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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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カイの考え 四 

第百三十七節

「流石だね、イレーネ。どうしてわかったの?」

「どんだけ付き合いが長いと思ってんのよ! 当然でしょっ!」

「え? え? 何だよ? どう言う意味だよ、カイ?」


 イレーネは僕の考えたやりたい事を聞いて、僕が何かしらの理由があって話した事を見抜いていた。鋭いね、相変わらず……。


「で、どうしようとしているの? ただの子供である私達に何をやらせようって言うの?」

「確かに子供だけど、ただの子供ではないよ。僕達は帝国の被害を受けて亡命した子供だ」

「うーん、それが何の関係があるんだよ?」


 ハイクは早々に思考を放棄して質問する。さっきまでは何とか考えながら話しを聞いていたようだけど、イレーネの指摘で自信を無くしてしまったらしい。


「ハイク。思考をするのは大事なことだよ。わからないからって諦めちゃいけないよ」

「いやー、わからねぇよ。頑張って考えてたけど、何が何やら」

「じゃあ順を追って考えよう。僕達のような子供が帝国に村を焼かれて王国に逃げて来た。これを王国の大人達が聞いてどう思うかな?」

「そうだなー。………可哀想とかか?」

「そう! そこだよ! その可哀想って感情が大事なんだっ!」

「……ふーん。どうやらカイはその大人の感情を利用しようとしているのね」


 おっ、イレーネは気付いたようだね。僕の考えの実現への第一歩のやり口を。まだハイクはわからないようだから説明を続ける。


「“帝国の村に暮らしていた子供が、帝国軍に村を焼かれて亡命して来た”と聞いたら、最初に浮かぶ感情は可哀想とか、憐れみの念が生じるだろうね。普通なら亡命者は帝国に突き返される可能性が高い。だけど、僕達はそうじゃない」

「カイは王国の発展に役立つから、ギルドって所に所属させろって話しね」

「うん。ヨゼフがあの夜に話していたね。まぁ、僕だけが対象というより僕達がそうなる。二人は僕の巻き添えで申し訳ないけど、僕達はギルドへ加入する事になる。多くの人からの期待の眼差しに晒されながらね」

「そっか! 俺達はギルドで実績を上げて、国の発展に役立つ事を期待されるから帝国に帰れって言われないんだなっ!」

「ご名答、ハイク」


 僕達の場合は特別だ。……もっとも、皮肉な事にこのような状況に追い込まれながらも、細い一本の生き残るための道を作ってくれたのは師匠だ。僕の両親が死ぬ原因を作ったのも師匠なのに。


「そして、僕達のような帝国の被害者を、この国では大きく用いるだろうね。王国は帝国から被害を受けた子供を匿い、そのような人材も大切にするって謳いながら宣伝する。うーん、広告塔って言えばいいのかな?」

「広告塔? その言葉の意味はわからないけど、要は私達は王国にとって、帝国の民衆や他の国に対しての、帝国の被害者を保護するっていう一つの象徴として担がれるって事?」

「それだよっ! 王国が僕達の立場を利用しない手はないんだ。……まぁ、王都に着いてギルド長に面会するまでは、その立場も得られないだろうけどね。その後の道のりは言わずもがなだけど……」

「“この先の人生は並々ならぬ苦難と困難が立ち塞がることだろう”ってヨゼフ師匠も言ってたな」

「うん。“多くの勲功や実績を挙げるのが当たり前だと思われながら、この国の発展のため、ギルドでの多大な活躍という重責がこの先に待ち受けている”とも言ってたから、かなり険しい道だろうね」

「……そうね。でも、ギルドでの活躍が期待されるのはわかるけど、国で弱者の象徴として担がれるって予想は、何だかしっくりこないわ。だってまだ帝国と王国は友好国じゃない。カイは帝国と王国が戦争をするかもって前に商人のような人達を見て言ってたけど、友好国である以上そんな事をするとは思えないわ」

