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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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吃音

 ──※──※──※──


「……こ……ここ…は」


 暫くの間、寝込んでいたその人は意識を取り戻した。


「御目覚めですね。まだ身体は本調子じゃないようです。無理をなさらないで下さい」


 傍に控えたドーファンは優しい口調で彼に語りかける。それが酷く驚きであったのか、一瞬…彼の瞳孔はこの上なく大きくなった。

 

「動いちゃダメよ。今はゆっくり休んで頂戴」


 イレーネの言葉尻はやや優しさに欠けるように感じるものであったが、語りかける内容はドーファンの言葉に遜色劣るものではない思い遣りが詰まっていた。


「目が覚めて良かったです。…お腹も空いていると思って、お節介かもしれませんが作ってみました。もし良かったら食べて下さい。お水はこちらに」


 彼が寝ている間に程よく保温状態にあったそれを差し出す。


「……()()()()?」


「これは竹筒飯って言います。食べやすいようにかなり柔らかくお米と呼ばれる食べ物を炊いたものです」


 竹筒飯。その歴史は古くアジア圏の至る国々で親しまれてきた料理法。

 作り方は非常にシンプルだ。

 かまどや焚き火台など火にかけるものに合う長さの竹を用意し、お米と水の投入口になる部分に浅く鋸目を入れる。

 竹の選定の注意点として、古く乾燥した竹は、ご飯が炊ける前に竹自体が燃えてしまため、竹筒飯に使う竹は切り出したばかりの若い竹を使用する。

 後で蓋を外しやすいように斜め内側に切込みを入れながら、切り込みの端から端まで、綺麗に長方形上に竹の繊維にそって割っていく。この割りとった部分が蓋になる。

 

 穴の空いた竹筒に研いでおいたお米と水を入れる。お米が底全体に行き渡るように軽く左右に揺すってから火に掛ける。

 今回はお粥にするので、目分量で米と水の割合を一対十で炊き出す事にした。

 隙間から泡がたち始めてから三十分ほど火入れをし、泡が収まってきたら火の中心から離して蒸らす。

 この時、つい気になって蓋を開けてしまうと温度が下がって芯まで火が通らなくしまうから絶対に蓋は開けないように気をつける。ハイクが蓋の中を開けたいと言って大変だったよ…。


 その後十分ほど蒸らして蓋を開け、いい感じのとろみとお米の硬さだったので、塩を二つまみして振りかけてひと混ぜさせる。

 これで竹筒を使って炊き上がったお粥の完成だっ!


 僕達も香りだけでお腹が空いてきたけれど、今はこの人のために準備した料理に我慢する。

 翠微から持ち出したジャガイモやらお米は限りがあるし、何より国の経済政策のために必要不可欠な品だ。

 無闇やたらにお腹が空いたからと言って食べてはいけない。それにこの先にある村いけば食事にありつけるだろうしね。


「……あ…あり…ありがとう……ございます」


 短く御礼を言うと、覚束ない震えた手付きで竹筒飯を手に取り、何かの思考を巡らしているのかじっと手にあるそれを見つめていた。

 …ゆっくりと蓋を開けて、中からふわっとした湯気が立ち上る。離れた位置にいる僕らにも、素朴ながら上品さを感じる香りが鼻を刺激する。


 木のスプーンを手に取り、ゆっくりと口元に運びパクリと一口食べる。

 ……よっぽどお腹が空いていたのであろう。

 たった一口をじっくりと味わった後、目元が緩み、瞳は薄い不透明な光で満たされていった。


「…おい……美味…しいッ!」


 呂律が回らないようだけど、最初はプルプルと震えていた手の動きも少しずつ活気を取り戻していった。

 食べ終わる頃には胃に流し込むように早々とした動作で食しており、顔色もみるみるうちに生彩の色艶を放つようになっていた。

 昂ぶった気持ちを鎮めるかのように、皮袋に入っていた水をグッと一気に飲み干すと、彼はみんなに向けて深々と頭を下げた。


「あ…ありがとう……ご…ございました。あな…貴方達は…い、命の……おん、恩人です」


 言葉は(ども)りながらも紛れもない感謝の表明であった。深く心を打ったのか、彼は暫くの間…身動き一つ取る事なく頭を下げ続けていた。


「もう頭を上げて下さい。ボク達は当然の事をしたまでです。困った時は誰かを助け合うものでしょう? 元気になって良かったですねっ!」


 ドーファンは気にしないでくれと慰めるように、優しく接するのを終始心掛けていた。


「元気になったのは喜ばしい限りだな……で、何でこんな所で倒れていたんだ?」


 建前の祝いの言葉をそこそこに、用心深さの塊たるヨゼフは早速ながら遠慮も入れずに核心を突いた。

 こんな所で一人で倒れていたんだ。何か理由があったに違いない。

 

「……た、食べ物……をさ、探して…ここまで……迷い…込んだ」


「…食べ物? 何でこんな所までわざわざ……。近くには村があるって話しじゃないのかしら?」


 イレーネは疑問を挟む。本当に変だと思う。山の麓に村があるって話しだけど、この人は村の住民でもないって事かな?


「わ…わた、私は……こんな喋り方だ、だから。…ひ、人々は……気にも留め、ない。……留める余裕も……ない」


「………留める余裕もないって…どう言う事?」


 放つ台詞に熱が籠る。……嫌な予感が頭の片隅から沸々と湧き上がってくる。


「こ、こと……言葉の通りだ。わ…私は…元来……この喋り方。……私のこれは……これからも……ず、ずっと同じ。あ、貴方…達は…知っている、だ、だろうか? き…吃音という病を……」



 竹筒飯を調べてて時間がかかり投稿が空いておりました。

 確定的な資料は見つからず、恐らくお米の存在する紀元前3000年以降の調理法と推定されるため、竹筒飯の起源についてはそれ以降と考えられるようです。


 新しい登場人物が出てきましたね。

 とある理由で必ず書きたいと考えていた人物です。

 物語にどのように関わってくるのかお楽しみ下さい。

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