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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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便利な物

第百六十六節

 反省し終えた僕達は、ヨゼフとキャロウェイお爺さんの指示の下、料理を作り始めた。今日の料理は葉物野菜の煮込み料理。お肉なんかはない。

 野菜をパパァッと煮込んでお終いだ。幸いな事に、湿原で水は掬ってくれば手に入る。酷く汚れている訳でもないので、水を煮沸させて沸騰してから野菜を放り込めば大丈夫だと思う。

 火を付けるのはドーファンだ。一緒に旅をしている間は、せっかくだから色んな事を覚えたいって率先して何でも行なってくれている。

 

 少々ぎこちない動きだったけど、何度かカチッ、カチッと火打ち石を叩いていたら無事に火が灯り、小さな火種は徐々に枯れ木を燃え始めた。


「やった! 火がつきました! ボクでも火がつけられましたよっ!」

「良かったじゃねぇか、ドーファン。そうやって一つずつ覚えていけばいい。頑張れよ」

「はいっ!」


 とても嬉しそうにドーファンは返事をして、そのまま引き続き火の番を行い、竹筒で火へ風を送り火の勢いを強くする。

 ドーファンとヨゼフが火の番の作業をしている間、ハイクとイレーネ、僕とキャロウェイお爺さんに別れて他の作業をしていた。

 そう、野菜をトントンと切る作業だ。


「にしても、カイは相変わらず器用じゃのう。子供なのにこうも野菜を切るのもお手のもんとはのぅ」

「は、はい。これでも母さんの料理の手伝いをしていたので」

「ほう、偉いのう。関心じゃわい」


 母さんの料理の手伝いをしていたっていうのも嘘じゃないけど、前世での経験がやはり大きい。一人暮らしなんかしていると料理をせざるを得ないからね。

 それに料理はキャンプをするようになってから、好きになったのがとても大きい。


「そうだ。キャロウェイお爺さん、ちょっとお聞きしたかったんですけど…」

「うん、どうした?」

「火を起こす時ってフライパンがなければ、鍋を吊るすか(かまど)を作って鍋を乗せるかってなると思うんですけど、その調理するための材料となる木や石が、都合よく毎回あるとは限らないですよね?」

「その通りじゃ。大抵の冒険者は荷物を減らすために、一つの鍋で済ませる事が多い。だから、砂漠地帯や草原地帯では、燃やす物を見つける事が出来ても、都合の良い長さの木や、ある程度の大きさの石なんかがゴロゴロしているとは限らん。そんな場合は獲物を狩って肉を刺して焼くなりするしかないのう」

「やっぱりそうなんですね。もし獲物も捕まられなかったらどうするんですか?」

「…保存食を(かじ)るかとかかのう。あまり美味くはないがな。最終手段じゃな」


 うーん、現実的に考えると旅では安定した食事を常に得られるって訳ではないんだね。何とか安定した調理する方法がないかなって考えていたけど、これなら問題の解決にも繋がるんじゃないかな…。


「いきなりどうしたんじゃ? 何か気になる事でもあるのか?」

「はい。実はちょっとした思い付きというか、こんな物があればいいなぁって思っていたんですけど」

「ほほう、興味がある。カイにはどんな物があればよいと考えておるんじゃ」

「ええっと、こんな物なんですが──」




「よし、んじゃあ火と鍋はこんな感じでいいだろう。あとは鍋の中に野菜をぶち込むだけだな。おぉーい、爺さん。こっちの準備は出来たぞ……って、何やってんだ?」

「あぁ、ヨゼフ。カイとお爺ちゃんったら変なのよ。野菜を切っていたと思ったら、今は地面に何かを描いて話し込んでるのよ」

「おい! カイ! ヨゼフ師匠も作業を終わったようだぞ!」


 はっ! …しまったなぁ。どうやらヨゼフ達は準備が整ったらしい。こっちはついつい話し込んで、途中で作業をストップしていた。


「ご、ごめんなさい。ヨゼフ。まだ切り終わってないんだよね」

「切り終わってない? 何かあったのか?」

「うん。僕がこんなのあると便利かなぁって物を、幾つかキャロウェイお爺さんに話してたんだ」

「便利な物? おい、爺さん。一体何を……」




「うおぉぉぉぉぉ───ッ!!!」

「「…ッ!!」」




 いきなり大きな声を上げて、キャロウェイお爺さんは叫び出す。そこまで変な事は言ってないつもりなんだけど…。


「こ、これは凄いッ! なぜこのようなやり方に今まで気付かなかったんじゃッ! は、早く造りたいッ! 造ってみたいッ!!」


 良かった! どうやら受け入れられたみたい。それに造ってみたいとまで言ってくれてる。今後の冒険で使えたら嬉しいなぁ。


「おい! 爺さん落ち着けッ! そんな興奮するような事でもないだろうって!」

「そんな興奮するような事でもない…じゃと? ……いいかッ! ヨゼフッ! これはとっても便利な物じゃ! こんな物があれば多くの冒険者の食事事情は改善される! 安定して火の食事を取れるようになれば、今まで腹を壊してまで食べなきゃいけなかった腐りかけの食事からも解放されるんじゃ! これは冒険者にとって大きな変革をもたらすぞッ!」


 そ、そこまで言われるとハードルをグッと上げられた気分になってしまう。もう少し評価を落として話して欲しいな。だってヨゼフも話しを聞いている周りのみんなも期待しちゃうじゃない! 

