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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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お酒

第百九十一節

 ひとしきり話し終えると、みんなポカーンとした顔になっていた。ハイクとイレーネは何を言われているのかわからないようだった。


「やっぱり訳わかんねぇな…お前の言うっ策てのは」

「うーん、これは成功するのか? どれだけのモノが必要なのか…」


 ヨゼフとキャロウェイお爺さんは半信半疑だった。うん、僕だって最初これを知った時は嘘でしょ? と思った。

 でも、実際に起こった出来事だ。歴史の片隅に捨てられた戦いであり、多くの人の記憶から忘れ去られた戦いがあった。

 その人物についても、とりわけ多くの人の記憶に残らなかった。激動の時代の残り香とも呼べる人物であり、輝かしい一時代に名を残しながらも忘れられた名将。

 彼は舞台に出てくるのが遅かったのかもしれない。彼以前の人物達の印象が強すぎたからだ。そのためあまり有名ではないけど、間違いなく名将と呼ばれるべき人物だ。

 僕がこの出来事を思い出したのには理由があった。


「……実に常人には考えられない発想だね。どう思う、ズゥオ?」


 問われてもズゥオさんはすぐには答えなかった。自己吟味のために時間を要し、様々な条件や状況と比較しながら考えているようだった。


「………カイ殿、この策は何を参考にしたのでしょう? このような戦い方は聞いたことがありません」

「そうでしょうか? 僕はズゥオさんなら知っていると思っての提案でもあったのですが」

「私が…知っている?」


 ちょっと試すつもりで探りを入れたけど、どうやら知らないようだった。クワンさんよりずっと先の時代と言っていたから知っているかと思ったけど違ったみたいだ。

 うーん、あの国の人物であると思っていたんだけどなぁ。それすらも違うのかな? まだまだこの二人に関する情報は必要だね。


「すみません。僕の勘違いだったようです」

「おや、カイ君はズゥオが誰なのか見当をつけたのかな」

「いえ、自分の中での検討不足だったようです。…ところで僕の提案はいかがでしょう? ダメですかね?」


 二人は視線を交わすと、そのまま頷き合って何かを確かめているようだった。


「君の策は政治しか取り柄のない私からしたら、はっきり言って上手くいくのかいかないのかすらわからない。けど、とても興味深くはある」

「私もです。もし、この国の将であったならば、その策を試してみたくなった事でしょう。…まぁ、前提が間違っていますがね」


 諦めに似た苦笑いを浮かべながら、なんとか笑っているようだ。苦渋を飲まされた小国の将軍として、未だに悔しいに違いない。

 そんなズゥオさんの様子を見てなのかわからないけど、クワンさんは姿勢を正し、右手に拳を作って左手の掌にガッと押し当てた。

 

「カイ君。ハイク君。イレーネ君。先ほどの非礼を詫びよう。君達を傷付ける言葉を浴びせてしまった。すまない」


 思わずギョッとしてしまった。さっきの高圧的な態度とはうって変わり、腰を低くさせる姿勢を取り、僕達に頭を下げてくれた。


「あ、頭を上げて下さい。僕だって語尾を強くして話してしまいました。こちらこそすみませんでした。それにクワンさんには何かしらの理由があって、あんな態度を取られたと愚考していますが…」


 低姿勢になられるとこちらが恐縮してしまう。きっとこの人には何かの思惑があったに違いない。僕達がこの人との親善を壊そうとするのも避けているけど、クワンさんだって僕達との仲を壊すだけの理由はない。

 それならそもそも僕達を何で迎えてくれたのかってもなる。(とぼ)しめる理由はない。


「まぁね…。君達がどんな反応をするかを見たいというのがあった。強い言葉で追い込まれたり、あるいは自分の過去を悪く言われた時にどんな反応をするか知りたかった。おかげさまで思った以上の収穫が得られたよ」


 ニッと笑ってくれたクワンさんの顔には、悪ふざけをした子供のような無邪気さで溢れていた。安心した。やっぱり悪い人ではなかった。それが知れただけで全身に張り巡らせていた緊張感から解き放たれた。

 しかし、僕はそこまでクワンさんのこちらを試す態度を気にしなかったけど、ハイクとイレーネは違ったようだ。


「ふーん。考えがあるのはわかったわ。でも、やっていることは最低ね」

「だな。言っていいことと悪いことがあるんじゃねぇのか。俺はオッチャンのやり方は気に食わないな」

「ちょっと二人共ッ!? それにオッチャンって失礼だよッ!!」

「ワッハッハッハッ! そう気にするな、カイ君。彼らの言い分が正しい。私は君達に対してかなり失礼な態度をしていた。だけど、君達は私に媚び(へつら)ったり、私の意見になびこうなどとはしなかった。それを知れただけで私は満足だ。君達はただ単に逃げてきた子供ではない。明確な意志を持ってこの王国に逃れたと見える。我々のようにね」


