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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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謎の解明 九 ”歴史を紡ぐ“

 彼は無言のままだった。

 目を据えてこちらを見ているだけ…観ているだけ。

 そんな様子などお構いなしに、僕は自身の抱えてきた想いを語り出す。


「人の…ひいてはこの世界に産まれ落ちた全ての人類の未来をより一層繁栄させるには、この法はあってはならないんだ。かつての僕達のいた世界にあって、人類は愚かな過ちを繰り返してきた。…互いを知ろうと、手を取り合おうとしながらも……何度も何度も失敗してきた。…何千年とそれを変えようとしてこなかった」

「手に取るのは誰かの手ではなく誰かを殺すための武器だった…歴史はその繰り返しさ。君のように祖国を守ろうと必死になる人は(まれ)だ。人はただ、己が利益のために人を支配し、人を利用し…人を殺してきたのだから。そこに掲げる正義の旗など、最初から己が掲げるためのこじ付けの正義であったのを…僕は知っている」

「だからこそ、愚かな行いを繰り返さないためにも紡がなければならないんだ。…“人の本当の想いを”ッ! “人の本当の在り方を”ッ!! “人が手を取り合える世界の記憶を”ッ!!! ………偉そうに言っているけど…僕には何も出来やしない。誰かの助けがなけえば……誰か偉大な人の想いを抱く王がいなければね」

「それがドーファン…君だよ。君は人の感情がわからないと言う。けど…やっぱり君は人そのものだよ。見た目が違う誰とでも手を取り合える心の在り方と、大多数の間違った考えを抱く周囲に屈する事のない信念と、何より…誰かを守るために立ち上げれる心の強さを持っている」

「君こそが……人の想いを継承する最初の王になるべきだ。過去の王達、民達の想いを守ろうと必死に足掻(あが)いた君なら……その“ドーファン”という称号を最初に得た君にこそ相応しい………“ドーファン・ド・ヴェエノワ”ッ!!」


「……ッ!!」


 彼は目を見開いて一瞬全身が震えた。


 無慈悲な言葉のように思えたかもしれない。

 僅か十一歳でその地位を言われるがままに与えられ、その地位に見合う活躍を見せなければならなかった。

 周囲の期待を一心に背負った彼には、とても重過ぎた称号であったはずだ。


 だが、それでも僕は言葉にした。

 なぜなら彼が…彼自身がその名を名乗っているからだ。“ドーファン“…と。

 その称号から逃げるでもなく、彼は未だに自分の過去を背負い…向き合っている。

 なら、彼の心に訴えかけるためにも、この称号の意味と僕の望みの意味を重ね合わせて伝えようと試みた。




 “ドーファン・ド・ヴェエノワ”




 フランス国王の法定相続人という意味を持つ称号。

 歴史を紡ぎ相続する最初の役割を彼に担って欲しいという一心で、この世界を切り開く者として、一緒に世界に立ち向かって欲しいという想いを持って彼に訴えかける。



「……………」


 返事はない。だが、僕の伝えたい想いを汲み取ってくれているのはわかる。

 これまでのどの場面以上より長く、深い沈黙を持って熟考している。


 その決断によりもたらされる将来の王国の行末、他の国々との外交関係、この国の民達の未来を想定しながら。

 

 …月明かりが(しば)しの間、彼の答えを待ちきれないかのように、その白い頬を優しく撫でるように照らし、彼の表情をよりくっきりと映し出す。

 目を閉じたまま固まった眉間には深い(しわ)が刻まれ、表情と共に微動だにしなかった。


 こんな時に限って周囲の音もやけに静かで、繊細な音色がよく聞こえてしまう。

 (かす)かな衣擦れ(きぬず)でさえ、ピンと張り詰めた雰囲気により一層の緊張感を与え、過ぎ去る夜風が背中に伝う季節外れの冷たい汗を優しく撫でる。


 映し出されたドーファンの表情は、ふとした瞬間に転機を迎えた。

 自身の中で一つの結論を導き出し、顔はより引き締まり(うっす)ら光る白い肌に表情筋が隆起する。

 しかし、その結論の答えは表情だけでは読み解く事は出来なかった。

 強張った表情は共に歩もうとする決意の表明なのか、それとも同じ道を歩めない事への拒否感から出たものなのか、答えは彼の言葉に委ねるしかない。

 唇の口角が静かに上がり、決意の表情とは裏腹に…語る舌の響きはやけに穏やかであった。


 


「……わかった。その条件を飲もう。共に苦難の道を切り開いていこうじゃないか。この国に…この世界に新たな歴史の一つのページを刻もう……今日がその一番最初の日だ」


 


 そう言われた刹那、安心感に身体ごと包まれたような感覚になった。

 安堵がゆっくりと脳内に染み渡り、次の瞬間には全身を脱力感が襲った。

 一気に力が抜けて膝がガクッと折れ曲がり、お尻が地面にドンッと音を立てながら着地し、へろへろになりながらその場にべったりとへこり込む。


「……はあぁぁぁー良かったぁ〜ッ! 良かったよぉ〜ッ!!」


「…ふふ、そんな心配したかい? ぷふふ、心配し過ぎだよ。だって前にカイに言ったじゃないか。”歴史を紡いじゃいけないなんて僕も変だと思う“って」


「それとこれとは別だよっ! 思った事でも行動出来るかどうかは違うでしょっ! ドーファンにとっても大きな葛藤であっただろうしね…」


「まぁね…重大な決断だったよ。世界を敵に回すかもしれないし…(ある)いは……」


 口を(つぐ)み、その続きは語らなかった。

 けれど、僕はなんとなくドーファンが言いたい事がわかった。

 だから、その続きを言いたくなってしまった。


「世界も…そう望んでいるかもしれないね。なら、なおさら頑張って共に立ち上がろうじゃないか」


「……そうだね。そうであって欲しい……そう想っていて欲しいね」


 軽くお互いに微笑み合いながら、未来の在りし日の姿を僕らは想い描いた。




 もうドーファンが誰だかわかるだけの情報が出ましたが、もう少ししたら彼の名前も明らかになります。

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