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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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伯爵

「…だ、誰ッ!?」


 慌てふためいた声は虚しく響き、すぐには返事は得られなかった。

 だが、無言の返答はすぐにあった。

 その声の主はこちらに向かって歩き出し、どこにいるかを明らかにする。

 

 竹林の奥から枯れ果てた草木を踏み締める音が聞こえてくる。

 踏み締める足の音色はこちらに近づく度に大きく膨れ上がり、一歩…また一歩と近づいてくる度に緊張を生み出す。


 闇夜に(まぎ)れた深緑の竹林の中から、その人物は姿を現す。


「………ズゥオさん」


 月明かりの下に(さら)されるまで、寡黙とゆっくりとした動作を貫いたまま迫ってくる。

 こちらの動揺とは反し静かな(たたず)まいだった事が、かえって僕とドーファンの血流を氾濫した激流の川のように変動させる。

 先程までの、せせらぎの川の音色が聞こえるような軽快な雰囲気ではなくなった。

 自身の鼓動の音が鮮明に高鳴っているのを自覚出来てしまうくらいにまで(おちい)っている。


「まずは謝意を表します。聞き耳を立ててしまった事をご容赦願いたい」


 右手の拳を左手の掌に当て、そのまま深く頭を下げた。

 ……やっぱり聞かれてしまっていたのか。

 

「…ズゥオさん、どこまで聞いてしまいましたか?」


 冷静に何とか声を振り絞って出たのは状況の確認だった。

 最後の方をチラッと聞いているだけならば、そこまで問題はないんだけど…


「最初から最後までです。お客人が外に出て行かれたのを心配になり、こっそり後を付けさせて頂きました」


 …もう弁明の余地もない状況だった。

 誤魔化しようもないし、何をどう言えばいいのか頭の中で考えをグルグル回転させてはみたけど、適切な決断はすぐには下せない。

 ど、どうすればいいんだろう……。


 すると、突如ズゥオさんはドーファンの前に近づき、膝を屈して片膝を地に着き、ある種の礼節に(のっと)りつつ、さっきよりも頭をさらに低く下げた。

 

「……そして、これは今は亡き我らが公国の者…全てに代わって貴方への感謝を。貴方が王太子であられた時、先代のラ・パディーン王国の国王に対し、我らがいたドヴァネーマイン公国への援軍の派遣をひたすらに訴えておられたとお聞きしています。この国の現国王へ熱烈な感謝の意を表します───王」


 頭を下げたまま驚愕の内容を口にした。

 へ? ドーファンが援軍の派兵を訴えていた? そんな話しは聞いてないけど……


「あ、頭を上げて下さいっ! ズゥオさんっ! 一体誰からその話しを…?」


 慌てたふためきながら何とかズゥオさんの頭を上げさせようと、一際目立つ頑強な肩を叩きながらドーファンは語りかけた。

 すると、ズゥオさんは首筋に力を込めつつ視線を真っ直ぐにドーファンを見据えながら、こう言ったのだ。




「ここの領地を治める伯爵様です」




 

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