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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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“侵し 冒し そして犯す”

「信じられない。そんな巡り合わせが起きるなんて」


「…確証はないんだけどね。いや…ボクの願望に過ぎないんだ。彼だったらいいなと望みをかけている。ほら、ボクが行こうとしている場所って“怪物”が出るって(もっぱ)らの評判だって話したでしょ? ……それが彼だったらいいなぁって」


 なるほど。それは確かに願望に過ぎない。

 ギルドが強い戦士が共にいないと入る事を禁じたという地。

 その場所に行くために一緒に同行してくれる強き戦士を求めて。

 

 想い自体はとても(とうと)いものだし尊重したい。

 けれど、それには疑問が生じてしまう。


「ドーファン。酷い事を言うけど友として言わせて欲しい。僕が思うにギルドがその場所に行くのを禁じているのは、それくらい強い魔物がいるって事じゃないの? 確かにドーファンの友はそう呼ばれていたのも知っているし、僅かな可能性に賭けたくなる気持ちはわかるよ……だけど、幾らなんでも望みが過ぎるんじゃないかな…」


 冷たいようだが伝えなきゃいけないと思った。それがドーファンのためだと思った。

 ギルドが認めるだけの怪物と呼ばれる魔物がいる可能性の方が遥かに高い。

 “怪物”という言葉に一縷の望みをかけているだけだ。

 

「わかっている。そのくらい無謀で無駄かもしれない事だって。ただの噂に過ぎないし、それが魔物を表している可能性が高いって事も……。でもね、カイ……それでもボクは行かなきゃ行けないんだ。そこに僅かな望みがあればボクは行く。謝りに行きたいんだ。例えそこに本当の怪物がいたとしても後悔はしない」

「ボクが後悔するのは…僅かな可能性すら捨て切ってしまう自分自身の心の弱さだッ! “お前の想いはその程度のものだったのかッ!?“ ”お前の彼への想いはそんな軽い気持ちだったのかッ!?“ ……ってね」

「だからボクは自分自身を失望させないためにも、ボクの想い描く人の形を自分の手で崩さないためにも…どうしても行きたい。そのためにボクの想いに共感してくれる強き戦士に逢えるまで、諦める訳にはいかないんだ…」


 わかって欲しいと切実に願った哀しげな瞳。

 それだけ謝りたいという気持ちがドーファンを動かしたんだね。


 ……そんなに固い決意なんだ。

 これ以上、何かを言うのは野暮だろう。

 なら、気さくな冗談の一つを交えながら言葉を贈ってあげたくなる。


「…わかった。僕から出来るアドバイスは一つしかないようだね。人を知らないというドーファンには知って貰いたい事実があるんだ」


 ちょっと(おど)けた雰囲気を(かも)し出しながら語りかける。

 ドーファンもそれでリラックスしてくれたようで、気さくな感じで問いてくれた。


「ぜひ、お聞かせ願いたいな。…人を知りたいボクにどんな事実を教えてくれるんだい?」


「ふふ、それはね…人っていうのは自分の都合のいい時に、都合のいい言葉に耳を傾けたくなる、都合のいい存在の事だってことさっ! 悪い意味でもいい意味でもね。だからね…ドーファン。君にとって都合のいい見聞を信じて、どうかその想いを貫いて。僕は応援するし出来る事は()()()するよ」


「ありがとう。カイの気持ちに応えられるように、人に笑われたって足掻(あが)いてみるよ。都合のいい言葉を信じて…」


 ニコッと笑いながら頷いてくれた。

 ドーファンならきっと逢えるんじゃないかな…。

 それだけ待ち望んだ願いを、きっと神様だって聞いてくれるだろうね。


「…それから、カイにどうしても伝えなきゃいけない事があるんだ」


 唐突に真面目な面持(おもも)ちになり、その話しは重い内容である事が伝わってくる。

 いつになく真剣そのもので、僕の方まで緊張をしてしまう。

 ゴクリ…と飲み込む唾の音がやけに大きく聞こえるくらいに。



「……何も打算もなしにここまでボクは来た訳じゃないんだ。彼に謝るのが第一の目的だけど、ボクは()()()()()()の務めも兼ねてここまで来た。……先に謝っておきたい。ごめんなさい、カイ。ボクは君を、君達をきっと傷付けてしまう。この事実はカイやみんなの気持ちを無視した行動で、ボクはみんなにそれを知られるのが怖かった。知られる訳にはいかなかった……」


「容量を得ないな。一体何を言いたいんだい…ドーファン?」


 僕達を傷付ける? 全く意味がわからない。

 それに先程からやけにドーファンは”自分の立場“を気にしながら会話をしている。

 似たような言葉を何度も用いながら。


「……カイ。ボクにはこの世界でも立場がある。それはいつだってボクの肩には重過ぎるものなんだ。君達と逢った時、ボクはやっと逢えたとホッとしたんだ。ボクの目的に欠かせない人物の一人であったからね」


「………言っている意味がわからないよ。それじゃあ、まるで……」


「ここまで言えばわかるだろう。ボクの目的の一つは()()逢う事だったんだ」


「…ッッッ!?」


 衝撃のあまり言葉が出てこなかった……。

 ドーファンは僕に逢おうとしていた? 何がどうなったらそんな目的になるの? 

 それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………


「ボクはね……帝国をこれ以上許す訳にはいかないんだ。帝国は三つの意味で罪をオカそうとしている。この国の領土を侵そうとし、この国の民の平和を冒そうとし、そして……歴史的残虐行為を犯そうとしている。これらを見逃せる立場でもなければ、ボクがこの国で…この立場に転生した意味を考えた時、まさに神が与えた試練…贖罪とも感じざるを得ないんだ」


「ねぇ……ドーファン。君が言っている立場って…もしかしなくても……」


 …冷や汗が止まらない。

 だらだらと流れるばかりで、(ぬぐ)っても拭っても溢れ出るであろう汗が(したた)り落ちてくる。

 こんな時ばかりに妙に納得出来る真実というのは、端的で簡潔な言葉で言い表わされるものだ。


 ドーファンはたった一言だけ、こう告げた。



「………ボクはこの国の”王“だ」




 ドーファンの立場も明確になりましたね。

 大分前に出てきた侵し、冒し、犯すのタイトル回収でした。

 前に書いた時に明確に言葉の説明をしなかったのは、この場面を書く時のために取っておきました。

 あの時の王国の王視点はドーファン視点でした。


 まだドーファンとの話しは続きます。

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