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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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お調子者

第百六十五節

「ほんっとデリカシーのカケラもありもしないんだからッ! 私がアイリーン達を連れてお水を飲ませてあげて来るから、カイとドーファンは一緒に荷物の整理とかしながら、もっとデリカシーについて一緒に考えてなさいッ! ふんッ!」


 吐き捨てるようにそれだけ言い残すと、イレーネは荷物をぽんぽんと投げるように降ろして、アイリーン達を連れて湿原の中心地へと(おもむ)いて行った。


「はぁ…、うっ! 痛たたたっ! これはいいのを頂いちゃったみたいだな。そっちはどうだい、ドーファン?」

「……えへ、えへへへ。い、いやぁ、ご心配には及びませんよ。だ、大丈夫です」


 良かった! いつものように変人さが全開だった。イレーネのビンタをくらってかなり喜んでいる。これなら大丈夫そうだね……大丈夫じゃなさそうだけど。

 

「…奇しくもイレーネに愛想を尽かされたおかげで、こうして動けない身体も動けるようになったし、僕達も言われた事でもしてよっか」

「そ、そうですね。…え、えへへへ」


 ……大分重症なようだね。もうドーファンは安易に人が戻れなそうな領域にまで、片足どころか全身をどっぷり踏み外しているらしい。そっとしておこう。




 (なか)ば見放されたように残された僕達も、みんなに負けじと早速作業に取り掛かった。荷物を解いていき、早めに食べた方が良さそうな日持ちのしなさそうな葉物野菜類を中心に、今日の食事で使う食材を取り分ける。

 あと、火を使って調理出来るように、みんなが帰って来る前に適度なサイズの棒を拾って来て、棒を二等辺三角形状に交差させて縛り付け、それを二組作る。一種の杭に近い。

 その杭をある程度離して軽く地面に石を使って打ちつけたら、その上に長いサイズの棒を二つの杭の上に載せて、再び縛りつける。

 幸いな事に、今回の野営地は葦の群生地だ。葦の茎は頑丈で、日本では葦の茎を使った(すだれ)もあるくらいだ。これを使ってギュッと縛る。


 ジャーンッ! これで吊り下げても問題ないくらいに丈夫な、鍋の調理台が完成したよッ! 本当はもっと他にも作り方があるんだけど、今回は鍋の重さと五人分の食材を鍋に入れた全体の重さを考慮して、しっかりと作ってみた。

 結構な力で揺さぶってみても大丈夫そうだ。これならバッチリだね。


「にしても、カイは器用ですよね。こんな作り方まで知っているなんて。帝国の村ではこんな事も教わるものなんですか?」

「いいや、僕の独学だよ」


 前の世界でのね…なんて言葉はまだ言えない。ちょっと心苦しい気分だけど、嘘は言ってないから許してね。


「凄いですねっ! こんな物を独学で作りあげるなんてっ! ボクはカイを尊敬しますッ!!」

「……う、うん」


 やめてッ! そんな真っ直ぐで綺麗な目で僕を見ないでよッ! …うぅ、居た堪れない気持ちがどんどん強くなっていく。


「ボクも一緒にやってみて、少しは作り方を勉強出来ました。次回から、ほんのちょびっとはさらに貢献出来そうです」

「なら良かった。期待しとくよ」

「えぇ! 任して下さい!」


 そんなこんなしていたら、キャロウェイお爺さんとハイクが帰って来た。両手の動きを塞いでしまうくらいの枯れ木を抱えて。


「帰ったぞぉーっ!」

「おっ! もう準備は万端と言ったところじゃな。正直ここまで出来ているとは感心したぞ」


 帰って来て早々に褒めてくれる。ちょっと気恥ずかしい…。


「あ! おかえりなさい。凄い数ですね」

「夜は冷えるからのう。この時期といえど外にいる以上、常に火を絶やさないようにせねばな」

「ヨゼフも同じ事を言っていました。流石は元冒険者ですね、キャロウェイお爺さん」

「なんの、なんの。これくらい当然の知恵じゃわい。…イレーネはどこじゃ?」

「はい。イレーネはアイリーン達に水をあげに行っています。…ちょっと帰りが遅いから、恐らく食事も一緒にあげてるんじゃないですかね。森の中にはアイリーン達の食べれるものもありそうですし」

