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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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良き夢を

第百九十三節

 ズゥオさんの先導で廊下に出ると、そんなに歩くこともないまま部屋へと案内された。


「狭くて恐縮ですが今日はこちらでお休み下さい」


 確かに四人で寝るには狭くて窮屈なのは否定出来ないような部屋だった。恐らく普段は農耕の道具や素材を保管している部屋なのだろう。

 壁に立て掛けてある(くわ)やら、天井から吊り下げてあるキノコとか野菜の乾物が干されていた。

 急いで運んでくれたのが伺える(わら)の寝床の周りには、ぽつんぽつんと細かな藁が散らばっていた。


「そんな事ないです。急遽押しかけて来たのは僕達です。ここには四人で寝るようになってますが…」

「ヨゼフ殿とキャロウェイはあの大部屋で雑魚寝して貰うので大丈夫です。人なんて酔えばどこでも寝られるもんですから。クワン様もそのまま一緒に寝かせてしまうつもりですのでご安心を」

「ぷふふ…ズゥオさんも仕返しのつもりなのかしら?」

「ご想像にお任せします。まぁ、一つだけ言うなら私を抜きに楽しんだ挙句に、客人をもてなす務めを放棄されたのですから、そのくらいの報いは受けて貰った方がいいのではと思案しています」

「あははははっ! それはいいなっ!」


 明日の朝起きた時、“何でベットに運んでくれなかったの”とか言っているクワンさんの様子がすぐに思い浮かんでくる。

 …うん、間違いなく言いそう。


「ところで、よく僕達の分だけでも準備する時間がありましたね。ズゥオさんとクワンさんと逢ってからずっと二人はボク達と一緒にいたのに」

「あっ、確かにそうだね。一体どんな魔法を使ったんですか?」

「魔法ではありませんよ。それにそんな伝達手段の取れる魔法はありませんよ、カイ殿。私の最も得意とする物を駆使しただけです」

「得意とする?」


 え、魔法じゃないの? てっきり連絡手段が取れる便利な魔法があるもんだと思って聞いてみた。出来れば教えて貰いたいなぁ〜って欲もあった。


「弓です。崖の上から私は皆様の様子を観ていました。そこにキャロウェイの姿もあり、これはあの時の約束が果たされる時なのだとわかりました。弓で連絡を取り合う際に、皆様が帝国語で話していた旨と人数を記した書を弓に括りつけて連絡したのです。だからクワン様は事前にあれだけの準備を出来たのですよ。あとは矢に繋いだ糸がクイっと引っ張られたのを合図に引き上げれば、クワン様からの返事が記された書の、了解の旨とその指示に乗っ取って行動していた訳です。クワン様の指示で、私もクワン様も最初から帝国語で皆様に話していました。お気付きになりませんでしたか?」

「「「「あッ!!!」」」」


 言われてみればそうだよッ! クワンさんもズゥオさんも初めて逢った時から、自然と僕達と会話出来ていたじゃないかッ!!

 うわ〜、初めから僕達が帝国から逃げて来た子供だって気付かせるだけの材料を、この人達は得ていたってことだよね。…やられた。


「くふふふ。その様子ではすっかり気付かなかったみたいですね。ここを出て行かれて次の目的地に行く時は気を付けて下さい。流石に全員が帝国語で話していたら怪しまれます」

「う、そうですね。気をつけます」

「村にいた時は気を付けていたのですが……すっかり帝国語で話すのが当たり前になっていましたね」

「…早く共通語を覚えなきゃだな、イレーネ」

「そうね。…頑張りましょ」


 ハイクとイレーネは自分達だけが共通語を話せないから、みんなに迷惑をかけていると落ち込んでいるようだ。

 いけない。何とかフォローしなきゃな。


「大丈夫ですよ、お二人とも。私だってこの世界に来た時は人と話す事すら出来ませんでした。帝国語は何となく理解出来ましたが、共通語なんて全然理解も追いつかない有様でした。今では両方の言葉を話せるようになっています。頑張っていれば必ず話せるようになります」


