謎の解明 十 ドーファンの最後の条件
「ところでカイ、いつまでそんな格好しているんだい?」
べたっと力が抜け落ちていたままで、全く全身に力が入りそうになかった。
自分の思った以上に力んでいたらしい。
「えへへ…どうやら腰が抜けてしまったようだ。僕を立ち上げらせてくれるかい? ドーファンの右手でね」
「…全く。一緒に立ち上がってくれってあれだけ熱弁を振るっていたのに、もうその態度かい?」
おちょくるドーファンはそう言いながらも、すぐに右手を差し伸べてくれた。
小さな手の割に…その手はやけに頼もしく想えた。
……あぁ、彼の手に託して間違いでなかったと確信を持てた。
「これでいいんだ。僕がダメならこうやってドーファンが右手を差し伸べてくれる。ドーファンが倒れ込んだ時は、必ず僕が手を差し伸べるからね」
差し出された手を掴みガッと起き上がる。
無論、僕だけの力じゃない。
むしろ僕の立ちがろうとする力よりも、ドーファンの手にはかなりの力が込められており、傍から見ても気合いを入れてくれていたのは明らかであっただろう。
「相変わらず君の語る唇は滑らかで巧みで……そしてズルいや…」
恥ずかしそうに頬を赤らめながら、聞こえそうで聞こえない声量で呟く。
でも、しっかりと聞こえてしまったからには、こう言ってしまいたくなる。
「はははっ! それが僕の得意なところであろうからね。誰かを言いくるめる時があれば力になるよっ! ドーファンっ!」
半分冗談、半分は過信しながらの発言であった。
しかし、それはすぐに裏目に出る事をこの時ばかりは予想もつかなかった。
ドーファンは喜びの声を上げて、前のめり気味に口を開いた。
「ほ、本当にッ!? いやぁ〜、助かるよッ! 流石カイだねッ! どう話しを切り出すかずっと考えていたけど、君からそう言って貰えるなんて〜」
「…えぇッ!?」
やたら気分が高揚しているドーファンについていけず、というか話しの流れに置いてきぼりになっていた。
続け様に喜びの理由を語った。
「僕から出す最後の条件はこれだッ! 一緒にギルド長と話しをして、一緒に“怪物”がいると言われる場所に行けるように説得して欲しいんだッ! そして一緒に旅をして欲しいッ!」
「それって条件が二つになってないッ!?」
思わず突っ込まずにはいられなかったが、他にも色々な心配事を尋ねる。
「ねぇ、ドーファン。王都に早く戻らなければいけないんでしょ? それなのに僕なんかと“怪物”がいるって言われる地に旅をして大丈夫なの? 君が友達を探している強い想いも理解出来るけど、王都に戻らなければいけない理由って、何か他にも理由があるんじゃないの?」
「…うぐッ! す、鋭いねぇ…カイ。その通りだ。ちょっとした悩みの種があるんだ……」
顔を曇らせながら正直に彼は打ち明けてくれた。
しかし、そのまま素直なままではいてくれなかった。
「これから王都までの行く先々で理由がわかる。多分…噂になっているだろうから。今回はそれを確かめるためにも自分の目と耳で知りたいんだ。どこまでその噂が広がっているかね」
「……随分と抽象的な言い方だね。まぁ…ドーファンがそこまで言うのを躊躇っているんだ。その噂は良くない噂で言いにくいものなんだろうね。これ以上は問い詰めないであげるよ。……それから先程の返答だけど…こちらからやらせて欲しい。友達の力になりたいって気持ちも勿論だけど、ギルド長と“怪物”と呼ばれる何かも気になるしね。……逢えたらいいね、ドーファン」
怪物と呼ばれるモノが何なのか…その答えはわからない。
ただ、そこに友の望みがあるのなら、望んだ景色を見守りたいという気持ちが強かった。
……僕も逢ってみたい。僕もそう望んでいる。救国の英雄の片割れに逢いたいと。
「ありがとう…カイ。助かるよ。僕達は本当の仲間であり友達だ。これからも…ずっと……ずっとよろしくね」
お互いの出す条件を全て快諾し合い、笑顔を浮かべ、手を取り合えた。
流れる空気は和やかで、これから先の未来も上手くいく…そんな気になれた。
そう…思っていた。
「………興味深いお話ですな。ぜひ私も加えさせて頂きたい」




