表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
220/409

竹と風呂に関する風習

 外に再び出てみると辺りには朝の明るさがすっかり訪れていた。

 しかし、陽が登って間もない事もあってか、その豊潤な陽射しの源である太陽の姿はまだ確認出来ていない。恐らく日中になる頃には見えるのだろう。

 …明るくなって初めてわかった。この地の岩壁は思った以上に高く、まさに断崖絶壁がこの家と僅かな土地を囲うように高く高く(そび)え立っていた。

 なぜだろう……。あの洞窟に入る前に見た時よりも崖が高く見えてしまうのは。


「ふふーん、どうやらヨゼフ君とカイ君は気付いたようだね」


 クワンさんは嬉しそうにこちらの様子を見遣(みや)っていた。

 隣で同じく天を見上げていたヨゼフはすかさず問う。


「…なぁ、何で崖があんなに高いんだ? 俺らが洞窟に入る前に見た崖はもっと低かったはずだぞ。それは間違いない。ズゥオが俺らの前に現れた時にも、崖の高さを見上げて確認していたからな」


 確信を持ちながら尋ねるヨゼフは、ついつい問い詰めるような口調になっていたが本人は気付いていない。

 鼻で笑いながらも自慢するかのように、クワンさんはその謎について答えを披露してくれた。

 

「それはね…君達はあの洞窟の中を(くだ)っていたからだよ」


「「「「「降っていた?」」」」」


 キャロウェイお爺さん以外は疑問の声を上げた。

 うん? そんな感覚はなかったけどなぁ…。


「まぁ、入って来た時は気付かないだろうね。だけど、ここから出て行く時に間違いなくわかるよ。あの洞窟を再び潜れば、行きと違ってかなりの体力を消耗するだろうからね。君達も洞窟を潜ってたのに不思議に思わなかったかい? "どうして洞窟を進んでいるのに、そこまで疲れていないのだろうって"」


 ハッ…言われてみればそうだ。

 僕達は山賊に追われて疲れ切っていたのに、洞窟に入ってからは最初に想定していた以上の体力消耗はなかった。

 鍾乳洞などにも以前の世界で潜った事があった。

 ほぼほぼ自然なまんまの洞窟を潜った時、一番疲れたのは登り勾配の斜面を進んだ時だった。

 夏でも涼しく、岩肌も滑りやすかったから印象深かったためによく覚えている。

 逆に降りはスイスイと進んでいけたから、時間もさほどかからずに進めたんだ。

 富士山の往復路でも同じような現象が起こる。

 降り道というのは自分の想定以上に、そんなに時間も体力も負担もかからずに前進出来る。


「君達はゆっくりと緩やかに降っていたんだ。不思議な感覚だろう。だが、それを裏付けるものがある」


 そう言って先頭を歩いていたクワンさんは、肩越しにこちらを覗きながら両手を大きく広げて注目させる。


「それを証明するものがこれだ。この道の両脇に生えている"竹"と呼ばれる植物の繁殖するだけの標高でもあるんだ。君達が入って来た洞窟の手前でこの植物を見たかい? これは標高が高すぎるとその繁殖力の割になかなか生存が出来ないんだよ。標高が高くても育つ種はあるがね。私のいた前の世界でよく生えていたから、竹の生態にはこれでも詳しいんだよ」


「へぇー、クワンさんのいた国では一般的な植物だったんですね。昨日は暗くてゆっくりと見れませんでしたが、やはりボクのいた以前の世界では見た事がない植物です。…興味深いです」


 竹は温暖な気候で育つ植物だ。

 十九世紀になってからヨーロッパにも伝えられた。

 この国に竹は生えていないのかな? 

 せっかくこんなに生えているんだ。何かに使えないだろうか……。


「場所の説明はこのくらいにしよっか。さて、本題のカイ君の知りたい話題というのは、実は私も興味があるんだ。この世界に来てから不思議に思って色々と探っていた。ぜひドーファン君の見解も知りたくてね」


 少しだけ何やら不可解そうな面持(おもも)ちを見せながら、その話題について切り出した。

 この国に来てから耳にしていた風習とやらはずっと気になっていた。

 どことなくだけど…なぜかそれを知っているような気にもなっていたから。


「そもそも風呂に関する風習は私にとっては疑問だよ。朝に風呂は入る場合もあるけど、一部の界隈では基本的には風呂を入らない事が美徳とされているなんてね」


「…えっ!? お風呂に入っちゃいけないのッ!!」


 驚きの声を上げたのはイレーネだった。

 まさかそこまで酷い認識が美徳とされているなんて……。


「そうなんです。ここ最近では貴族達の間にも、その傾向が見られてきています。何でもお風呂は贅沢品だから欲が強い事の現れだと…ボクのいた以前の祖国フランスでも、同じような理由でお風呂に入るのは推奨されてはいませんでした」


「はぁ? 何だそれ? そんなのばっちーじゃんか」


「……俺のいた国とは信じらんねぇ差だとつくづく思う。もちろん、俺はそんな風習に染まらねぇけどな」


 ヨゼフのいた古代イスラエル人達は、とても綺麗好きな国民だった。

 神が古代イスラエル人に与えられた指示の中に、陣営の外に出て穴を掘ってから排泄をし、その穴を再び土で覆うようにというものもあった。

 ドーファンもといシャルルの時代には、二階の窓から糞尿をぶち撒けるという現代人では考えられないのが当時の常識だった。

 古代の時代より時を刻み中世という時代に至っても、優れた文化や風習が廃れる事もある。

 例えば古代ローマの公衆浴場の文化は廃れる一方にあり、フランスでは特に顕著だった。清潔に関する常識の変化があったからだ。

 その常識の変化にはある事が大きく起因している。


「でも、キャロウェイお爺ちゃんの宿屋で私達はお風呂に入ったわよ?」


「それはな、イレーネ。儂もヨゼフと同じようにそんな風習に惑わされていないからじゃ。それに、あの御方…ドワーフの王も風呂が好きじゃしのう。儂としては…ドーファンが風呂に入ったのが意外だったがのう」


 立派な顎髭を撫でながら、キャロウェイお爺さんは興味津々な様子で呟いた。

 へぇ、ドワーフの王様もお風呂が好きなんだ。日本出身の僕としては気が合いそうだね。


「入らない訳ではないんです。それに…みんなもお風呂に入ってボクだけ入らないのは、ちょっと寂しかったというか…」


「仲間外れが嫌だったのね」


「う……そ、そうです」


 ちょっと恥ずかしそうに告げ、繊細な心の内を明かしてくれた。

 …ふふ、何だか可愛げがあってより親近感が湧いてくる。


「それから、朝食の文化もどうかと思うのだよ。朝食を食べるのは農業などの重労働に努めているものだけで、基本的には朝食は食べてはならないという不思議な風習が蔓延(はびこ)っている。それも欲がなんだと叫ばれているが、一体この国の文化はどうなっているんだ?」


 次の話題に対する疑問を口にしたクワンさんの表情には、困惑と呆れの感情がグッと濃縮されたような苦々しげな様相を呈していた。



 竹の種類を調べるとなかなか面白いかったです。

 千m以上の標高で育つ種の竹もあるようですが、基本的には標高が高過ぎると育たないようです。


 お風呂と朝食の文化の理由付けもようやく明らかになってきています。

 次でその根本原因に突き止めます。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