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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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誰かの視点 帝国軍のとある将校 二 “一に欠ける”

「既にヨハン中将とアサエル中将は本作戦の前段階の謀略面で活躍して貰っている。前線から呼び戻した卿らにはラ・パディーン王国侵攻のために働いて貰いたい。そのために王都に召集したのだ」


 先ほど私と廊下で会話をしていたのがヨハン中将だ。

 アサエル中将が知性を有する謀略家である。

 両将は宰相閣下に付き従い、今日(こんにち)の地位にまで上り詰めた。


 ヨハンは“皇帝教”という帝国の皇帝を神と崇める一団の司祭の一人でもある。

 皇帝こそが世界に平和をもたらすという狂信者達の集団の中で、此奴はその急先鋒派であり、教団内における権力は絶大だ。

 そのため、此奴に求められるのは宗教による思想の統制、及び他国への皇帝教の影響力の拡大である。

 無論、私は皇帝を尊敬こそするが崇拝などする気になれない。人は神になどなれない。

 彼らの考えは“一”に欠けている。


 アサエルは謀略家としては非常に優秀だ。誰かを(おとし)める流言や人の弱みにつけ込む心理戦が得意である。

 しかしその反面、憤りによる激情に駆られる癖がある。普段の落ち着きぶりからは想像もつかないところであるが、ある時、自分の部下が皇帝教の者と些細(ささい)(いさか)いを起こし、命を落とすまではなかったが傷を負ってしまった。

 それがアサエルの逆鱗に触れ、必要以上の報復によって彼はその皇帝教の者を惨殺したのだ。

 宰相閣下が事の解決に当たり、皇帝教の者達に賄賂を贈ることで事態が大きくなるのを防がれたという経緯がある。

 以来、アサエルとヨハンの間には、目には見えない冷たい空気が常に漂い、互いをライバル視するようになっている。


 両者ともに非常に癖の強い人物だ。

 だが、その厄介な性分を問題視されないだけの優秀さがある。

 それに此奴らの本分もあくまで軍人たる者達である。いずれの将も大軍を率いる力を有し、戦況全体を見渡せるだけの能力は十分にあるのだ。

 

 そして…勿論この男も。

 通称、“暗黒騎士”。先のドワーフ国との戦いで左翼を率い、敵の奇襲にも見事持ち堪え、援軍に駆けつけた元帥閣下の軍と共同で、敵本軍と拮抗するまでに戦列を一切崩さなかった守将である。

 ウッドストックと名乗る此奴も偽名であろう。全身を覆う鎧が示すように、実のところ人への信用など一切ないのだ。

 彼は人を…いや、彼らは“人を人と想っていない”のだ。

 …恐らく、此奴らが呼ばれたのは今回の侵攻においても……。


「…勝利の可能性を我らの側から手放してでもでしょうか?」


 兜越しから覗かれる鋭い視線は収まる事を知らない。生粋の軍人である彼にとっても、この度の撤退令は意に反するものであり、ますます視線と声は鋭さを極め、切先の尖った槍のような鋭利さで宰相閣下を突き刺す。


「そうだ。これは極秘事案であり王国を攻めるのは火急を要する。第一にエルフの殲滅、第二に北の国の平定、そして第三にラ・パディーン王国の平定を陛下は望んでおられる。ドワーフの国はあと十年程かけて徐々に弱らせればよい。既に外交戦略上の孤立や、他国との輸出入の遮断による経済制裁、さらにはこちら側からの度重なる領土侵攻によるドワーフの民心の不安を煽る事にも成功している」


 これは事実だ。この宰相閣下は外交と謀略に対する手腕は他の追随を許さない程に有能である。

 その飛び抜けた能力のおかげでドワーフ国を年々弱体化させてきた。


「そして…ドワーフ国を滅ぼす上で、必ずラ・パディーン王国が邪魔になる。今のところヨハン中将の主導で人族至上主義を根付かせる諜報活動により、両国間には互いの種族を忌み嫌うように誘導させている。王国内に潜り込ませているアサエル中将の諜報部隊には、一年以内にドワーフ国を攻めるように仕向けるまで事を運ぶ。さすればいずれ隣国同士で互いに攻め合うようになる。両国が攻め合い疲弊している間に、我が帝国は来たるべき次なる戦争に備えて準備をしなければならない。ウッドストック少将にはラ・パディーン王国と隣接する我が帝国領内の統制、ロクセ准将には兵糧及び戦争に必要な物質全体の監督を任せたい」



 王国内に蔓延る人族至上主義は帝国による謀略でした。

 ロクセの言う数字には彼なりの意味があります。

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