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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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謎の解明 一

 ドーファンの安心した様子を見て、僕は今まで気になっていた事を、続け様に聞く事にした。


「…にしても、ドーファンがまさかこの国の王だったとはね。高貴な身分なんだろうなとは考えていたんだけどね」


「え? そんな悟られるような事をした覚えはないんだけど」


「何を言っているの? ヨゼフだってわかっていたよ。じーっと怪訝(けげん)な様子でドーファンを見てたじゃないか? ほら、ドーファンがお礼を言う時に、わざわざ身振りを交えて礼儀をしたじゃないか。帝国の村の出身だからこっちの国じゃどんな礼節が普通かわからないけど、恐らく普通の民はあんな礼儀をしないと思う。前世の知識だけの判断になるけど、あれは明らかに貴族の礼に(のっと)ったものだったし」


「…ッな!?」


 そう、あの森の中でドーファンが見せた礼儀作法。

 あれは中世の貴族が行っていた礼儀作法と酷似していた。

 ヨゼフも僕がジャイアント・グリズリーと対峙した時の祈りについてこう言っていた。

 “自然に出る動作っていうのは、普段から行なっている動作のことだ”って。

 なら、ドーファンはあの動作を普段から行い慣れている立場の人間だと推測出来る。

 身分の高い地位の子供に違いないと、前世の知識に基づいて推測をしていた。

 どうやらこの反応から観るに、ドーファンは無自覚のままにあの礼儀作法を行っていたようだ。

 …まだ別の根拠もあるんだけどね。


「それにね、ドーファン。君は本が好きだって言っていたけど、あれもバレちゃう要素の一つだったよ。キャロウェイお爺さんのいたあの村、あそこには紙の(たぐ)いは一切なかった。"本"の一冊も置かれていなかったんだ。村の中を歩き回って家々の様子を観察していた時にわかったよ。この事実で君の立場が高位の者だってわかってしまうよ」


 あの村に行くまで僕は勘違いしていた。

 ドーファンが本を持っていると聞いた時には、本を各家庭が持てるくらいにこの国の民は裕福なのかもしれない、と。

 けど、あの村で過ごしてわかった。この国は帝国よりも文化水準は低い。

 僕達の村にあったあの建物、学校という教育機関が存在していないからだ。

 僕はてっきりこっちの国にも、ああいう村にも学校があるもんだと思ってたけど、それは違った。

 そもそも本という物事体が村にも置かれていない、一般的ではない物だった。

 つまり、本を持っているのは高貴な立場、裕福な家なんだと予測を立てられる。


「……うぅ、鋭いねぇカイは。侮れない観察眼だね」


「お褒めに預かり光栄だよ。でも、王様って立場を知った今では、ドーファンが言っていた沢山の言葉の意味が大きく変わってくるね…。"上司と部下"って言葉で…まさか君の方が上司だったなんて思い浮かばなかったよ」


 上司と部下の関係のような人物が身近にいた事を以前語っていた。

 ドーファンの立場が王様だから、そりゃあドーファンは上司で、その人は部下に当たる訳だよ。

 流石にそこまでは考えつかなかった。


「…その人は友達じゃないの?」


「友達…ではないかな。ボクは友達になりたいけど、向こうは一歩引いて常にボクを立ててくれているんだ。とてもいい人ではあるんだけどね。…ちなみに転生者だよ」


「…ッ!?」


 衝撃的な内容だった。そこまで明かしあう仲でありながらどうして……


「ふふ、どうして友達じゃないんだって思っていそうな表情だね。その理由は"和尚"は国を第一にする考えだからだね。王様は王様。だからそれ以上の仲になるのに一線を引いて仕えてくれている。……ちょっと寂しいんだけどね」


「う…よく僕の考えていた事がわかったね。僕そんなにわかりやすい顔してたかな? ……って言うかドーファンは人の感情をわかっているじゃないか。ちゃんと汲み取れているよ」


「いいや、ボクはカイの表情にあるものを読んだに過ぎない。君は知っているかな? ボクのいた時代の午後の過ごし方は、大抵は人と話すのが仕事だった。それで身に付けた技術なんだ。表情は読めても心の底にあるものまで汲み取るなんて出来やしなかった」


 そっか。そんな経験も経ていたんだった。

 ドーファンの生きた以前の世界では、午前中はみっちり仕事をして、午後は人々と談笑するという文化があったはずだ。

 ……ドーファンにとってはそれも仕事だったみたいだけどね。


 けど、またわかった事がある。

 ドーファンは表情から人の感情を読めは出来るという事実だ。

 …そうやってドーファンは人を知ろうという努力をしてきたんだろうなと考えると、彼の力になりたいという気持ちは強まっていく。


 会話の中で出てきた名称はとても気になるものだった。元日本人としては馴染み深いものに感じたから、ついつい聞いてしまう。



「…にしても"和尚"さんか。きっと厳格な人で内政とかも得意な人なんだろうね」


「ん? カイは何を言っているの? 和尚は内政はあまり得意ではないよ。得意ではないけど、今は彼に王国内の貴族とのやり取りを任せている。不器用ながらに頑張ってくれている」


「あれ? 和尚さんでしょ? 頭を丸めた和尚さんでしょ?」


「へ? 頭を丸めた? カイは一体先から何を言っているんだい? 和尚の頭はフサフサだよ」


 …あれれ? 何やらボクとドーファンの"和尚"という人物に対する認識は大分異なるようだ。

 てっきりお坊さんの事を指していると考えていたんだけど……


「和尚は間違いなく武人と呼べる人物だよ。だから彼は内政は得意ではないよ。ヨゼフさん程かはわからないけど、彼は強い。そして、数少ないボクの味方の一人だ」


 



 これまでのドーファンの違和感が少し解かれましたね。


 和尚という人物像でカイとドーファンの間では、かなりの乖離があるようです。


 次も謎の解明です。

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