 同じ気持ちを抱いたのかズゥオさんがフォローを入れてくれて助かった。ふぅっと落ち着いていると、ある違和感に気付いた。


「あれ? ズゥオさん? まるでズゥオさんの言い振りだと、突然この世界にやって来たように聞こえたんですけど…」

「おや? カイ殿は転生者の現れ方をご存知ないのですか? …もう、今夜は遅いです。明日お教え致しましょう」


 気になるよッ! …なんて言えない。向こうは気遣って早く休んだ方がいいと言ってくれているんだから。

 優しさを無下にする訳にもいかず、知りたい意欲を胸に閉まって了承の意を示す。


「わかりました。ちゃんと教えて下さいね! 僕は知ることが大好きなので!」

「えぇ、そのようですね。カイ殿にも私からお聞きしたいことは山ほどあります。私にもお教え願いたく思います」

「もちろんですっ! 僕の知っていることであれば是非とも!」


 ドンっと胸に拳を当てて任せて欲しいと受け負った。ギブアンドテイクというのもあるけど、ズゥオさんばかりに教えて教えてと、こちらから()うばかりでは何とも後味の悪いものを引きずってしまう。




「あ、あの! ズゥオさんッ!」


 突如、勇気を振り絞るように声を上げたドーファンは、とてもソワソワしていて落ち着かない様子だった。

 まるで憧れの人物に声を掛けた少年のような落ち着きのなさで、それはとても微笑ましくもあった。


「ボ、ボク! 毎日頑張ってみんなのように色々と出来るようになりたいと思います! 励ましてくれてありがとうございました…。無理しない程度に頑張ってみます。そして、出来たらズゥオさんにお願いがあるんです。明日、ぜひお聞きして頂きたくて…」


 自信のないまま顔を俯かせた。今まで言おうとしてもなかなかタイミングを掴めず、ここまで旅をして来た目的を伝えようと、ずっとその機会をドーファンは伺っていたのだ。

 こちらまでドキドキとしてきた。ズゥオさん、いい返事をどうかお願いします…。


「…えぇ、是非ともお聞かせ下さい。私に叶えられる願いであれば喜んで果たさせて頂きたく存じます」


 パァッと顔を輝かせ、ドーファンは必死に伝えようとしていた想いをやっと言えた安心感と、ズゥオさんからの返事の充足感で満たされていた。


「良かったな! ドーファン! とりあえず聞いてくれるってよ!」

「えぇ! 良かった! 本当に良かった!」


 友達の目的が一歩前進したのをハイクも喜んでいた。もちろん僕もね。イレーネだってそうだ。ちょっと顔がニヤけているもん。

 

「さぁ、そろそろ本当にお休みになって下さいね。じゃないと明日は話しをする事だって出来ないかもしれませんよ?」

「そ、それは大変だ! おい、ドーファン! 早く寝るぞ!」

「はい、喜んで寝かせて頂きます!」


 バッと藁の寝床にダイブしながら二人は寝る体勢になった。イレーネも触発されたのかウキウキしながら同じようにトゥッと言ってダイブする。


「よし、じゃあ僕も!」


 みんなにつられて勢いよくジャンプし、藁の寝床にダイブした。顔から落ちていくように潜り込んだ藁の寝床は、とてもふかふかして柔らかく、飛び込んだと同時に干し草の心地良い香りが鼻をくすぐりスゥーッと吸い込むと、とてつもない安らぎを与えてくれた。


「フフフ、皆さんは素直でよろしいですね。……では、おやすみなさい。良き夢を」

「「「「おやすみなさ〜いっ!」」」」


 元気良くおやすみなさいを復唱し、部屋の灯りをズゥオさんは消す。窓から入る月明かりは、夜の眠りに(いざな)うように、ゆらゆらと…ゆらゆらと揺籠のように揺れていた。

 まるで本当に揺籠に揺られているかのような温もりを与え、呼吸をする度に意識は徐々に夢の世界に近づかせてくれる。

 とても楽しそうな声が聞こえてくる。ヨゼフ達の声かな…。今から眠ってしまっても、夢の世界でもこの声は楽しい夢を与えてくれるんだろうな…。

 陽気さと華やかな声を枕に、願いを込めた夢の世界に身も心も委ねて、深い深い眠りについた。




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