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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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謎の解明 七 三つ目の策

 ドーファンは瞬時に考えついた問題点を提示してきた。

 やっぱり地頭はとんでもなく優れているんだろうな。

 流石は“賢王”。その名に恥じないだけの思考力だ。

 ……僕なんか到底及ばないな。


「懸念すべきは二つだ。一つ目はこの新たな製法の開発期間。長ければ長い程その策は行き詰まり、時間のないボク達の首を締める事になりかねない。すぐに開発出来るものであるべきだ」

「二つ目はさっきカイも言っていた既得権益。カイも自覚しているだろうけど、新しい手法で造る油はオリーブ油だ。これまで使っていた動物性脂肪を使わなくなってしまう。これには大きな問題が伴う。動物性脂肪の多くは魔物を討伐して得られた物なんだ。つまり、ギルドが冒険者から買い取った魔物の脂肪は石鹸製造者に(おろ)して造られているんだ。カイの案だと、魔物の脂肪の使い道が無くなってしまう事を意味する。これから先協力を得たいギルドとの衝突材料をわざわざこちらから作ってしまう……これはとても難しい問題だ」


 ………結構重大な問題だった。


 一つ目は何とかなるけど、二つ目のギルドの握る既得権益かぁ…。

 流石にギルドと衝突するような案は得策ではない。

 状況もそうだけど、ギルドは世界各国に支部を置いているという話しだ。

 つまり世界全体に大きな影響を及ぼすギルドと、敵対関係になる訳にはいかないだろうね。

 

 どうしよう……考えなきゃ!

 頭をフル回転させて思考を加速させる。

 沢山の動物性脂肪の使い道を自分の脳内で試行する。

 油、脂…うーん、脳内までが脂っぽくなってくる。

 ぐるぐると考え込むけど、なかなか良い案が浮かんでこない。

 でも、必ず何かには使えるはずだ。それこそ料理とか……。


 料理? …そうだッ! みんなの大好きなアレなら動物性脂肪の方が美味しくなるんじゃないかなッ! 

 それに…動物性脂肪ならではの他の使い道だってあるはずだ。

 それこそ今後の僕達には必要になる場面だって……


「ドーファン、考えが纏まったよ。まず一つ目の問題。これについては僕に任せて欲しい。真似事だけど何度か造った事がある。そこまで手法の確立に戸惑わずに出来ると思う」


「…カイは何だかんだ器用だよね。手を使って何かが出来るのは心底羨ましいよ」


「ふふふ、今度教えてあげるよ。…二つ目の問題については魔物の脂肪の使い道を変える。ゆくゆくは料理用の油として使用すればいいと思う。既存の料理用に使っている油とは違った用途でね。これにも試行錯誤が必要になるだろうけど。…でも、当分の間はドーファンが…この王国がギルドから魔物の脂肪を買い取って欲しい。……この国で狩られる魔物の脂肪を全部ね」


「はぁッ!? 全部を買い取れだってッ!! ……カイ、一体何を考えて…」


 素っ頓狂な声を上げて言われた内容をすぐには飲み込めていないようだ。

 ここで勿体ぶったように言わなかった理由を説明する。


「今、思い付いたんだ。これなら使い道があるってね。これこそが僕の三つ目の策だ。魔物の脂肪の使い道だけど────」


 しばしの語らいをドーファンに付き合って貰い、策の内容に耳を傾けてくれた。

 彼の興味を惹くことは出来たようで、語らいの終わりに暫く逡巡した後、一つの結論を得たようで口を開いた。


「……なるほど。たしかに必要になる場面は出てくるだろうね。それを今のうちに確保しておけって事だね。………説得するのは困難だろうけど、間接的な援助だと訴えればいいだろう。それなら落とし所にもなるはずだ。オリーブ油を使っての生産をギルドも認めてくれる可能性が高くなる。…これが上手くいった(あかつき)には、カイは間違いなく周りからの評価は鰻上りだろうね。ボクも全力を尽くしてこの作戦を行いたくなったよっ!」


 良かった。ドーファンの賛同は得られた。

 きっとこれは上手くいく。だって僕は過去の英雄達の軌跡をなぞっているんだから。

 彼らの生きた行路図に沿っての帰結を提示しているだもん。

 自信を持って提案出来る。後の心配は…


「これで金策と実績という面では貴族達の信頼を得られるようになれるかな? それだけが心配なんだけど…」


「大丈夫さっ! 普段から貴族達も石鹸は使っているし、石鹸の獣臭さが無くなれば使用頻度も増えるだろうし…特に貴族の女性には人気が出るだろうね。流行ること間違いなしだよっ!!」


 おぉ、懸念事項への不安が(やわ)らいだドーファンはとても饒舌(じょうぜつ)に後押ししてくれた。

 石鹸の案を気に入ってはくれていたみたいだ。素直に嬉しくなった。

 人から自分の案を受け入れて貰えるのは、いつだって嬉しいものだ。


「そう言って貰えると今から上手くいきそうな気がしてきたよ。ありがとうね、ドーファン。……それとね、この石鹸や他の産業における経済成長を促すのにどうしても行いたい事がある。実はそれが僕から出す条件の一つなんだ」


「三つ目の策に加え、三つ目の条件か……聞かせてくれるかい?」


 これまでの会話の流れはお互いに納得し合えるものだった。

 そして、これから提示する条件も…きっとドーファンならわかってくれるはずだ。




「僕の出す三つ目の条件は、“差別の撤廃”だ」

 




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