「矛盾しているって言いたいのだろうけど、これにも裏付けがある。僕がヨゼフやドーファン、キャロウェイお爺さんに提案した事は覚えている?」

「もちろんだ。あんな訳もわからない事を誰が忘れるもんか」

「だよね。僕自身が何を言っているんだろうって感じだもん」

「あんな提案をしたカイは頭がおかしくなったと思ったけど、それが今の話しに結びつくの?」

「うん。あれはね、戦争を想定した上での提案だったんだ」

「「えッ!??」」


 二人は本当に訳がわからないと驚嘆した。僕の言った意味を急いで理解しようと、頭をグルグルと回転させているようだった。


「あの時。ヨゼフとドーファンが僕の提案に興味を示し、キャロウェイお爺さんは僕の言っている事に疑問を挟んでいた。つまり、この国の王都では何かしらの戦争の予兆が見られていて、その事が囁かれているんじゃないかな。ヨゼフとドーファンは王都で暮らしているって言ってたでしょ?」

「それは…そうだけど……。でも、それなら聞きたい事があるわ。カイがあのとんでもない提案をした時、ヨゼフとドーファンが興味を示していた。ヨゼフが興味を示すのは理解出来るわ。だけど、ドーファンが興味を示すのは理解出来ない。ヨゼフはギルドにも所属していて、戦いが得意な人だからカイの提案に興味が沸くのは当然だと思う。でも、ドーファンは違う。ドーファンは私達と年もそんなに変わらない子供でカイと同じ虚弱な子よ。そんな子が興味を示す理由が私にはわからないわ」

「…………それは……」


 これはまだ言えない。これには確たる証拠もないし、今回のようにある程度の情報に基づいての判断を下した訳ではないからだ。………嘘だな。情報はある。あるけど、“まさか”という疑念が常に尽きないからだ。


「……それはきっと、ドーファンは沢山本を読んでいたからこそ、僕の案が面白いと興味を示したんだと思う。僕もドーファンの読んでいる本に興味があるよ」

「……ふーん、なるほどね」


 まだ納得しきれていない様子のイレーネを見て、少し急かすように話題を進める。


「とにかく、ヨゼフとドーファンの反応から王国内の一部では、帝国との戦争が起きるのではないかっていう噂があると僕は考えている。火のない所に煙は立たないからね。だけど、これは僕達には大きな機会(チャンス)であるとも捉えられる」

「大きな機会(チャンス)?」

「うん。ヨゼフが言っていたけど、僕達には国やギルドから期待されているんだ。つまり、その期待に応えて実績を積めば、僕達の立場も少しずつだけど強くなっていく。そして、ゆくゆくはこの国においても戦争の気風が強まり、やがては対帝国の火種がどこかで生じる。その隙に乗じて、僕は王国の軍に加われないかヨゼフやギルド長へ相談する」

「……………反対よ。カイは帝国と同じになりたいの?」


 そう来るのはわかっていた。イレーネは戦うのを嫌うだろうし、僕もイレーネには戦いに加わって貰いたくない。そして、僕自身が先程から話している、平和と離れた行動を取る帝国と同じではないかと誹謗した言い返しだった。


「イレーネ。確かに僕の言っている事は可笑しいよね。だけど、わかって欲しい。戦争っていうのは、何も相手の国を征服するまでが戦争ではないんだ」

「……どう言う事よ?」

「戦争で勝利した後、講和条約とか和平を結ぶ中で、“帝国が他国への侵攻をした際は他国と連合して帝国と再び対峙する”とかの内容を組み込む事で、しばらくの間の平和を築く事は出来るし、その僅かな平和が訪れた期間の間に、多くの国に少しずつ人と国の在り方について考えるように仕向ける事で、ゆくゆくは帝国内でも多くの民衆の間にもこの考えを流布する。高望みになるけど、帝国は帝国の人民の手によって滅ぼされればいいなって言うのが僕の理想だよ」

「………カイってたまにエゲツもない事を言うよな。ちょっと引いたぞ…」

「…………ドン引きね…」

「えっ!? そ、そんな事ないよッ!!」


 徐々に二人の視線が怖いものを見るような目の色に変わり、僕達の間に温度差が生まれたような気がした。

 まずいッ! 何とかして二人に僕の考えの根底にある意味を伝えないとッ!!


