"君はもう、一人じゃない"
「…ハハァーッ!」
「ちょっとッ! カイッ!? 何をやってるのッ!?」
僕はすぐ様に土下座をかました。
まさかこの国の王様だったなんて思わないじゃないかッ!
王だよ、王ッ! 国で一番偉い人に対して今までとんだ無礼ばかり働いてきちゃったよ……
「その"何でも許される"ってポーズを辞めてッ! 頭を上げてよッ! 頭をッ!」
肩を揺さぶられながら懇願され、仕方なしに頭を上げて確認する。
「…ねぇ、ドーファン。僕って打首になったりする?」
「する訳ないでしょッ! 全く…カイは変なところで怖気づくんだから。さっきまでの威勢は何処にいったのやら…」
クスッと微笑んで僕の様子を面白可笑しく感じたらしい。
「良かったぁ〜。どうやら死なずには済んだようだね。今まで散々無礼な事やら物言いばかりしてきたからね。ドーファンが寛大で助かったよ」
「……カイは怒ってないの? ボクが今までこの事実を黙っていた事を?」
僕の反応が意外だったのか、ドーファンは目を見開きつつ驚きを隠せない様子で尋ねてきた。
「今さら何を言っているんだい、ドーファン? 驚きはしたけど怒りはしないさ。そんな立場を抱えながらあの森に来たんだ。よっぽどの理由があってだとしか思えない。君を責める言われなんて初めから存在しないんだよ」
「………ありがとう、カイ。君は何て慈悲深いんだ。まるで神様みたいだね」
「僕なんかよりもイレーネの方が優しいよ? 女神様みたいだねって今度言ってあげたら喜ぶよ」
「ふふふ、じゃあカイに見本を見せて貰わなきゃね」
「…えッ!? いや…それは、ちょっと……」
「あははははっ! 自分に出来ない事をお勧めしてきたのかい? やっぱり面白いね、カイは……。はぁ……こんな風なやり取りを誰かと出来るなんて…本当に夢みたいだよ……。今の世界でも、かつての世界でも…立場というものがいつでも障壁となっていた。ようやくだけど、少しだけ“人に”なれた気分だ…」
これまでの日々を振り返りながら、これまで味わえてこなかった“人らしさ”に少しだけ触れられて、満足そうな笑みを浮かべていた。
「だからね……その…もしも…もしも…カイがまだ友達でいてくれるなら嬉しいんだッ! この国の王様と友達なんて知っても、態度を変えずに接してくれたら…凄く嬉しいんだッ! …ダメかな……?」
彼の求めているものは、農奴の子として生まれた僕でも手に入れていたモノだった。
王という大抵の物を手に入れられる立場の人が、望んでやまなかったモノ。
自信がないように尋ねてくるのは、それだけ今まで友と呼べる人物が少なかった事を如実に表していた。
権力という立場に縛られ、多くの人々を友という立場から遠ざけてきたのだろう……。
唯一の友となった人物も、今は彼の近くにはいない。
これだけで彼の友になりたいと思わせる理由だってある。
…だけど、僕の中ではそれ以上の理由がすでにあった。
「ドーファン…さっきも言ったけど、僕はこれからも…いつまでも友達でいたい。そもそも王様と知り合いたくてドーファンと友達になったんじゃない。…ドーファンの“人となり”を見て、僕は友達になりたいって心動かされたんだ。僕からもよろしく頼むよ…"我が友よ"」
「…ッ!!」
普段は絶対使わない気障な台詞が唇から飛び出した。
意図した目的があった。
さっきドーファンが語ってくれた昔話しの中で、この言葉には特別な想いが込められていると感じた。
ドーファンが勇気を振り絞って出した気障な台詞。
だからこそ、僕は改めて知って貰いたかった。
───"君はもう、一人じゃないんだと"
差し出した右手は夏の暑さゆえか緊張のせいなのか、少しばかり湿っていた。
…やっぱり、僕の性格らしくない行動だと自分でも思う。
けれども、やるべきだと思った。
今のドーファンに必要なのは…立場なんかに捉われない真の友だ。
「…あぁ、やっぱりあの時と違う…。だって今は…こうして手を差し伸べてくれる友がいてくれるんだもん」
僕の手を強く握り締める。熱意が籠もっていた。
握り締める手の力は、思いの外ギュッ…と力強く握られる。
…僕も勇気を出した甲斐があったかな。
こうやって喜んでくれる友がいてくれるんだから。
「改めまして…これからもよろしくね、カイ。………そして、"我が友よ"」
満面の笑みを誇らしげに浮かべながら、ドーファンは大切な想いの込められた言葉を再び紡いだ。