 ほんの一瞬だった。だけど、間違いなくクワンさんの表情は翳りをちらつかせ、儚さが滲み出ていた。


「アンタらは何のためにこの国に逃れてきたんだ? 爺さんの話しでは何か目的があるように俺には聞こえたが」


 成り行きを見守っていたヨゼフは口を開く。これがヨゼフの一番知りたかった質問だったのかな。


「……酒を飲みながらでも話そう。ズゥオ。ヨゼフ君とキャロウェイにもお酒を注いでやってくれ」

「かしこまりました」


 ズゥオさんは慣れた様子ですぐに聞き従って言われたことを遂行する。隣に座るヨゼフの持った盃に注がれるお酒の芳醇な香りが漂ってくる。

 グイッと一飲みしたヨゼフは初めて飲んだ味だったのか、とても驚いた表情を浮かべていた。


「これは不思議な味だな。麦や葡萄で作った酒ではないようだな。初めて飲む味わいだが中々美味いじゃねぇか」

「だから言っていたであろうっ! 美味であるとっ! この酒は我が故郷ドワーフの国にある味と似ておるが、また違った風味と味わいがあって堪らんのじゃ〜」

「ヨゼフ君もイケる口か! たんと味わいながら呑んでくれたまえ。どれ、今夜は共にとことん呑もうではないかッ!!」


 大人達はグビグビと勢いよく飲んでとても満足そうにお酒を嗜んでいた。麦や葡萄でもないお酒? 

 ヨゼフ達はお酒を呑んで楽しみ始め、酔いが回り始めたのかキャロウェイお爺さんとクワンさんの三人で輪を囲んでワイワイと話し始めた。

 



「すみません…お客人がいるのにもてなすのを放棄して、主たる者が酒に呑まれてしまうとは…」

「本当ね…せっかく見直してあげたのに残念でならないわ」


 ヨゼフ達は呑んでいるうちに僕達の存在を忘れて自分達の世界の没頭してしまった。ちょっと悲しいかな。

 頭を抱えながらはぁーっと深い溜め息を吐いて、子供である僕達にも敬意を払いながら謝ってくれた。ここまで子供相手に(へりくだ)れる人間性は尊敬に値する。

 

「いえいえ、お気になさらないで下さい。ズゥオさんも呑まないんですか? せっかくならヨゼフ達と呑んだ方が…」

「大丈夫です。本当は呑むつもりでしたが、我が主がまさかカイ殿達を放っておかれるとは。…全く、よっぽど嬉しかったのでしょうね…」


 旧友と逢えた喜びがクワンさんをそうさせたのだろう。せっかくならさっきの話しの続きも聞きたかったけど、今はズゥオさんから話しを聞きたい。

 出来れば話しの流れでドーファンの願いにも触れられたらいいなぁ。お酒の話しで気になったのを聞いてみよう。


「ヨゼフ達の呑んでいるお酒ってひょっとして、あそこで育てている稲を使っていますか?」

「よくおわかりになりましたね、カイ殿。いかにも、あそこにある稲です。本来ならもっと粘り気のある米を使うのですが、残念ながらそれはないのです」

「そうなんですか。ズゥオさんがお酒も作っているんですか?」

「えぇ。農民の出ですから。小さい頃から作物を育てたり、狩猟をしたり、簡易的な家を建てたりなんかもやらなければなりませんでした。嫌でもある程度のことは覚えてしまいましたよ」

「ズゥオさんってお強いだけじゃなくてそんな事まで出来てしまえるんですかっ!? 凄いですね…それに比べてボクなんか……」


 ドーファンはそれを聞いてほんのちょっぴり気落ちしたようだ。今の自分とズゥオさんの小さい頃を想像しながら比べてみたのかもしれない。


「ドーファン殿。そう人と比べようとしない方が良いと私は思います。私の場合はたまたまそういう環境だっただけです」

「…では、どうか教えて下さい。どうすればボクはクワンさんやズゥオさん、みんなのようになれますでしょうか?」




 長らく空いてすみません。ズゥオがカイの言った台詞の意味を理解出来るか調べてました。それを知ったという資料はなかったものの、恐らくあの物語は知っているだろうと予想はしております。

 ただ、今回カイが述べた記述はあまり有名な話しではないので、もしかしたらズゥオも知らない可能性もあるかなとは思っております。

 今日の夜も投稿出来たら行います。


 次は“大人と背伸び”です。

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