 その辺にありふれた物に頼るのもいいんだけど、ずっと冒険を続ける事を念頭に置いて考えると、安定して火を起こすための道具があると便利だと考えての提案だった。

 それに、従来のやり方だと設営までに時間が掛かってしまう。前提として丁度いい感じの木とか石を探さなきゃいけないしね。

 より簡単に設営出来れば時間的効率性もアップする! って自分が楽をしたいって考えで思いついたのが最初だけどね。


「お…おぅ。凄いのは十分伝わってきた。だけどよ、そんな簡単に作れるもんなのか? そのための素材とかはここにあるか?」

「くっ…そうじゃった。造りたくても素材も道具も足りんわい。迂闊じゃった…悔しい」

「なら、全部集めてから取り掛かればいいじゃねぇか。気持ちが(はや)っても今は無理なんだろう?」

「むぅ…それはそうじゃが」

「それじゃあ、この話しは一旦お終いだ。みんなで飯を食いながらでも教えてくれ。どんだけ凄いもんなのかをな」

「ッ! おう! 是非とも語らせてくれッ! さぁ、カイ! ささっと残りの食材を切ってしまって、みんなと語り合おうではないかッ!!」

「は、はいっ!」

 

 キャロウェイお爺さんの勢いに押されつつ、手早く残りの食材を切り分けて、ハイク達が切っていた食材と一緒に鍋に入れて煮込む。

 ぐつぐつ、ぐつぐつっと煮込んでいる間も、みんなで食事を楽しんでいる間も、キャロウェイお爺さんの弁舌は止まらない。


「──っとこんな風に持ち運べて、とても便利な物なんじゃ! どうじゃ? 凄いだろッ!」

「お爺ちゃん。…凄いだろって、それはカイが提案した物なんじゃないの?」

「そうじゃッ! カイの考えじゃ! だが、この凄さはとても素晴らしいと思わんか…イレーネッ!?」

「……う、あ、うん…」


 おぉ! あのイレーネが圧に屈している。どんな反応をすればいいか困っている。僕はこの事実の方が凄いと思う。


「とにかく! どうしても儂はこれを造りたいッ! 賊を打ち破った暁には、あの方達と逢うと共に、造るために必要な素材をすぐにでも集めるぞ!」

「爺さん。何度も言うけどなぁ、俺達は先を急いでいるんだ。そんな悠長にはいられないんだぞ」


 ハッとその事実に改めて気付いたという顔だった。一瞬、諦めかけた表情をした後、諦めきれずに言葉を紡いだ。


「…頼むッ! あの賊の根城としている山には、必要な物がほとんど手に入る! 以前、山を探索したから断言出来るッ! どうしても造りたい! お主達の今後の旅にもあったら便利な筈ッ! 少しだけでいいから一緒に探すのを手伝ってくれッ!!」


 ガンッと地に頭をつけん勢いで、みんなに向かって頭を下げた。正直、僕は早ければ早いだけありがたい。

 どのみち将来的には欲しい物だった。それにこれは冒険にだけ役立つ物じゃないんだよね。もっと別な目的も抱いているからこそ欲しいと願っている。


「…で、どうするよ。ドーファン。お前に任せる」


 そうだ。この中で一番急いで王都に行こうとしているのはドーファンだ。そのドーファンの意思を尊重する形でヨゼフは話しを振った。

 しばしの沈黙の後、ドーファンは閉じていた口を開いた。


「…是非とも造りましょう! ボクもどんな物か見てみたいです。それに、これが実用性に富んでいる事がわかれば、カイ達のこの国においての地位向上に繋がるんじゃないですか? …急いではいますけど、と…友達のためにも頑張りたいですし…」


 そう! それも目的の一つなんだよねっ! この国の人達をはじめ、多くの人達に役立つ物のアイデアを提供して、僕達の存在価値を高めたいという狙いもあった。

 だからこそ、早く試作品を欲していたという気持ちはある。でも、何よりも嬉しいのは……。


「ありがとう…ドーファン。僕達のためにそこまで考えてくれていて」

「い、いえ。友達ならこうするんじゃないかなって…」


 どうしていいのかわからなさそうに、しどろもどろになりながらも、照れくささを隠せない返事をくれた。


「おぉーッ! ドーファンッ! ありがとうのうッ!!」

「…わっ! そ、そんな大袈裟ですよっ! …は、離して下さい! く…苦しいッ!」


「「「「ぷふっ……ぷふふっ……あっはっはっはっは!!!」」」」


 空に届かんばかりの笑い声は夜空に響き、一日を締めくくるのに相応しく楽しいひと時だった。




 カイの抱えているアイデアは所々で匂わせた発言をしておりますが、今後も出てくるかと思います。

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