臣下
脳の働きを一時停止させるだけの内容だった。
………えッ!? ズゥオさんがドーファンに仕えるって言ったのッ!?
「あわわわわわ……ど、どうしよう…カイ。今…ズゥオさんが信じらない言葉を言ったような…」
僕だけでなくドーファンも動揺のあまりしどろもどろな動きを取りながら、僕の袖口を掴んで落ち着きを取り戻そうと僕を頼った。
ふと、視線を感じてそちらを見ると、ズゥオさんが意味深な視線を送りながら目配せをした。
……あっ! 援護射撃! 口利きだっ!
「ドーファンっ! 良かったねっ! ズゥオさんがドーファンの味方になれば百人力…千人力、いや…万人力だよっ! 伝説の将軍が仲間になるんだっ! ここまで来た甲斐があったじゃないかっ!!」
ガシッと肩を掴んで早速説得にかかる。
よし、ここはズゥオさんのためにも…ドーファンのためにも仲を取り纏めなければッ!
「う、うん…それはそうだけど…ズゥオさん大丈夫かな? ほら、クワンさんがいるじゃないか。起きた時にボクに仕えるなんて知ったら、ズゥオさんを取られたなんて言わないか心配で…」
確かに文句は言いそうだなぁ。クワンさん。
“勝手に私のズゥオを取ったッ!“
……なんて言いそうだよ。今から何て言い出して怒るのか怖くなってきた。
「大丈夫です。私との約束があります。あの御方は約束を違える方ではありません。快く承諾してくれる…はず?」
「ズゥオさん、語尾が疑問系になってますよ」
そこまでの自信に満ちていない答えが、なおさらクワンさんの反対する未来への現実味を帯びさせた。
……うーん、何かいい方法がないかなぁ。
せっかくズゥオさんがドーファンの味方になってくれるまで事態が好転したのに、あのクワンさんをどうにかして説得するのは非現実的に思えてならない。
どうにかして実現させてあげたい。
けど、クワンさんの説得はさぞ骨が折れるだろうなぁ……。
…説得…”説得“? …ッ! そうだッ!
「ドーファン、発想の転換だよっ! 一緒にクワンさんも説得するんだっ!」
「クワンさんもって……うん? ”も“? それってまさか…」
「そう! クワンさんにもドーファンの味方になって貰えるように説得するんだっ! そうすればズゥオさんがドーファンの臣下になるための説得なんてする必要がなくなるし、クワンさんという心強い味方が出来るんだよっ! 一石二鳥だよっ!」
興奮交じりに力説すると昂揚した気持ちまでもが伝播し、ドーファンも流暢な口振りを抑えきれなくなった。
「それだよッ! カイッ! クワンさんは凄腕の政治家って評判の人物だッ! 一緒に来てくれればこの国の内政もさぞ安定させられ…」
「心地良い気分のところ失礼。水を差すようで恐縮ですが…恐らくクワン様の説得はかなりの難しいものになると思われます」
「「えぇッ!?」」
思わず目を見開きクワンさんを凝視し、その真意を探るような目付きになってしまう。
こちらの意図を汲み取る以前に、包み隠さずズゥオさんは理由を語ってくれた。
「クワン様は気難しい方なのはご存知でしょう。一筋縄ではいきません。あの方は公国に仕えていた理由は一つです。公国を統治していた大公が御し易い人物だったからです。何かしらの強い想いがあった訳ではありません。この世界で生き延びるために転生した地で何気なく国に仕えたら、たまたま重んじられただけと言っておりました。今さら国に仕える気概も熱意もないでしょう」
「そ、そんなぁ〜」
ぷしゅ〜と擬音が鳴ったかのように、パタリと失意に駆られて全身を脱力感が襲った。
くぅ…良い案だと思ったんだけどなぁ。
「……しかしながら、もしかするとクワン様から出される質問に答え、それがクワン様の望まれる回答であれば、仕官の要請にも応じられるかもしれません」
「ほ、本当ですかッ!?」
ドーファンは藁にも縋る思いで、再び熱い視線をズゥオさんに送った。
「えぇ。私もその質問に答え、クワン様に認めて頂いたお陰で私は将として引き上げられましたし、ある程度の軍事における権限は与えられましたから。元は私は一兵卒でした。その私をクワン様は重用して下さったので、国に仕えつつも私はクワン様の臣下だった訳です」
一体どんな質問なのだろう。ズゥオさんを重用するようになったきっかけとなる質問って。
「クワン様は自身では謙遜されますが、ある程度の軍事への理解もあります。そして、クワン様は戦争において第一に求める条件があります。それを理解されない方とは手を組もうとはされません」
「第一に求める条件…」
「そうです。クワン様は皆様の事をある程度は認めておられるので、恐らくこう質問をされるかもしれません。"戦争で一番大事なものは何か"と」
そのうち外伝としてクワンとズゥオの公国に仕えていた時の話しも書きたいですが、今は本編を進めさせて頂きます。




