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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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“師匠”

 

「…ちょ、ちょっと待って下さいッ! この世界には他にも転生者がいるんですかッ!?」


 ハッと自分の発言の危うさに気付いて口を両手で(ふさ)ぐ。けど、それはもう遅い。すかさず僕の発言を拾い上げて駆け引きの材料にされる。


「やはり知らなかったか。まぁ、こんな辺鄙(へんぴ)な村では知る(よし)もなかろうがな…。どうだ、私の弟子になりたくなったのではないか? さらなる情報を教えてやらんでもないぞ」


「くぅッ!!」


 この人はこちらの弱みをバシバシ握ってくるよッ! うわぁ〜、欲しい情報が手に入るのに、手に入れたくないというもどかしい気分だよッ! うがーッ!!

 でも、何でこの人は僕が転生者だとわかったんだろう。疑問に思ったから聞いてみたくなった。


「あの、一つ疑問なのですが…どうして僕が転生者だとわかったんですか? そんなに僕って転生者ぽかったんでしょうか?」


 思わずさっきから(へりくだ)らずに素の態度で話してしまっているが、正直そんなことにまで気を配れるほどの余裕はなかった。

 しかし、どうやらこの質問はこの人の神経を逆撫でたらしい。なんだかピキピキって音が聞こえたような……。


 ヅカヅカと近寄って来て、物凄い早口で大量の文言を垂れてきた。




「お前は本気でそれを言っているのか? なぜ自分の発言の(あや)うさを理解出来ない。よいか、昨日も言ったがこの国の教育で、その歳でお前のような他国への憧れを持つ者は生まれない。他国への逃亡をする者はいる。それは過剰な重税に耐えられずに、どうしようもなく他国に逃れようとする大人がすることだ」

「他国は侵略対象でいずれ滅びるものと教えられていても、自分の命を少しでも長らえるために落ち延びようとすることは理解出来よう。だが、お前は違う。滅びゆく国に興味を抱くことなどあり得ない。お前は大海原に船底に穴の空いた船で旅に出たいと思うか? 泥で出来た船に乗りたいと思うか?」

「それがこの国の教えだ。幼い頃からそう教えられているからこそ、なおさら帝国こそが全てだとしか考えられなくなる。帝国の事しか知らないからだ。お前は異質だ。それではまるで他の国を見た事がある、他の国にいた事があるような者の言い分だ」

「それに今日、お前は意趣返しをしつつ、私がお前に何も答えないことを知りながら先程の質問をしたのだ。これらだけで普通の子供でないのは明白。これらの事実を加味して転生者だと(あお)ってみたが…どうやら本当に転生者のようだな」




 ……わーお。どうやら完全に引っ掛けられてたようだね、失敗した。試されてたのを瞬時にこちらからウンウンと頷いたようなもんか……こりゃあ、やられたね。

 この人ってこんなに饒舌だったんだね。見た目に反して意外だった。

 がっくしと肩を落としていると、大きな声で僕の失敗を盛大に笑い飛ばしてくれた。……全く、でも何でこの人は僕なんかに目をかけてくれるんだろう。


「お前は私の“威圧”を耐えた。これも本来あり得ないことだ。そこが非常に興味深い。このまま帝国を後にする未来と、お前を育て上げた後の未来を天秤にかけて、お前の可能性を高めるほうの利が上回ったので、お前を私の弟子にする」


