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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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謎の解明 十 ドーファンの最後の条件

「ところでカイ、いつまでそんな格好しているんだい?」


 べたっと力が抜け落ちていたままで、全く全身に力が入りそうになかった。

 自分の思った以上に(りき)んでいたらしい。

 

「えへへ…どうやら腰が抜けてしまったようだ。僕を立ち上げらせてくれるかい? ドーファンの右手でね」


「…全く。一緒に立ち上がってくれってあれだけ熱弁を振るっていたのに、もうその態度かい?」


 おちょくるドーファンはそう言いながらも、すぐに右手を差し伸べてくれた。

 小さな手の割に…その手はやけに頼もしく想えた。

 ……あぁ、彼の手に託して間違いでなかったと確信を持てた。


「これでいいんだ。僕がダメならこうやってドーファンが右手を差し伸べてくれる。ドーファンが倒れ込んだ時は、必ず僕が手を差し伸べるからね」


 差し出された手を掴みガッと起き上がる。

 無論、僕だけの力じゃない。

 むしろ僕の立ちがろうとする力よりも、ドーファンの手にはかなりの力が込められており、(はた)から見ても気合いを入れてくれていたのは明らかであっただろう。


「相変わらず君の語る唇は(なめ)らかで巧みで……そしてズルいや…」


 恥ずかしそうに頬を赤らめながら、聞こえそうで聞こえない声量で呟く。

 でも、しっかりと聞こえてしまったからには、こう言ってしまいたくなる。


「はははっ! それが僕の得意なところであろうからね。誰かを言いくるめる時があれば力になるよっ! ドーファンっ!」


 半分冗談、半分は過信しながらの発言であった。

 しかし、それはすぐに裏目に出る事をこの時ばかりは予想もつかなかった。

 ドーファンは喜びの声を上げて、前のめり気味に口を開いた。


「ほ、本当にッ!? いやぁ〜、助かるよッ! 流石カイだねッ! どう話しを切り出すかずっと考えていたけど、君からそう言って貰えるなんて〜」


「…えぇッ!?」


 やたら気分が高揚しているドーファンについていけず、というか話しの流れに置いてきぼりになっていた。

 続け様に喜びの理由を語った。


「僕から出す最後の条件はこれだッ! 一緒にギルド長と話しをして、一緒に“怪物”がいると言われる場所に行けるように説得して欲しいんだッ! そして一緒に旅をして欲しいッ!」


「それって条件が二つになってないッ!?」


 思わず突っ込まずにはいられなかったが、他にも色々な心配事を尋ねる。


「ねぇ、ドーファン。王都に早く戻らなければいけないんでしょ? それなのに僕なんかと“怪物”がいるって言われる地に旅をして大丈夫なの? 君が友達を探している強い想いも理解出来るけど、王都に戻らなければいけない理由って、()()()()()()()があるんじゃないの?」


「…うぐッ! す、鋭いねぇ…カイ。その通りだ。ちょっとした悩みの種があるんだ……」


 顔を曇らせながら正直に彼は打ち明けてくれた。

 しかし、そのまま素直なままではいてくれなかった。


「これから王都までの行く先々で理由がわかる。多分…噂になっているだろうから。今回はそれを確かめるためにも自分の目と耳で知りたいんだ。どこまでその噂が広がっているかね」


「……随分と抽象的な言い方だね。まぁ…ドーファンがそこまで言うのを躊躇っているんだ。その噂は良くない噂で言いにくいものなんだろうね。これ以上は問い詰めないであげるよ。……それから先程の返答だけど…こちらからやらせて欲しい。友達の力になりたいって気持ちも勿論だけど、ギルド長と“怪物”と呼ばれる何かも気になるしね。……逢えたらいいね、ドーファン」


 怪物と呼ばれるモノが何なのか…その答えはわからない。

 ただ、そこに友の望みがあるのなら、望んだ景色を見守りたいという気持ちが強かった。

 ……僕も逢ってみたい。僕もそう望んでいる。救国の英雄の片割れに逢いたいと。


「ありがとう…カイ。助かるよ。僕達は本当の仲間であり友達だ。これからも…ずっと……ずっとよろしくね」


 お互いの出す条件を全て快諾し合い、笑顔を浮かべ、手を取り合えた。

 流れる空気は(なご)やかで、これから先の未来も上手くいく…そんな気になれた。

 そう…思っていた。




「………興味深いお話ですな。ぜひ私も加えさせて頂きたい」



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