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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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訓練

 父さんと別れてハイクとの訓練をしに行く。ハイクとは近くの森で訓練だ。森の中に自作の武器を隠していて、それを使って訓練している。


「よし、今日もやるぞ!」


「なんだ? カイ、やけにやる気じゃないか。まぁ、俺も今日はやる気十分だぜ! さぁ、早速始めよう」


 ハイクはまだやる気の熱が冷めていないようだ。

 僕はハイクと違って、父さんの言っていた、特別な食事が楽しみで頑張ろうとしてるから動機が違うけど…。

 純粋なやる気を見せてるハイクに、心の中で謝っとく。


 まずは、木刀を使っての対人での打ち合い。木刀と言っても森の中に生えている木を、ちょうどいいサイズに切って、それを木刀モドキとして打ち合うような感じだ。

 ただ、一日中お互い身体を動かしっ放しなので、そこまで本格的には打ち合わない。

 どちらかというと一つ一つの動作を確認しながら、ゆっくりと行う型稽古のようなものをメインにしている。  


 時々、お互いに体力が残っている時(僕の体力が残っている時)は、本格的に打ち合うけれど、ハイクには惨敗してしまう。

 木刀を振り下ろす速度がまず違う。ハイクの木刀を上手く受け止めることが出来ても、ハイクの筋力によって振るわれる木刀によって大抵飛ばされる。


 ハイクには“カイは力を入れ過ぎだよ。力み過ぎだ。振る時に『ここだっ!』 ってとこで力を入れるんだよ”って言われるけど、僕にはよく分かりません。

 ハイクのように何でも感覚でこなせるようなタイプの人は羨ましい。


 僕は何度も何度も同じ動作を、普通の人より何倍も練習して、ようやく人並みに至れる。楽器にしても走ることにしてもそうだった。

 中学生の時は努力すれば結果が出ることが嬉しくて、寝る間も惜しんで練習に練習を重ねた。

 今やっている訓練も最初は全く持ってダメダメだったけど、最初の頃に比べると雲泥の差だ。

 多分、このゆっくりと行う型稽古が、自分の中で動きの動作がどういうものかを考えながら行えるので、自分には合っていたみたいだ。


「うん、木刀の修行はいい感じだな。カイもゆっくりな動きの中でも、流れるような動きでいいじゃねぇか」


「ありがとう! ハイクに褒められると自信がつくよ。次は槍をやろう」


 次は槍。槍だが多くの人が想像するような槍の使い方じゃない。

 槍というと刺すイメージが強いが、戦国時代においては槍は敵の頭上に目掛けて振り下ろす、叩き落とす使い方の方が多かった。

 槍モドキで叩き落とす練習をしているが、頑張って長さは五mの物を叩き落としているっ!

 残念ながらハイクのようにカッコよく叩き落とせないけど……。

 ハイクは叩き落とすと“バァンッ!” って周囲にも音が響き渡る。


 いつもの僕ならダメダメだけど…今日の僕は違う。

 なぜならこの後の食事が楽しみで、やる気に満ち溢れているんだ。

 さぁ、僕の槍捌きをとくとご覧あれっ!


「…はぁぁぁぁぁっ!」


 “ぽこっ”


「カイ……お前はまず、筋肉をつけような」


「わかってるよー!」


 自分の情けなさに思わず地面に大の字で寝そべってしまう。

 …はぁ、少しやる気が削げたので、ちょっと歴史のことを思い浮かべよう。


 …何かあるかなぁ。長槍かぁ……長槍の逸話だと、信長と斎藤道三の話しが思い浮かぶ。

 “尾張の大うつけ”と当時の信長は呼ばれていた。袖を外した浴衣に、半袴(はんばかま)という出立ち。

 腰に荒縄を幾つも巻き、火打ち石や瓢箪(ひょうたん)などをぶら下げ、髪は茶筅(ちゃせん)曲げという奇抜な格好をしていた。

 父親の信秀が亡くなり、その葬儀で、焼香を位牌に投げつけたエピソードは有名だ。そのため民衆からも大うつけと呼ばれ、隣国の美濃でもその悪名は広まっていた。

 美濃の大名で義父の斎藤道三も、もちろんそのことは聞き及んでいた。道三は信長が噂通りの人物かどうか試そうと、会見を申し出て、尾張と美濃の国境にあったとされる富田という集落の正徳寺(聖徳寺)で逢うことになった。

