謎の解明 八 “差別の撤廃”
意外そうな顔を浮かべた後、彼は顔を引き締め直して話しを切り出す。
「“差別の撤廃”……カイには関係ないものに思えてならないけど、どうして君はわざわざ条件としてそれを加えたんだい?」
「当たり前じゃないか。キャロウェイお爺さんのあの様子を見れば、“王都の風潮”っていうものの根底には、ある種への差別が含まれているのは明白だ。僕は差別は嫌いだ。後世の歴史もそれを否定している。……ドーファン、僕は誰かが悲しむ姿を見ながら誰かが喜ぶ世の中は間違っていると思う。それはたとえ種族が違ってもだ。それは君も同じ“想い”のはずだ」
“王都の風潮”…それは差別であると僕の中では断定している。
キャロウェイお爺さんは恐らく差別を受けていたのだろう。種族が違うドワーフだったから。
その背景があるからこそ、あそこまで僕達に怯えたように接していたんだと思う。
それに今までのヨゼフやドーファンの台詞からも容易に想像がつく。
ドーファンだって差別を嫌がっている。
かつてドーファンはキャロウェイお爺さんと初めて対面した時、キャロウェイお爺さんは怯えるように彼を見ていた。
だけど…彼はこう言ったんだ。
“ボクは王都の人達とは違います。ボクは貴方達とも手を取り合って歩むべきだと、そう信じています”……と。
これを聞いた時、一個人として立派な意見だと僕は感じたんだ。
他の人に靡かず、他者を想い遣る心を忘れずにいる在り方は心を打った。
…しかし、これにはもっと深い意味があると今ではわかる。
ドーファンの目線の意味は大きな意味を帯びていた。
……この国の王として。
「………君は本当に良い人だね。そこまで他人のために真摯に向き合える人はいないだろうね」
「他人なんかじゃないよ。僕にとってはキャロウェイお爺さんは大事な仲間だ。仲間のために行動しない訳がない。君だってそうだろう、ドーファン?」
くいっと口角を上げて“当然だろ”という意味を暗に伏して聞いてみた。
ふざけた内容じゃないからこそ、僕は彼の真意を聞きたかったから。
「…そうだね、もうこれは他人事なんかじゃない。ボク達が…他の人が……この国全体で向き合うべき問題の一つだ。…やるよ、カイ。ボクも仲間のために立ち上がるよ。多勢に無勢の王であっても、今はもう…仲間も友達もいるしね」
にっこりと微笑みながら三つ目の条件を快諾してくれた。
やはりドーファンも心根は同じ想いを抱いている。
けど、それは困難な道であるの事を彼は仄めかした。
多分、王都では僕の想像以上にその風潮が根付いているのだろう。
「多勢に無勢か……前に言ってたっけ。“食べられない程に固ければ、周りの人も食べようと思わないのになぁって。それに内側まで固ければ安心出来るというか”……ってね。この意味も今ではわかるよ。ドーファンは帝国に攻めらえようとしているこの国の現状と、自分の周りの味方の少ない状況、そして周りを取り巻く派閥の争いや王都の風潮という難題を抱えた環境を比喩して、あの黒パンを眺めながら独り言を呟いていたんだね。だからこそ、内側まで固く結束した未来を想い描き呟いてしまった…僕が聞いちゃったけど」
「よくそんな事まで覚えていたね。……カイの言う通りさ。ボクはそれら全てをあの黒パンで表現してみたかったのさ。…語るに落ちるとはよく言ったものだよ」
「ふふふ…大丈夫だよ。その未来を僕達の手で形にしようじゃないか。…その未来の中には、キャロウェイお爺さん達…ドワーフの力は絶対に必要になる。この国にとって、この世界にとっても。彼らの持つ技術は必ず人類の発展に貢献する。人類をより豊かにさせるのに“差別”なんてものは必要ない。必要なのはお互いを受け入れる心だ」
「……あぁ、その通りだ」
決意の余韻をゆっくりと想いに染み込ませながら、ずっと誰かに伝えたかった想いを…ハイクとイレーネ以外の誰かに聞いて欲しかった想いを紡ぎ出す。
「………最後の条件だ、ドーファン。これが僕にとって何よりも大事な条件だ」
それまで纏っていた軽はずみな羽衣のような雰囲気を脱ぎ捨て、本当に望む一番の願いを伝える。
僕の様子が変わったのを察したのか、ドーファンの眼に…より一層の真剣さの色が濃くなった。
「四つ目の条件。これには君の協力が不可欠だ。僕の望みはこの世界から“歴史を紡いではならない”という愚かな法を取り除く事だ。こんな馬鹿げた法などあってはならない……存在してはならないんだ…」
謎の解明 七 を投稿したつもりでいました。
話しの辻褄が合わないと感じておられたと思います。
申し訳ございません。
先日投稿したものの内容を改稿しておきました。
もしよろしければお読み頂けたら嬉しいです。




