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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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"幻の英雄 ヨゼフ・バッセベテ 一"

第百七十五節

 ──これは古き時代の物語である。英雄たる王に仕えた英雄たる勇士の物語。




 聖書。それは人類創世を(つづ)った古き書物。歴史の興隆(こうりゅう)を記すと共に、神と人の在り方、災厄、未来への予言をも記している。

 その中でも僕の興味を惹いたのは、とある羊飼いが王へと導かれるまでの仲間達との物語だ。人の愚かさを伝えると共に、人の絆の深さを教えてくれた。

 ダビデ王。前の世界で多くの人のが一度くらいは聞いた事がある名かもしれない。そう、例えばこんな逸話だ。一介の羊飼いであるダビデが圧倒的強者である巨人ゴリアテを打ち倒す英雄譚。




 ある時、ダビデは戦場に出た兄達へのお使いを父に頼まれ、()った麦とパンとチーズを持って戦場へと訪れた。当時、ダビデの住んでいたイスラエルという国と隣国のペリシテは戦っていた。


 戦場に着き、兄達と話していると、イスラエルの陣営に向かって大きな叫び声が聞こえてきた。




「我が名はペリシテ人のゴリアテッ! 一騎打ちで勝負だッ! 負けた方は勝った方の奴隷となるのだッ! さぁ、俺と戦う勇気ある者は出て来いッ!!」




 その声を聞いた者は意気消沈し下を向く。不思議に思ったダビデは周囲の兵から話しを聞くうちに、四十日もの間、神の兵である味方を侮辱するように一騎打ちをと叫び続けているという。

 怒りが込み上げ、ゴリアテと戦おうとする。だが、ただの羊飼いであるダビデに対して、誰もがゴリアテに勝つなんて無理だと感じたことだろう。

 

 背丈は六キュビト半(約二百九十センチ)もの巨躯を誇り、五千シュケル(約五十七キロ)の鎧が身を覆い、手には機織りの巻棒のように太いような槍を持ち、六百シェケル(約七キロ)にも及ぶ鋭い鉄の穂が、異様な豪腕を持ち合わせている事を知らしめていたから。


 それでも、ダビデはゴリアテを倒す事を決意する。この時のイスラエルの王であったサウルは、ダビデを召し寄せ、それがいかに無謀なことかを()く。


「お前があの者と戦うのは無理だ。お前は少年に過ぎず、あの者は少年の頃からの戦士だ」

「私は羊を飼う者です。獅子や熊が出て来て群れの中から羊を奪い取ることがあります。時には追いかけて打ちかかり、その口から羊を救い出します。時に向かってくれば、たてがみをつかみ、打ち殺しもします。獅子も熊を倒すように、あのペリシテ人を討ち取ってご覧に入れます。私をいつも守って下さる神が、必ずあの者の手からも守って下さるに違いありません」


 ダビデの決意は固かった。よもや、王でも説得を諦めてしまうほどに。

 

「……わかった。我らの神がお前と共にあらんことを」


 王は自分の装束をダビデに用意し、鎧や兜、剣をも与えた。しかし、ダビデはこれらの装束で身を(よそお)ってからこう告げた。


「……これでは戦えません。歩くことも出来ません。それに、この装備に慣れてもいませんから」


 それらを脱ぎ去り川岸へと向かう。そこで五つの滑らかな石を拾い上げ、石投げ紐と、いつもの自分の杖を持ち、ゴリアテの元へと向かって行った。


 恐らく、多くの者がダビデは死を(まぬが)れないと思ったことだろう。それは味方だけではなかった筈だ。敵であるペリシテ人は、より侮った感情を抱いたに違いない。

 ゴリアテは美しく整った容姿のダビデを観て、こう言った。


「俺が犬とでも言いたいのかッ!? 杖を持って向かって来るとはな。….さぁ、来いッ! お前の肉を獣達の餌にしてくれようッ!!」


 その巨体から放たれる怒号は、多くの者を萎縮させ戦意をも奪う。…しかし、ダビデは違った。彼は勇敢な想いを持って立ち向かう。


「……お前は槍でわたしに向かってくるが、わたしはお前が挑戦したイスラエルの戦列の神、万軍の神の名によってお前に立ち向かうッ! 我が神はお前を私の手に引き渡し、お前を討ち、その首を()ね、ペリシテ軍の(しかばね)を空の鳥と地の獣に与えるだろうッ! 我が神は救いを賜るのに剣や槍を必要とはされないことを、ここに集まった全ての者は知るであろうッ!!」


