"逢えば逢うほど…向き合えば向き合うほど…知れば知るほど…笑えば笑うほど…浮かべれば浮かべるほど”
第百九十七節
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かつて、親という存在があった。その存在は罵り、否定し、感情を壊してきた。
周囲の期待というものがあった。それはあまりにも勝手気ままに他者への期待を委ねてくる。感情を置き去りにさせるように仕向け、望まれた英雄になるようにさせた。
ボクは誰なのか。果たしてボクという存在は必要であったのか? 他の誰かでも良かったのではないのか……。
答えの出ない日々の中、彼と逢ったんだ。彼の境遇を知って、ボクともしかして似ているのではないかと期待していた。
彼ならきっと…ボクのことをわかってくれる。理解してくれるって。
…けど、彼は違ったんだ。人がどれだけ彼を醜悪な者だと罵っても、“鎧を着た豚”だと馬鹿にされても、彼は真っ直ぐに前を向いて生きていたんだ。
まるで違った…ボクみたいな形造られた英雄とは違う。彼は真の英雄だった。人々にとって望まれた真の英雄のような存在というのは、まさに彼のような人物なのだろうね。
彼はボクに寄り添って共に歩んでくれた。いつでもボクを信頼してくれていた。だからこそボクは、彼にとって都合のいい言葉を並べて、都合のいい笑顔を浮かべて、都合のいい事情を添えて、都合のいい友であることを強要したんだ。
それが彼にとっても救いになったはずだって。ボクの言葉で彼の人生を救えたなら、ボクの練習した笑顔で彼も笑ってくれるなら…それでいいじゃないかって…。
……本当に酷い言い訳だ。そう、ボクは彼にも嘘をついていたんだ。彼にも…自分自身にも。
それはかつてボクを利用しようとした周囲の大人達と同じだった。ボクは自分の立場を利用したんだ。
ボクの罪は…とても重い。想いを踏み躙る重い罪。
彼と逢えば逢うほど
彼と向き合えば向き合おうほど
彼を知れば知るほど
彼が笑えば笑うほど
ボクが貼り付けた微笑みを浮かべれば浮かべるほどに
───ボクの罪はボクを蝕み、同時に彼を知らず知らずのうちに傷付けていった。
ボクは彼に謝らなければいけない。これまでの非礼を。そして、彼を…人を…理解しようとしなかった己の過ちを。
だけど、それには知る必要があるんだ。人ってなんだろう……友達ってなんだろうって。
あの時それを知っていれば、あのなんとも言えない心にポッカリ穴が空いたような感情を抱かないで済んだはずだ。彼の想いを踏み躙ることを、しないで済んだはずだ。
だからボクは…人を知りたい。友達を知りたい。仲間を知りたい。本には載っていない感情を知りたい。
もう一度彼に逢って…謝りたい。ちゃんとした心を…想いを知って。