「あ、あのね…ハイク、イレーネ。これは多分一番被害が少なく済む理想的な未来の構図なんだ。エゲツない事じゃないし、平和について人々が考えた結果の末の帰結として最高の形なんだ」

「……被害が少ないって言っても、カイは戦争に参加する気なんでしょ?」

「否定はしない。でもね、これは平和を唱える者の役目でもあると僕は考える」

「帝国が戦争を讃美しつつ平和を唱えながらも、平和ともっとも遠い位置にいるって言ってたのにそれは変じゃない? 帝国も平和を唱えて戦うのに、カイも平和を唱えて戦うのは変よ」

「イレーネに勘違いして欲しくないのは、僕は戦争は嫌いだという事実を知って欲しい。恐らく起きるであろう戦争を早く終わらせるために参加したい。体力はイレーネにも負けるような僕は、恐らく一瞬で一兵卒として死ぬ可能性は高いけどね」

「それを理解していながらどうして戦争に参加しようとするのッ!?」


 イレーネは感情を撒き散らし、僕に対して憤怒と呆れが入り混じった想いをぶつけてくる。……やっぱりイレーネはイレーネだよ。


「イレーネ。僕は体力や体術には自信がないけど、悪知恵だけは自信がある。この悪知恵を使って帝国の侵攻を食い止め、なおかつ帝国の領土の一部を切り取る。そこまで漕ぎ着ければ帝国との和平条約を結ぶところまでいけると思う。落とし所を作るためには、どうしても帝国との戦争において圧倒的な勝利を刻まなければならないんだ。それが最短で多くの人の生活を守るための手段だ。そのために僕は嫌いな戦争にも参加する」

「戦争が嫌いならそんなのに参加しなくてもいいじゃないッ! 戦争は得意な人に任せて、カイはギルドで頑張り続けてればいいのよッ!!」

「イレーネ。僕は帝国は間違っていると考えているけど、帝国の皇帝に対して認めている事の一つに、皇帝は自らが最前線で戦おうという姿勢を示している事だ」

「それが今の話しに関係があるの!?」


 当然の質問が持ち上がるが、これに対する答えは()うに決まっている。こればかりは譲れない僕の矜持だ。


「僕はね、自身が平和を唱えながらも口先だけで民衆を戦争へと導く、弁舌家気取りの為政者は嫌いなんだ。自らは玉座という安全な位置から指示し、国のためと言いながら自身の権威を高めようとしたり、民衆を苦しめるような政策を施すような人物は特にね」

「その時代の平和を壊した人間に求められるのは、さらなる平和な時代を創り上げるために尽力する事。そして、早期に戦争を終わらせる事だ。だから僕は、平和を唱えながら後方の安全な所で座っているような人物にはなりたくない」

「そのためにも、僕は嫌いな戦争に参加したい。平和のためにも最低限の役割だけは果たしたいと思う。平和を愛するイレーネには、いつの日か来るであろう戦争の間、他の事をお願いしたい。これも重要な役割だから」


 暫くの間、僕の事だけをじっと見据え、その少女の瞳は深く相手の事を見極めようとする。瞼を閉じて、僕の言葉の意味を噛み砕いた後、静かに口を開いた。




「………その想いは変わらないようね。いいわ、好きにしなさい」




 呆れ、諦め、受け入れ、自分の心を殺して、僕の意見を認めてくれた。


「ありがとう、イレーネ。僕の意見を聞いてくれて、そして、ごめんね」

「……どうせ、戦争の日の間に私が何をやればいいのか、まだ教えてくれる気はないんでしょ」

「うん。まだ話すべき時じゃないかな」

「……全く、カイは昔からそうなんだから」


 ハァ〜ッと溜息を吐きながら、どうしようもないくらいに呆れた、と言葉にしなくてもイレーネの考える事が手に取るようにわかった。だって、今は目の前で少し口角を上げながら微笑んでいたから。僕とハイクに対して呆れた時、いつもイレーネはこの仕草をするからね。


 僕がイレーネのいつもの仕草に対して少し微笑むと、イレーネも微笑んでくれた。




「なぁ、俺はその間って何してればいいんだ?」




ヨゼフのセリフは第七十節の時のです。次で多分、カイの考えは終了するかもです。

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