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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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第百八十二節

「そこまで言うからには、何か根拠があるのでしょう。なぜキャロウェイはそう考えたので?」

「…儂には確信的な部分はわかりません。ですが、ここにいるカイの独創めいた発想をヨゼフとドーファンは高く評価し、それは世界の歴史を変えるとまで言わしめたからですじゃ」

「実に興味深い。ぜひ私達にもお教え頂きたいなぁ。……が、その前に、失礼ですが皆さんの名前を教えて貰えないかな? ズゥオはすでに知己を得ているようだが、私はまだきちんと教えて貰ってないのでね」


 いやいや、そもそも自らの性分を(よそお)ったクワンさんがぐいぐいと引っ張るように、僕達を家に招いてくれたもんだから、こちらが名乗る機会を与えられなかったような…なんて言える雰囲気ではないよね。

 ヨゼフは大きなため息をわざとらしく吐きながら、仕方なさそうな態度で自己紹介を始めた。


「ヨゼフだ」

「……姓はないのかい?」

「………ハァ、俺はお前らが本当の名を名乗らない以上、知らせる必要性がないように感じるけどな」

「それが正しい。この世界では自分の本来の名前を名乗らない方が身のためだ」


 凄く引っ掛かる言い回しだ。単純に疑問を感じてしまう。本来のって事は恐らく…。いけないいけない。今は自己紹介の場だ。これが終わってから、ちゃんと聞こうっと。


「カイです。よろしくお願いします」

「君がカイか。後で詳しく聞かせてくれ」

「イレーネよ」

「さっきの魔法は見事だった。後で魔法の媒介で使用した杖を見せて欲しい」

「ハイクです」

「君はズゥオのような武人の気質がありそうだな。筋肉の付きかたがそれだね」

「ドーファンです。ボクはずっと貴方達に逢いたいと思っていました。お逢い出来て嬉しい限りです」

「…君は何やら私と近いものを感じるよ。……いや、また違う側面があるのだろうね。それともまだ定まっていないのか」

「……ッ!!」


 ドーファンは驚いて立ち上がり、クワンさんを真っ直ぐに見つめる。何を言っているのか僕にはわからなかった。

 違う側面? 定まっていない? 


「…まぁ、いい。ともかく、私達は君達を歓迎する。さぁ、積もる話しは気になる話しを酒の肴に、今宵は共に語り合おうっ! じゃあ、ズゥオ。食事の前にみんなを代表して祈って」

「わ、私がですか? ここはクワン様が…」

「いや、君の方がいい祈りをするだろう」


 また異様にテンションを高めながら、ズゥオさんに無理矢理に祈れと押し付けるクワンさん。やっぱり立場上では、クワンさんの方がズゥオさんより上という感じだ。

 有名な小国の伝説の将軍の話しの影に埋もれていた凄腕の政治家。ドーファンも知らない風聞の裏に潜んでいた人物。

 そんな人が小国の伝説の将軍を意のままに操っている。他の人がこんな光景を見たらズゥオさんが小国の伝説の将軍だなんて信じないだろうね。

 一方的に従っている様は、そんな凄い人物のイメージ像とはかけ離れていた。


「うぅーん…わかりました。では、皆さん。失礼ながら代表して私が祈りを捧げさせて頂きます」


 出来ればやりたくないようだったけど、結局はクワンさんに逆えずに祈りを代表して行ってくれるようだ。

 みんな姿勢を正し、両手の指を組んで目を閉じて心を整える。


「我らが神よ。我らを守りし強き神よ。この祈りを貴方に捧げ、我らの想いを貴方の元へ。懐かしき友との巡り逢いに感謝を。新しき友との邂逅へ奉謝を。糧を与えて下さる慈悲深い神への万謝(ばんしゃ)を奉じます。我らの上に、無垢なる民の元へ貴方からの祝福を与え給え」


 言い終えると同時に、魔力は建物を貫通して天へと昇っていき、その行き着く果てをここからは見ることは出来ない。

 …良かったぁ。僕とイレーネの祈りの現象をまた一から説明するのも面倒だったし、屋内での食事で一安心だよ。


「うんうん。やっぱり君に任せて正解だったよ。それじゃあ食べようかっ! みんな好きなのを好きな順に食べていって!」


 クワンさんの合図と共に、みんなは食事を取ろうとする。……が、ヨゼフとドーファンは食べようとしても、どうやって食べればいいかわからないようだった。


「…おい、これってどう食べんだ? 手で食べていいのか?」

「わかりませんね。スプーンもフォークもないのに何でどう食べるのやら…」


 その台の上にはスプーンもフォークもない。あるのは木で出来た棒が二つのみ。僕とハイクとイレーネにはお馴染みのものだった。


「あれ? ドーファンとヨゼフは箸を知らないの?」

「ハ、ハシ? この棒がハシっていうのか? これでどう食べるんだ?」

「ぷふっ! こう食べるのよヨゼフ、ほらっ!」


 イレーネは得意そうな様子で、箸を指の間に綺麗に持ちながら、上手に箸の先を上下に動かす動作を見せつけた。


「な、何だそれッ!? どうやってんだッ!?」

「凄いですッ! イレーネ、ぜひボクにも教えて下さいッ!」


 わいわいと教えて教えてと、ヨゼフとドーファンが僕達に近づいてくる様子は、普段の僕達の教え教えられの関係と真逆で、とても可笑しな光景だった。

 ふふふ…ヨゼフもこんな子供っぽいところがあるんだね。


 そんな僕達の様子をじっと見ていたクワンさんは、驚愕となる言葉を放つ。




「うん……やっぱり君達は帝国の子供だよね?」




 

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