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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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故郷の食べ物

第百七十八節

「…本当に綺麗だな。いやぁ〜、こんな所で飲む酒は美味いだろうな」

「はい、月明かりが酒の肴には良く合いますぞ」

「おう、そりゃあ楽しみだなッ!」

「儂も呑ませて頂きますぞッ!」

「無論、キャロウェイ殿もお楽しみ下され。同胞もお待ちしておりますれば」

「おぉッ! あの方にもお逢い出来るッ! 楽しみじゃッ!」

「…話したい事は我々も沢山あります。こちらです」


 大人達も楽しそうにしていて、もちろん子供である僕らも非常に楽しい。今まで観たこともない景色ってどうしてこんなに魅了されてしまうのだろう。

 みんな進みながらも周囲に気持ちが揺さぶられ、色々と指差しては声を上げる。


「あれを見て下さいッ! 何でしょうかあの高く伸びた植物はッ!?」

「あれは竹です。とても固く火を焚きつける際に、筒状にして息を吹く事で風を送ったりなどの用途に使われますね」

「…あれが竹なんですね。初めて見ました」


 え? 竹って標高が高くなったり降水量が少ない地域では育たないって聞いたんだけど、何でこんな場所に生えているの?


「じゃああれは何ッ!? 小麦と似た物が地面から生えているわッ!」

「あれは稲です。あの穂先の穀物を食べる事が出来ます」

「へー、稲って言うのね」

「……あれが稲ですか。実物はあんな姿なんですね」


 うーん、ここの標高がどのくらいかわからないけど、基本的には高地では稲は育ちにくいよね。

 それにここに水田を張れるほどの水があるなんて、ひとえに信じられない光景であった。


「あのぅ、ズゥオさん。ここに生えている植物とかって、本来はこんな場所に根を張れるものなのでしょうか? 標高が低い所じゃないと生えてこないんじゃないですか?」

「……ほほう。カイ殿はとても博識ですね。もしくは酷く正直者か…」

「へ? 正直者?」

「はい。このふとしたやり取りだけで、さっきのあの貴方達の会話の意味が理解出来るというものです」

「…さっきの会話とは?」




「無論。ヨゼフ殿の名についての会話です」




 緊張が走った。ヨゼフはズゥオさんを鋭い目で睨みつけ、キャロウェイお爺さんとドーファンは沈黙を、ハイクとイレーネは動揺する。

 ……あの高さから僕達の会話を聞いていたのか。この人の耳はどうなっているんだ。

 正直言って不味い状況だ。知られたくない会話を聞かれてしまっていた。…でも、こっちもこの状況を逆手に取って牽制を効かせる事も出来るんじゃないか…。


「そう警戒しないで下さい。今の発言で貴方達の心を遠ざけたでしょうが、他意はありません。すぐにそれは理解頂けるかと」

「…言うじゃねぇか。で、どうやって理解させてくれるんだ?」


 ヨゼフは槍をズゥオさんに向けて敵対心を露わにする。ちょ、ちょっとヨゼフッ!? 幾らなんでも血気盛ん過ぎじゃないッ!

 そりゃあヨゼフにとっては、初めて逢う相手に知られたくない事実をこちらは知っていると脅されているように聞こえるけど、ズゥオさんはきっと、そんな思惑なんて抱いていないと思う。

 な、なんとかヨゼフを落ち着かせなきゃッ!


「ま、待ってよヨゼフッ! ズゥオさんに他意がないのは本当だと思うよッ!」

「邪魔するな、カイッ! ならなぜこいつは俺達の秘密を握っているような言い回しで言ったッ!? そんな必要は無かっただろッ! こいつ自身、俺達の心を遠ざけたって自覚はあっただろうがッ!?」

「違うよヨゼフッ! ズゥオさんは自分の立場を明かす意味も込めて、そして、僕達を試そうとしてわざわざ不必要な言い回しをしたんだよッ!!」

「……どう言う意味だ?」


 やっと矛先を地面へと向けて、耳を傾けるだけの落ち着きを取り戻せた。

 …良かった。まずはもう少し情報が欲しい。それにはズゥオさんとキャロウェイお爺さんに質問したい事がある。


「キャロウェイお爺さん。お爺さんは色々な国について詳しいと思いますが、かつて存在した小国を含めて近隣諸国での主食は稲ですか? 小麦ですか?」

「小麦じゃな。……と言うより、稲を育てているのは、儂らドワーフとエルフ、それから帝国の一部でしか育てていなかった気がする。もしかしたら他でも育てているかもしれんが、この王国と小国では間違いなく小麦ばかりじゃ。稲は育てておらんのう」

「そうですか。ありがとうございます。……ズゥオさん、この土地で育てている稲は、ズゥオさん達がここにきた時から生えていたものですか?」

「いえ、ここに生えている稲は私共がここに持ち込んだものです。最初は上手く育てられるか不安でしたが、ここまで育ってくれて私は嬉しく思っています。……それがどうしましたか?」

「ではもう一つ、貴方は生まれも育ちも小国なのでしょうか?」

「……はい。私は小国で生を受け、小国で育ち、そして、小国のために生きました」

「………本当に…ですか?」

「……カイ殿。それは果たしてどう言う意味か?」


 質問の意図を汲み取れずに困惑していた。それはそうだ。僕だって失礼は承知でこの質問をした。

 けど、これは聞かなきゃいけない。…ズゥオさんは気付いて欲しくて、あんな言い回しをしただろうから。


「ズゥオさん。この短い間でしたが貴方の人となりを見て、僕はズゥオさんが素晴らしい人間性をお持ちの方であると思いました。だって、子供である僕達にも、こんなに失礼な言葉を吐いた僕に、今だって敬意を払っていている。……人を大切にするくらいだから、貴方はきっと思いも大切にされる方なんでしょう」

「だからこそ、腑に落ちないんです。ズゥオさんのように想いを大切にしそうな方が、故郷の食べ物を大切にしないというのが…。失った故郷の食べ物っていうのは、そう簡単に忘れられないと想います。だって、それはその人にとって自分の育った大切な故郷の、言うなれば想い出が沢山詰まった食べ物なんですから」

「それなのに、ズゥオさんは小麦を育てるでもなく、小国では一般的でない稲を育てている。……それはきっと、ズゥオさんに取って、それが本当に忘れられない故郷の食べ物であったからではないですか」






「ズゥオさん…貴方は本当は、この世界の人ではないんじゃないですか?」







 短めですが、早くもズゥオにカイは確信を突く質問を迫ります。果たしてズゥオの正体とは……

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