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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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麓の村へ

 ファンさんはお粥を食べ終えると、珍しいものを見る目で興味深そうにボーッと竹筒飯を眺めていた。


「…そろそろ行きましょうか。陽が暮れてしまいますから」


 まだ陽は見えてはいるものの早く村に行こうとする。その背からは焦燥感のようなものが立ち昇っていた。


「そうだな。なるべく早い方がいいな。きっと…そうなるだろうからな」


 最後に小さく意味深な台詞を残して、ヨゼフは黒雲の元へと歩き出していた。

 他のみんなを見ても、やはり同様に多くを語ろうとはせずに、重苦しい空気だけが漂う。


 ……みんな、どうしてしまったんだろう。いつものような陽気さは全然見えない。

 そう感じたのは僕だけではなく、イレーネとハイクも場に残る空気を察しているようで、戸惑いを隠せずに動き出すみんなの背を目で追うのに精一杯な様だった。


「……ねぇ、なんだかみんなの様子が変じゃない」

 

 共にアイリーンの元へ歩いていた時、イレーネがぼそりと呟いた。


「うん…ファンさんの事で何か思うところがあるようだね。みんなもファンさんを迎え入れてくれたはずなのにね……。何か別な理由があるのかも」


「別な理由って?」


「それはまだ…わからないな」


 ヨゼフとクワンさんの忠告から、何となくだけど予測はついている。

 恐らく、それは……


「おい、アンタは俺と一緒に乗れ。ほらよ」


「…わ、わ、わかりました」


 ヨゼフはファンさんを引き上げ黒雲の背に乗せると、目配せでドーファンに合図を送る。


「…行きましょう」


 重苦しい雰囲気の中、山の麓の村を目指して再び歩を進め始めた。

 夏木立の間を巡る若葉の茂りに山瀬風(やませ)が吹き下ろし、涼やかな風はいつもよりも冷たく肌を撫でた。

 ざわざわと揺り動めく木々の姿に、不穏な未来を感じざるを得なかった。


 


 密生した木々の枝葉から生じる緑陰の恩恵に預かりながら、一行は陽の当たる道へと躍り出た。

 出迎えてくれた野鳥のさえずりが耳を(かす)め、道の先にある(ひら)けた村へと身を羽ばたかせ、こっちだよと案内しているかのようだった。

 

「あ、村の人だわっ! ちょっと挨拶に行きましょう!」


「そうだな!」


「…ッ!! ハイクッ! イレーネッ! 待っ…」


 ドーファンの制止も虚しく、純粋な興味は聞く耳を閉ざす。

 姿の見えた村人に対し、これまでの旅で覚えた共通語が通じるのか試したい気持ちも拍車を掛けたのだろう。


「「……こんにちはっ!」」


「あら、こんな所に旅人さんとは珍しいわね。こんにちは」


 朗らかな笑顔を優しそうなお婆さんはハイク達に向けた。

 ハイク達の声に釣られたのか、村の人達がゾロゾロと集まってくる。


「おぉ、旅人さんかい? しかもこんなに大勢とは」


「こんな何にもない所にわざわざようこそ。山の旅なんて疲れたでしょう」


 ……良かった。どうやらただの杞憂だったようだ。みんなの様子から嫌な予感を感じていたけど、村人達は温かく僕らを歓迎してくれた。


「おや、貴方は確か…何度かこの村に来て下さいましたね?」


 そう言って村人の中から現れたのは、動きの鈍くなった身体を杖をつきながら、前へとゆっくりと進ませようと努める老人であった。


「……覚えていて下さって光栄です。村長殿」


 口を開いたのはズゥオさんだった。

 そっか。ここの村と物々交換をしていたって言っていたから面識はあるのか。


「わざわざこの村に寄って下さったのは嬉しい限りですぞ。また何か珍しい穀物を持っておられればなおさらです。もし宜しければお仲間の皆様と一緒に…」


 歓迎の意を示しながら言葉を言い淀んだ。

 ──老人は観たのだ。彼の姿を。


 薄汚れた外套に覆われた謎の人物であるのに、彼を視界に収めた途端、敵意を剥き出しにする。

 村長の変化に疑問を感じた村人達は、村長の視線の先にある彼の姿を同じように捉え、同様の変化を村人達に生じさせる。

 

「……なぜ貴方達はその人物と一緒に?」


 棘のある言い回しに一気に不穏な雰囲気が辺りを包む。暗い無機質な仮面を村人の全員が顔に貼り付け、こちらへの警戒の色を濃くした。

 元より細目であった老人の目は一本の生糸ほどの細さへと生まれ変わり、鋼鉄のような硬さの目力で睨みつけてくる。


「その人物ってのは…俺の後ろにいるコイツの事か?」


「…そうだ。なぜ其奴と行動を共にしているのかと聞いている」



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