 ダビデは一つの石を手に取り、それを石投げ紐に括りつけ、勢いよく走る出すと共に紐を振り回し始めた。

 小さな石は遠心力により威力を増し、ダビデが石をゴリアテに向けて放った時には、すでに大いなる力の塊となっていた。

 その石はゴリアテを捉えた。吸い込まれるように放たれた石は、ゴリアテの額に見事に命中し、強靭で強大な身体を誇りにした巨人は、ほんの小さな石に倒れたのだ。


 ダビデはゴリアテを見事討ち取り、剣すらも持っていなかったので、ゴリアテに走り寄って上にまたがると、その剣を取り、さやから引き抜いてとどめを刺し、首を切り落とした。

 皮肉なことに、少年の頃から戦士であったゴリアテは自らの剣に倒れ、羊飼いの少年に敗れ去った───。




 これが有名な“ダビデとゴリアテ”の物語だ。敵と比べると小さくて弱き者が、勝ち目もない相手に勇気を抱いて立ち向かい、心が奮い立てられるまさに英雄譚に相応しいお話。とても高揚したものを覚える人も多いだろう。

 その後のダビデの有名な話しとなると、後年に犯した過ちを聞いた事があるのではないだろうか。


 けど、ダビデがどのように王になったか、王に至るまでの道のりにはどんな困難があったのか、どんな別れがあったのか、王になってからの悲痛な物語については、あまり知られていない。


 ダビデの人生は壮絶だった。ダビデを決して認めない者がいた。そう、先の王サウルだ。


 サウルは始めのうちはダビデを歓迎した。ゴリアテを倒した後、ダビデを軍の隊長に任じ重んじた………筈だった。

 ダビデの勇名が高まるにつれ、サウルはダビデを憎むようになり、竪琴を弾くダビデに向かって槍を投げ、感情を爆発させる。

 それでもダビデは逆らわない。自分も神に認められ油を注がれているとは言え、サウルは今の王である。ダビデは神に仕えし者で、神が認めた王をダビデは尊重したいと考えていたからだ。

 しかし、サウルの憎しみは収まる事を知らない。


 憎しみ、妬み、激怒するばかりだ。もはや、両者の間に平和という概念は存在しなくなっていく。


 遂に、ダビデは命の危険を感じてサウルの元から去る。王に追われる日々は、ダビデの心を砕いてしまったかも知れない。

 ………だが、ダビデのその勇ましさ、敬虔な心に惹かれた者は数多くいた。その中に多くの勇士達がいた。彼らはダビデと共に追われる日々を選んだのだ。

 とりわけ優れし三十士は書にも記されし者達で、中にはダビデのようにエジプトの巨人を倒した人物や、一度に三百人を打ち破った人物も存在する。

 英雄と呼ばれし所業を遂げた勇士達。当時の人々は彼らに憧れを抱いていたかもしれない。彼らの主との固い絆、彼らの生き様、そして、その輝かしいばかりの英雄たる強さに。

 三十士の中でとりわけ名高い英雄達がいた。他の勇士達のいずれの人物も、彼ら三人には遠く及ばない………そんな栄誉を与えられし勇士の中の勇士が。

 そして、そんな勇士達全ての筆頭に立ちし、一人の槍使いがいた。今では多くの人の記憶から忘れ去られし英雄。




 そう、“幻の英雄──ヨゼフ・バッセベテ──”




 本当はもっともっとダビデの記述も詳しく書きたいのですが、書き過ぎるとヨゼフに焦点が当てられないと考え、この程度に収めていますが、いずれヨゼフ視点で過去の自分を振り返った時にでも、是非もっと詳しく書かせて頂きたいと考えております。


 多分、お調べになった方もいるかもですが、ヨゼフの800人倒したという記述は、刺し殺したとも訳してあるものもあるので、恐らく一度の戦場で800人倒したという意味なのかと思います。

 誇張解釈で筆者は捉えさせていただき、一振りで800人を倒したという風に書かせて頂いています。


 次もほんの少しだけヨゼフの記述を書きます。

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