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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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謎の解明 二 “国の王として”

 ヨゼフ程かわからないけど強い? それってとんでもない武勇の持ち主なんじゃ…。

 確かに日本でも怪力と呼ばれた僧兵はいる。その人の事を指しているのかな。

 …うーん、でもさっきからのやり取りだと何か違うような気もするし、明確な答えは得られそうにない。

 今は疑問をどんどん聞いていくべきだ。話しの流れで生じた疑問も追求していく。


「ちょっと気になったんだけど、何でそんな強い人が身近にいるのに、わざわざ伝説の将軍と呼ばれたズゥオさんに逢わなきゃいけなかったの? その和尚って人と一緒にドーファンは危険な場所と呼ばれる所に行けば良かったんじゃない?」


「カイ、さっきも言ったけどボクの味方は数少ないんだ。つまり、武人である和尚が貴族の真似事をしなければいけない程、状況は切迫詰まっている。…そして、その状況を打破する可能性を秘めているのは、君だ。カイ」


 こちらを(すが)るように希望の眼差しを向けて来る。僕が…希望?


「ヨゼフさんも言っていただろう? 本来ならこの国に来ていたであろう人物が、突然この国に来なくなり、その人物はあろう事か勝手に他国への亡命をすると連絡をしてきた上、さらには自身の代わりとなる者を推挙したって」


「……うん、僕の師匠の事だね。そして推挙されたのは僕……ってぇッ!?」


 …うがーッ!! 何となくだけど話しが読めてきたッ! 

 それがわかっていくに連れて師匠への怒りがドンドン膨れ上がってくるッ!!


「わかったかい? つまりボクは君の身柄を確保して、自分の少ない派閥の優位性を高めようとしていた。そして、かの人物は君をギルドに所属させるのが有益だという伝言も残していたからね。悪いとは思いつつもギルドへの交渉材料にしたり、ボクの派閥に属させようという魂胆があった。まぁ…ヨゼフさんが一年も前から君を見守っていたんだ。それも知ってはいたけど、何とかカイの身柄をヨゼフさんより先に確保しようなんて、最初から無理な話しだったよ。無理ながらに頑張ってはみたんだけどね……」


 残念そうに嘆息しながらも、自分の出来る限りを尽くしたと、顔には充足感が満ちていた。

 

「ドーファンは知っていたの? ヨゼフが一年前から僕を見守っていたのを…」


「うん…それも向こうから要望だったからね。話しは知っていたさ。その役目を負ったのがヨゼフさんとは知らなかった。ギルドからは優秀な人が見守るという連絡はあったけどね。…多分、ヨゼフさんがきっと“怪物”がいる地にも行けるだけの能力を有している、ギルドが認めるこの国の唯一の人物なんだろうね。あんな槍を見たんだ。確信している」


「ギルドとこの国はそんなに仲が良くないの…?」


 その質問に答える前にグッと奥歯を噛み締め、苦々しい思いを抱いているという事実は、すでに顔から滲み出ていた。

 しかし、その眼から光はまだ消えていなかった。


「この国が…というより、ギルドは全ての国に対して中立を旨としているんだ。どこかの国に肩入れはしない。ほら、クワンさんとズゥオさん達のいたドヴァネーマイン公国も帝国に滅ぼされたって、何度も聞かされているよね。他の国々やギルドにも救援要請をしたけど、ギルドは決して帝国にも公国にも力を貸さなかった。あくまでも中立の立場を曲げようとはしないってね」


 なるほど。ギルド長っていう人物は理性的に考えられる人物で、公平な見方を出来る人なんだろうな。

 ヨゼフも言っていたけど、やっぱり頭のいい人物なんだろう。

 長い物には巻かれろってスタンスなのかな…

 というか初めて小国の名前を知ったよ。ドヴァネーマイン公国って言うんだ。公国って事は王や皇帝という存在はいなかったんだろうね。


「……ボクもそれは正しいと思う。一組織としてはそうあるべきだろう。…だけど、ボクはこの国の王として、帝国の支配を甘んじて受け入れる訳にはいかないんだ。そのためにギルドの助力は絶対に不可欠だ。そのためなら無謀で可能性が低くても、自分の身を危険に晒してでも、ボクはカイに逢いに行くべきだと考えた。カイをギルドへの交渉の材料にするために……君を…騙してでも…何としてでも君を説得するために……少しでもボクの誠意を伝えるために。国の王としてね……」


 辛そうに言葉を言い切る時には、僕の想いを無視してでも行なわざるを得なかった…王という立場を呪っているようにも見えた。

 …友達になりたかった想いは嘘ではないのだろう。

 これまでのドーファンの話しから、友というものに特別な感情を抱いているのが深く伝わってきた。

 

 しかし、それでもドーファンは…自分の想いよりも自分の立場を……この国を帝国から守るために僕を騙そうとしていたんだ。

 こんなに小さな身体でここまで来たんだ…たった一人で。

 再び得た王という立場を呪いながらも、ドーファンは逃げなかった。現に最前を尽くすためにこうして今、ここにいる。


 ……騙そうとした相手に、自身の心を…想いを明かしていく。


「…カイも知っているだろう? 帝国の残虐な支配を。戦争のために民に重税を強い、帝国への忠誠を植え付ける教育、むやみな戦争を拡大する国の在り方。……それらは全てあってはならない事だとボクは“想う”ッ! だからこそ、ボクは帝国に対して立ち向かうッ! この国の民が殺され、支配され、圧政の中で苦しませないためにもッ! この国の民が帝国の支配下に置かされる未来を阻止するためにッ!! この国の王としてッ!!」




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