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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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“我が友よ”

第百九十六節

 彼は帰って来なかった。正確に言うならば、生きたまま帰って来ることはなかった。遠征先で亡くなり、彼の遺体だけが帰って来た。




「君は…愛されていたんだね。君の死は多くの者の心を打ち、敵将は亡き君へ敬意を示して、君の身体の上に市門の鍵を置いて降伏してきたよ。私の元に君が来るまでの間、通過する街や村の者達は君のために跪き、泣きながら見送ってくれたそうだ。……敵にも民にも愛されていた君ほどの人物はいないだろうね。君を醜いという者は、この世にはもう誰もいない…」




 彼に話しかける。けど、もうその声は届かない。聞こえることもない。返事は…返ってこない。

 

「遺言を人伝(ひとづて)に聞かせて貰ったよ。…最後まで、君は君らしいと思った」


 




"──に伝えて欲しい。もうお仕え出来ないことではなく、もっと忠誠を尽くせなかったことを……深く悲しんでいることを"






 今は二人きり。周りには誰もいない。ボクは取り繕うこともない真顔で、彼に本心を伝える。


「ごめんなさい…ボクには人の心がわからない。だからこそ、君があの時あんな顔をしたのが今でもわからないんだ」


 今までこんな感情を抱いたことはなかった。誰かの死に何かを想うことなんてなかった。




「ボクは君と初めて逢った時、ボク達は嫌われ者同士だと言った後、君に対して"我が友よ"と言ったのを覚えているかい?」




 心を捨てて歩んできたはずなのに、ボクの中にはもどかしい何かがせめぎ合う。


「君は否定しなかった。君にとって都合の良い言葉を君は喜んでくれたね。ボクは人の心は知らない。ボクはただ…人の望むことを行おうとしてきただけだ」


 独り言はいつまでも続き、独り言は独り言のままだった。




「…ボクも嬉しかったよ。君が否定しなかった時、初めて嬉しいと思えたんだ。だけどね、間違いなく嬉しかったのは…君がボクのこの醜い右手を掴んでくれた時だ……"我が友"よ」




 胸に息苦しい何かを生じさせ、心の中に生まれた知らない感情が、突然の雄叫びを上げた。




「──ッ! ボクが悪かったッ! 友になろうと誓った君の気持ちなんて考えた事なんてなかったッ! いつでもボクは一方的に話すだけだったッ! 本当に…本当にごめんなさい」




 父上に謝っていた時と、同じ"ごめん"のはずなのに、胸に抱くこの熱い気持ちはなんだろう…。


「…だからもう…一人にしないでくれッ! ボクだけを残して…何で先に逝ってしまうんだッ! だからどうか……返事を…してくれ…」


 幾ら望んでも返事はなかった。握り締めた手を握り返してくれることもなかった。もう彼は、ボクの願いを叶えてくれることも、隣で歩んでくれることもしてくれない。

 顔は酷く歪み、今まで浮かべたこともない表情をもたらした。







「──うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」





 なぜ、あの時。彼の願いを聞かなかったのだろう。


 なぜ、あの時。彼の想いを知ろうとしなかったのだろう。


 なぜ、ボクは…彼を…人を知ろうとしていなかったのか。





 ボクは初めて…涙を流し、もはや生きる力も燃え尽きた。

 人々のための英雄であろうとしてきたけど、たった一人の友の死で、ボクは生きるための理由も生き甲斐もなくなった。

 身体は日々衰弱していった。手に…力も入らない。彼が握り締めてくれたこの右手を、再び掲げることも出来なかった。




 あぁ…神よ。もし私の願いを聞いて下さるならば、どうか私に贖罪の機会をお与え下さい。

 私は…人が知りたい…人の心を知りたい。

 我が友の想いを…私は知りたい。

 どうか次こそは…次こそは彼と本当の───




 死の間際まで願った想い。もはや届かぬ想いを抱いたまま、朦朧とした意識の中で神に最後の願いを託し、彼を追うように最後を迎えた。




 本当にドーファンは彼の死を追うようにすぐ亡くなっています。最後には喧嘩別れをしてお互いが悔やんだと思います。きっとドーファンも悲痛の想いを抱いて亡くなったと筆者は考えます。

 再び逢うことの叶わなかった二人の物語をぜひ知って頂きたいと書きました。もうちょっと詳しくあと何節か言及します。

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