「なるほど。役割分担という訳か。効率性を考えていてさらに感心したぞ!」

「……い、いやぁ…」


 言えない。“愛想尽かされて一人で行っちゃいましたぁ〜”…なんて。


「あら、ハイクもお爺ちゃんも帰って来てたのね」


 そんなタイミングが悪いところでイレーネが帰って来てしまった。うわぁ…どうしよう…。


「あ、おかえり。イレーネ…」

「お、おかえりなさい。イレーネ」


 なんとか絞り出した言葉は、これまたありきたりな言葉だった。やばいか? まだ怒っているのかなぁ…。


「えぇ、ただいま。ここまで準備出来ていたのね。後は料理をすればいい感じね」


 ……ふぅ、どうやら怒りは収まってくれたようだ。一安心出来る……と思ったのも束の間。


「お爺ちゃん! 聞いて欲しいの! カイとドーファンったら二人掛かりで…」

「イ、イレーネ! 今はその話題はいいんじゃないかな!?」


 こちらを振り向いたニヤりとしたり顔のイレーネは、あからさまにイタズラを(たくら)む子供のような表情だった。

 もちろんキャロウェイお爺さんには死角の位置で。…くっ、計算し尽くしている!


「なんじゃ、なんじゃ。カイのその慌てようは。…イレーネ、何があった?」

「実はね……」

「………ばっかもーんッ!!!」


 全ては(つまび)らかになり、逃れようもない事実のもと、僕とドーファンはしっかりとお叱りの言葉を頂く事になった。

 ハイクは後ろを向いて、うずくまっている。…あれは笑っているよね。……うぅ、そんなにデリカシーないかなぁ。ただお礼を言ったつもりだったんだけど。

 あぁ、今日も空は暗いや……。辺りはすっかり夜になり、ぼんやりとした月明かりが妙に綺麗に見えた。




「なんか楽しそうだな。一体何を話していたんだ?」

「あっ、ヨゼフ師匠! おかえりなさいっ!」


 パッと現れたヨゼフにより、やっとお叱り時間(タイム)は終了を迎える。…ヨゼフ、ありがとう。


「カイとドーファンが二人でよってたかっな、イレーネに対して揶揄(からか)うような言葉を浴びせたんじゃ。だから叱っておった」

「ははーん…なるほどな。若いなぁ」

「若い? 若いって何よ、ヨゼフ」

「…俺の口からは言えねぇな。どれ、飯の準備をするぞ。飯だ、飯」

「もう! 気になるじゃないっ! 教えてよっ!!」


 ヨゼフの服を何度も引っ張って訴えかけるイレーネを無視しつつ、ヨゼフは器用にあしらいながらも作業に取り掛かっていた。


「よし、じゃあこれに懲りたら次から気をつけるんじゃぞ」

「「は、はーい…」」


 僕とドーファンは草原を駆け抜けた時とは違う疲れを覚え、ふぅとドーファンと背中合わせに地面にへたり込む。


「…お互い注意しようね。ドーファン」

「…うん、気を付けようね。カイ」


 背中合わせでドーファンの表情は見えなかったけど、お調子者同士の僕らはきっと同じ、やんちゃで子供じみた笑顔を浮かべているんだろうな。

 普通なら怒られて憔悴(しょうすい)しているだろうけど、お互いに妙な親近感が芽生えた。……えへへ。




 本当はもっと湿原の様子とか種類とか書きたいのですが、今は物語優先で詳しい描写は控えます。またどこかで湿原に触れる機会が訪れると思います。

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