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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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新たなる旅

「よっ、どうやらお目覚めのようだな。今日はぐっすりと寝れたみてーじゃねぇか」


「ん…おはよう、ヨゼフ」


 ふわぁ〜っと大きな口を開けて欠伸(あくび)をしながら、抜けない眠気と共に朝の挨拶をそこそこにこなす。

 昨日は朝早くに起きてしまったのもあってか、朝の気怠さはいつも以上で頭がボーッとする時間もちょっと長い。

 

「随分と眠そうだな。まぁ、無理もないか。昨日は人一倍張り切って飯を作ってくれたしな。改めて美味かったぞ。ありがとうな」


 ポンポンと頭を撫でられて、ようやく眠気が覚めるのを実感しながら、朝一番から褒められた満足感に幸せな気分になれた。

 …今日は何だかとってもいい一日になりそうだ。我ながら御都合主義である。


「今日の朝飯は昨日の鍋の残りだ。パパァッと食って準備を済ませろよ。全員起きて作業をしているからな」


「………えぇッ! もしかして僕だけ起きるのがまた遅かったのッ!?」


「あぁ、またイレーネの小言が待ってるだろうよ」


 しまったなぁ。また深く眠りに着いてしまったようだ。

 日本にいた頃は疲れが溜まっていても早起きは苦じゃなかったんだけどなぁ…。

 何でかこの世界に来てからは変な夢をみたり、急に夜中に目が覚める事もあれば、睡眠の時間が長くなってしまう事が多々ある。

 身体が緊張しているのかなぁ…。


「ごめんなさい。すぐに起きるよ」


 身支度を整えて広間に向かうと、ちょうどイレーネが僕の朝食の準備をしてくれていたようだった。


「おはよう寝坊助(ねぼすけ)さん。今日はぐっすり眠れたようね」


「うっ…おはようイレーネ。今日も朝から調子が良さそうで何よりだよ」


「ふふ…お互いにね」


「…あれ? みんなはどこにいるの?」


「クワンの指示で竹の苗とかジャガイモを掘りに行っているわよ。あとコメ? とかいう物の古い種だかを持っていくために荷物を纏めているわ」


 おぉっ! 流石クワンさんだっ! きっとアレらは非常に役立つと思うんだよね。


「ほら、ちゃっちゃと食べてすぐに行くわよ。今日は山の麓にある村まで目指そうって話しだから、早く移動しなきゃいけないみたい。私はアイリーン達にご飯とお水をたっぷりあげてくるわね」


「わかった。ありがとうイレーネ。すぐに追いかけるよ」


 心のうちで神様にお祈りをし、それから朝食に預かった。

 温めてくれていたポトフは一晩置いた事で味に深みを増しており、とても美味しかった。

 ジャガイモに野菜やお肉の出汁が染み込んでいて、朝から贅沢なご飯を味わえて非常に満足だ。

 今日も一日頑張ろうと思える活力が(みなぎ)ってくる。


「お、カイ君も起きたようだね。昨日は寝られたようで何よりだよ」


「おはようクワンさん。遅くなってごめんなさい」


「気にしないでくれ。その分この先の旅での多分な活躍をしてくれる事を願っているよ。わっはっはっはっは!」


「ど…努力します」


 起きるのが遅くなったのを条件に妙な期待が肩に乗せられてしまったけど、そこまでの期待には応えるのは難しいと感じ、生乾きの返事でかえした。


「カイ、おはよう。昨日のジャガイモを取ってきたよ。芋なら何でも大丈夫だった?」


「おはよう、ドーファン。うん、大丈夫だよ。とりあえず沢山持って行って、実際に植える前の準備段階で選別すればいいと思うよ」


「それなら安心した。大きめの麻袋がいっぱいになるくらいには収穫したよ。初めてやってみたけど結構楽しかった!!」


「それは何よりだよ。本当に良かったね…ドーファン」


「うんっ! これもカイのおかげだよっ!!」

 

 破顔して笑みを溢しながらも指先で自分の耳朶(じだ)を摘みながら、恥ずかしさを誤魔化していた。

 …よっぽど嬉しかったようだ。自分の手で日々の糧を収穫出来る喜びを、彼はこの世界に来て初めて味わえたのだから。


「さて、そろそろ行こう。麓まで行ければ泊めて貰えるかもしれない」


 急かすように言いながらも、自身はこれまで愛用していた机に向かい、積み上げられた竹簡の山に名残り惜しそうに手を置く。


「……当分、見納めになるな」


 目を閉じ呼吸を深く吸い上げ、息を吐き出すまでの僅か数秒の間。

 郷愁たる想いを胸の奥へと追いやり、新たなる日々への決意を固めた。


「行こう。まだ見ぬ未来の先へ」


 スラリと伸びた長い黒髪を後ろで一つに結ぶ。…たったそれだけの動作だ。

 それなのにクワンさんへ抱く印象は、多くの者の尊敬を集めるだけの威風が纏う。


「随分と機嫌が良さそうですね、クワンさん」


「フッ…カイ君の目にそう見えたのなら、きっとそうなのだろう」


 平然とした普段通りの仕草の中で、何も言い返そうとしなかったのは本人も自覚しないところであった。

 それだけで彼がいつもの飄々とした装いを忘れる程に、余裕もなさと共にいつにもない真剣さが伺い知れる。

 家を出る時にはみんな勢揃いしており、黒雲達も準備万端で待機していた。


「待ってたぞ、カイ! さぁ、行くぞ!」


「うむ。新たな出逢いが楽しみじゃな」


「ですね。これからどんな事が待ち受けているのやら」


 ハイク、キャロウェイお爺さん、ズゥオさんは待ち侘びていたようで、これからの旅路に想いを馳せていた。


「みんな、お待たせ! …じゃあ、ドーファン」


 掛け声の合図を振ると、こくりと頷いて号令を放った。


「……よーし、出発だぁッ!!」


 昂揚感に満ちた澄んだ声は人知れずの僻地に(とどろ)き、全ての者の気持ちを一つの未来へと収束させ結束を深める一声のもと、活気溢れる歩みを踏み出したのだった。



 投稿遅くなりました。

 新しい語彙を増やそうと努力しておりますが、なかなか進歩出来ず心苦しい限りです。

 今後もお読み頂いている方々のご期待には添えない展開の遅さもあるかと思います。

 恐らく物語上、展開が前進するのはまだ先になりそうです。

 全てを書き切るためには数百万文字はかかるつもりで書いております。

 長い目で見守って頂けるなら幸いです。

 

 次は帝国側のとある誰かの視点です。

 

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