「えっ! 僕まだ何も言ってませんよっ!! 何で僕の心の中がわかったんですかっ!? 魔法か何かですかっ!?」


 ますますこの人の謎が深まった。慌てて声を上げた時には、また大きく笑ってこちらの様子を楽しんでいるようだった。


「ふむ、その辺も弟子になった時に教えてやろう。確かにこの世界にも魔法はある。だが、これは魔法ではない。今はまだそこまでしか言えんなぁ……」


 …もう有無は言わせないんだろうなぁ。さっさと弟子になるのを承諾しろという言い回しだ。これ以上知りたければ弟子になってからだと言っているようなもんだ。

 けど、それ以上に弟子にならないという選択肢は残されていなかった。さっきの変な現象を自分自身にかけられたら、逃げだせないのはもうわかりきっている。

 それに……


「………はぁ、わかりました。貴方様を追ってきた者たちのような末路は辿りたくありませんので、仰せの通りに聞き従いましょう」


 そう言って僕は臣従の意を示す。先程の変な術をかけられた時に、僕が咄嗟にとった姿勢だ。同じ姿勢だが全く違う意味を帯びる。僕は自ら進んでこの人に従う姿勢を示した。

 だからこそ、このぐらいの愚痴への寛容さを示して貰いたい。


「…やはり、わかっていたか。いつ気付いた?」


「まずは貴方様が亡命するということに気付いた時に、なぜここまで余裕があるのかを疑問に思いました。普通、追われている人ならば夜を待ってから逃亡するにしても、もう少し焦ったような雰囲気があると思いますが、それが一切ありませんでした。確信に至ったのは“今日はもう帰ってよい。明日、同じ時間に来るように”と言われた時です」


「なるほど。良き思考力だな」


 そう、この人が本当に亡命しようとしているなら昨日の夜のうちに逃げているはずだ。追手が来ているかもしれない緊迫した場面で、もう一日、帝国内に留まるなんて自殺行為はしない。

 だとしたら、追手が差し向けられていない線もあるが、帝国はそんな判断しないはすだ。


 これだけの傑物で帝国内部の情報を握る人材を、他国に何もせずに流出させることは帝国はしないだろう。

 それこそ自分の喉元を自ら締め付けているようなものだ。歴史もそれを明らかにしている。


 漢の高祖劉邦が天下最強の項羽になぜ勝てたか? 

 劉邦は項羽に負け続けていたが、それでも最終的に項羽に勝った。その理由には様々なものが挙げられるが、その中の一つに、項羽は自分の下を去る者たちをどうとも思わなかった。

 僅かな手勢で次々と国を平定していった国士無双の韓信。

 離間の策や金蝉脱殻(きんせんだっかく)の計などの謀略の限りを尽くした陳平。

 この二人は元々項羽の下にいたが、劉邦に仕えることで埋もれていた才能を開花させることが出来た。項羽は自分の元配下の者たちによって追い込まれたと言っても過言ではないと思う。


 恐らく帝国は項羽のような誤ちを犯さない。そもそも国民全体にお互いの監視を義務化し強いているぐらいだから、裏切りや逃亡など絶対に許すはずがない。

 追手は間違いなく差し向けられていた。それなのに追手のことを気にせずに今日を迎えている。

 つまり…この人はもう追手を始末し終えている。


「お聞きしたい事がございます。追手が始末されたと、いずれは帝国の上層部も判断するでしょう。帝国の内政方針から間違いなく、さらなる追手を派遣してくるでしょう。また、隣の国に貴方様の情報開示と身柄引き渡しの要求をする事でしょう。そのことについてはどうお考えで?」


「ふむ、どちらも問題ないな。追手が来たなら消す。追手を王都から出てすぐの都市で跡形もなく消したので、この村にいることが漏れることはない。それと、亡命しようとしている者が何も根回しもせずに、隣の国に逃げ込むと思っているのか? 当たり前だが亡命先との取り引きは既に済んでいる。今後の動きはお前に修行をつけることを伝え、恐らくその期間は一年も経たないだろうとも添えておく。それから誰か強者(つわもの)を国境沿いに派遣して、こちらの動向を常に監視してもらうように要請をする。私はそのくらいの借りは隣国に借しているいるので全く問題ない」


 一年…“も”経たないッ!? 


 約一年“も”胃痛のする駆け引きをしながら教えられなきゃいけないの間違いでしょ。臣従の意を示したけど、僕の胃が持つかは分からないなぁ。


 同じ“も”でもこんなに印象が違うんだね。

 …しかし、この人の時間感覚は一体どうなっているんだ。さっきは時間がない中、教えなきゃならないっていう雰囲気だったけど、一年“も”教える時間があるんだと感じざるを得ない。


 でも、ひとまず安心した。この村が危険な目に(さら)される可能性はかなり減った。僕は村が追手により滅ぼされないか心配していた。

 亡命者が潜伏していた、それが長い期間になればなるほど(かくま)っていたと(とら)えられ、滅びゆく運命を辿ることになっていたはずだ。

 ならば、僕の取るべき行動は一つだ。例え嫌々ながらでも、この機会(チャンス)を生かさない手はない。




「これからよろしくお願い致します。“師匠(せんせい)”」




 ついに嫌々ながらも弟子になりましたね。ただ、この師匠の判断で色々と隣国で変化が生じます。


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