体は衰弱していた。そんな彼に手を差し伸べるのは人として当然の理。……だからこそ、人の理から外れた貴方達の行いは看過出来るものじゃないッ! 彼は…今、ここにいるんだッ! 平等な扱いを受ける権利があるッ! 人が人である権利は誰にも犯せるものでもないッ! そんな事も知らない神は神ではないと言っているッ!! 貴方達の唱える神の教えは恥ずべき道理を教える哀れな邪教だッ!!」


「…何だとッ!?」


 もはや引き際などを(わきま)えるつもりはなかった。

 この人達には神の教えよりも人の教えを知って貰うべきだと強く願ったから。

 そんな願いも露知らず、彼らの感情の焔はゆらゆらと燃え上がり、先ほどよりも激しい罵倒を浴びせられる。


「カイ殿、今は彼らに屈して下さい。彼らにも言い分が……」


「…屈しないよ、屈すべきじゃないしね。ファンさんのためにも…屈するなんて選択肢は存在しない。……本当に誰かの事を想うならね」


「…ッ!!」


 ズゥオさんの言葉を遮り、一切引く意思を持ち合わせていないとはっきり述べた。

 それ以上ズゥオさんからは何かを発する声はなく、ただ下を向くばかりであった。


「こうなったらその子供を殺して、神に対する犠牲に…」




 …ドォンッ!




 地面に一本の槍が刺さる。

 村の人達と僕の間に放たれた槍は一つの境界線になった。


「いい加減…その薄汚ぇ口を閉じろ。お前らの言っている事は間違っている。子供を捧げるだと……。神はそんな犠牲を求めず、喜ばず、認めはしない…神が求めるのは、救いを求める誰かを想う心だッ!!」


 聞く者全ての耳を貫くヨゼフの低い声には、静かながらに熱が(こも)り、獣を狙う狩人のような注視によって村人全員の言葉も動きも封じ込めた。

 村人達のある者は、恐れのあまり地面に膝を着き、腰が抜けて悲鳴を上げ、ヨゼフの迫力にやられて萎縮してしまう一方だった。


 だが、ヨゼフはそれ以上なにかを発する事はなかった。

 僕達に対して待ったを掛ける存在が身近にいたから。


「やめなよ、ヨゼフ君。カイ君。…幾らなんでも熱くなり過ぎだ。彼らだって間違った教えによる被害者だ。少しは冷静になれ」


 僕達と村人達の間に割り込んだクワンさんの言葉でハッとさせられた。

 ……そうだ。この人達にそう教え込んだ誰かがいるって事じゃないか。一体誰がそんな事を教えたというのか………



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