 道三は信長が兵を引き連れ会見場所に来るまでの道中、町外れの小屋で隠れてこっそりと見ていて、その軍勢に驚愕した。

 五百の兵が弓と鉄砲を持ち、五百の兵が六mを超える槍を装備して行進していたからだ。六mも越す長槍を扱うには普通以上の訓練が要求される。

 つまり、信長の軍はそれだけの装備と訓練の行き届いた軍であることを暗に示していた。


 会見場所で実際に二人が会った時、信長は普段の奇抜な衣装から、正装に着替え髪を整えて小太刀を腰に挿し、立派な装いで会見に臨んで道三をさらに驚かせた。

 会見が終わり、道三は家臣に“わしの息子らは、あのうつけ者の門前に馬を繋ぐだろう”と自身の子供達が、信長の配下になることを予測して、実際に美濃の国は道三亡き後、信長の手に落ちた。


 道三の先見の明は、なかなか素晴らしい。一介の僧侶から油売り商人となり、そこから武将に転職して大名になるという下剋上を成し遂げた。(はかりごと)でその地位を手に入れた人物は、見る目が先の先を見ている。

 この話しで面白いのは、尾張では“うつけ者”と呼ばれていたが、美濃では“たわけ者”と、より侮蔑(ぶべつ)された見方がされていた。

 自分達より格下に見ていた相手に、領土を支配下に置かれるというのは美濃の人達にとっては晴天の霹靂(へきれき)だったに違いない。


 これだけの長さの長槍を扱うように訓練し、組織した信長は本当に凄い。

 だが、信長よりも約二千年も前に、アレキサンダー大王の父親のフィリッポス(ピリッポス)二世は五.五mのサリッサを軍に取り入れていた。

 怪物のアレキサンダー大王の父も天才だったんだよね。……凄まじい紀元前の人達だよ。


「おい、そろそろ立ち上がれ。次は弓だ、弓!」


「ハイクは本当に弓が好きだね」


「おう! この国にいる以上、馬と弓は上手くなるに越したことはないからな。それに個人的に弓が好きだしな」


 弓モドキも自分達で作って、木に的を書いて射つ練習をしている。

 これに特に力を入れている。僕の場合は単純に非力で接近戦に自信がないからだ。

 弓なら距離が離れていれば、自分の腕次第で剣や槍よりも危険を侵さずに敵を排除出来る。そんな状況にならないのが一番だけどね。

 そういう僕のリスク回避脳とは違いハイクは弓が好きだ。ハイクは弓の才能があるのだと思う。ほとんど的のど真ん中に近い所に射つことが出来ている。今からでも将来は有望だね。


 ピュンっ、……ピュンっ、ピュン、……ピュピュン


 えっ、ハイク最後二連射してた! どうやったらそんなことが出来るの? 

 …意味が分からない。僕も負けじと挑戦してみたけどダメだった。やっぱり向き不向きはあるから仕方ないかなぁ。もうちょっと弓が上手くなったらやってみよっと。


 こんな風に二人で訓練をしながら、陽が落ちるギリギリまで毎日行う。

 他にも筋トレしたり森の中を持久走したりと、その日のテンションや体力の様子を考えて、何を行うか二人で出し合って決めている……僕の体力を優先で。

 畑仕事を終えた後からの日没なので、そこまで時間はないけれど何もしないよりはマシだと考えずっと行い続けている。


「おっ、もう陽が大分沈んできたな。もう今日は帰るか」


「そうだね。それに今日は帰ったら、何か良いものがあるみたいだから楽しみなんだぁ」


「あれ? カイん家もか。俺も父ちゃんに何か楽しみにしとけって言われたぞ。なに言ってたか分かんなかったから、気にしないでこっちに来たけど」


 気にしてあげてっ! 

 ハイクの父さんも僕の父さんと同じで喜びながら言ってたはずだ。

 それを悪気もなく喜びも見せずにハイクはこっちに来たんだろうけど、少しハイクの父さんが可哀想に思えてきた。

 でも、気になることもある。


「えっ、ハイクも? …なんだろう。ひょっとしたら、イレーネもかな……。まぁ、帰ってみれば分かるか。よし、じゃあ帰ろうっ!」


「おうっ!」




 斎藤道三ってかなり面白い生き方をしてますよね。簡単な紹介で詳しい経緯を省いてますが、下剋上と言えばこの人って呼ばれる一人に数えられると思います。


 フィリッポス(ピリッポス)二世がいたからこそ、アレキサンダー大王は父親の作った基盤を元に、領土拡大が出来たんじゃないかなって思います。調べてみると、当時では稀に見る改革を行なっています。

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