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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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ボクは今、笑えていますか?

第百九十四節

 ────どれくらい時が経っただろう。ふと、目が覚めてしまった。いつの間にか寝ていたようだ。

 あれだけ動き回ったんだ。死んだように眠りについていたのだろう。すぐに意識は夢の中に飛んでいった。

 寝ぼけ頭をぶるぶると横に振り、頭を正面へと向けた。ハイクとイレーネはぐっすりと眠っていて、寝ているはずなのに笑顔になっていた。とても幸せそうな夢を見ているだろうなぁ…ふふふ。


 横に目をやると、そこにいたはずの人物の姿はなかった。…あれ? ドーファンはどこにいったの? 

 キョロキョロと辺りを見渡しても姿はなかった。なんとなく気になってしまって僕は起き上がった。

 廊下に出て窓から外を見上げるとすっかり夜もふけており、ヨゼフ達の声も聞こえてこない。燭台の燈も消えており、辺りは静けさに包まれていた。

 歩いている途中、大部屋の中の様子もチラッと覗き込んだら、ヨゼフ達はやはり酒に呑まれてしまったようで、グゴォォォーッと大きないびきをたてながら寝転んでいた。

 

 うーん、この部屋にもいないのか。もしかすると外にいるのかな? せっかくここまで探しているんだ。ついつい宝物を見つけるような感覚でうきうきしながら探し出してしまう。

 玄関から外に出てみると、せっかくの宝探しも残念ながらすぐに終わってしまった。ドーファンは家の周りに広がる池の片隅にある、大きな石の上に座って夜空を眺めながら祈っていた。

 …敬虔な信者とはこんな人物なのだろう。誰も見ていない所でも一人で祈り、その存在を疑わない人のことを。


 悪いなぁとは思いながらも心配な気持ちも抑えられなかったから、ドーファンに声をかけようとした。

 邪魔をしないように歩く音を最小限に留めつつ、忍び足で近づいていく。そんな時、聞くつもりはなかったけど、ドーファンの独り言のような祈りが聞こえてきた。…聞いてしまった。




「………神よ、なぜ()なんですか。……()()()()()()()()()()。………どうして貴方はいつも苦難と思える道を歩ませるのですか…」




「───私って…」

「…ッ!!! 誰ッ!?」


 バァッと勢いよく振り向いたドーファンは、視界に僕の姿を捉えた。彼の焦った様子を見せたのはその一瞬だった。

 むしろ僕の方がドーファンが次に口を開くまでの僅かな間、ドクンドクンと心臓が高鳴り、彼の目には焦ったように映っただろう。


「…なんだ。カイでしたか。ボクと同じで起きてしまったようですね」


 いつもと変わらない笑顔だった。けれども、僕には違和感を覚えた。…なぜこんな状況で笑っていられる? 


「ドーファン…一体どうしたの? ちょっと様子が変だよ…」

「……どう変なのでしょうか?」


 背筋には冷や汗が流れ、全身をゾクッとさせるだけの冷たさがその返事にはあった。…間違いなく変だ。それなのにドーファンはまるで普段通りのような様相を呈していた。

 …怖い。まるでドーファンがドーファンじゃないみたいだ。いつもと変わらない笑顔を浮かべる彼の姿は、明らかにこの場にそぐわない異様さだったから。


「……いつもと違う状況に置かれているのに、恐らく聞かれたくなかった独り言を聞かれているのに、どうして君はそんな笑顔を浮かべる事が出来ているの……」


 誰しもが抱く疑問を正直にぶつけてみた。僕はドーファンの友達だ。短い付き合いだけど、僕にとっては大事な友達で、彼が何か不安を抱えているのであれば助けになりたい。…けど、怖かった。

 

「…そっか。こんな時はこれは相応しくないんだね。……いけないな。いつものようにムスッとしていれば良かったのかな」


 そう言った途端、ドーファンは今まで僕達の前で見せたことがない冷たい表情を浮かべた。その表情には感情という感情が取り除かれていて、彼が何を考えているのか全くわからなかった。

 ………無。そう、これは無だ。今のドーファンからは何も感じれるものは一切なかった。怖さはより深い恐怖へと近づけ、よりドーファンとの心の距離が遠ざかっていく。


「失敗したかな…いや、カイ。君には全てを話そう。着飾った虚栄心なんてものは、この際なんの意味も持たないからね。…それに、ボクにとって君は……」


 言い淀んだ顔には感情が伺え、ドーファンはとても悩んでいるようだった。…とても苦しそうに思えた。


「…苦しいの? 辛いの…ドーファン?」

「苦しい? 辛い? あぁ…そうだね。多分、そうだ」

「多分だって……君は何で…」


 “自分のことをわからないの?”という言葉を言い終える前に、ドーファンはこう聞いてきた。






「───カイ。ボクは今、笑えていますか?」






 そう言った彼の顔には、たしかに笑顔が浮かんでいた。いつものドーファンの笑顔…。それに変わりはなかった。こんな状況じゃなければ。


「…うん。いつもの…いつものドーファンの笑顔だよ」

「そうですか…それは良かった。………そう、これが笑顔ですよね」

「ッ!! ドーファン、何か不安があれば僕に打ち明けて欲しいッ! 僕は君の友達だッ! 今のドーファンはいつもの君じゃないよ…何があったの?」


 本当にドーファンの様子が変だッ! 一体どうしてしまったのか…しかし、彼は首を横に振り否定した。


「……違うよ、カイ。これが本当のボクなんだ。そして、この顔は一番練習した表情だ。これには自信があるんです。こうすれば人は…ボクと同じように笑ってくれるんですよ」






「カイ、貴方にだけ伝えます。私の…本当の名は─────」






 周囲の音はとても静かで、季節の虫の音色だけが澄み渡る。


 ドーファンの声は周囲の音に溶け込みながら、その名の響きは耳の奥にまで聞こえてきた。


 その名は目の前の少年と結び付かないだけの名だった。


 英雄の中の英雄。間違いなく人々はそう呼ぶであろう人物の名を、僕が敬愛する一人の人物の名を、彼は名乗った。




 ドーファンも転生者でしたね。ここから先は筆者のかなりの妄想が入り込んできます。ドーファンという人物がそんな人物ではないと思うのですが、彼と彼の最後を考えると、ドーファンはこうだったんじゃないかなと妄想してしまっています。


 圧倒的こじつけに近いので、ドーファンという人物に筆者のような考えはなるべくなら抱かないで欲しいです。本当に立派な人物だったからです。


 次はドーファン視点か、もしくはドーファンとカイの視点を交ぜながら書いてみようかと思います。

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