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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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カイの考え 三 “ただいま”

第百三十六節

「カイは帝国が世界を統一しても平和にならないって言うけど、他の国が統一する時も民の人にはもちろん負担が生じると私は思うけど、帝国のやり方がカイには気に食わないのね?」

「その通りだよ、イレーネ。僕は帝国が他国へ侵略している間の政策を見ると、もし帝国が世界を統一したとしても平和になるとは考えにくいな」

「そうだよな。俺達の村は何の落ち度もなかった筈なのに、帝国の討伐対象になったとあっちゃ、村に住んでいた俺達としては、帝国のやり方は間違っていると俺も思う」

「私はお互いが監視し合う法律が本当に嫌だったわ。同じ村に住む仲間同士で監視し合ってたら、みんな疑心暗鬼になってたもの。あんな法律は間違っているわ」


 ハイクとイレーネも帝国の政策は間違っていると肌身で感じているようだ。僕もイレーネの言った法律は間違っていると思う。同じ政策を施した人物を知っている。彼の末路も悲惨だったが、結果としては国力を高めた偉大な政治家だった。

 

「僕もあの法律は国の発展には寄与するとは思うけど、政策としては間違っている。密告した者に報酬を与えると競争心を煽ってある程度成功しているように見えるけど、実際は民衆の間に不安の気持ちを抱かせている。過度にこんな強行的な政策を民に()いてしまっては、遠くないであろういずれかの日に、民心は帝国から一気に離れていくだろうね」


 二人も僕の意見に同意しているようで、強く頷いて返事をする。


「カイは他にもやりたい事がある言い方をしていたけど、一体どんな事をやってくれるんだ?」


 ハイクは面白がるように質問をしてくる。僕のやりたい事に興味があるようだ。




「僕は平和になる事を強く願っている。その平和が続くようにどうしても取り除かなければいけない法がある。それは"歴史を紡いでならない"という人類の平和の発展を否定する法だ」




「……平和と歴史に何の関係があるの? 歴史ってただの過去の出来事でしょ。そんなものが未来への平和と関係があるように思えないわ」


 …………昔、同じような事を何度も言われたな。歴史なんてものは現代に生きる俺らには関係ないって。


 小さな子供の頃にも言われて傷ついた事は今でも忘れない。その時はショックが大きかったけど、大人になって多くの人の価値観に触れる事で、他の人の見方に理解を示せるようになると、そこまで大きく悩む事はなくなった。

 だが、僕は歴史から多くの事を学んだ。だからこそ、僕は僕の信じる事を二人には知って貰いたい。


「平和を創り築いていく上で、歴史は重要な役割を果たすと僕は信じている。人は過去の行いを知り、その積み重ねた人の過ちを自らに照らし合わせる事で、どのような行いをすれば良いかを決定出来る道標、それが歴史だ。それを一人一人が考えるようになれば、平和な時代を始めて切り拓けると言えると思う」


 以前の世界で人類は何千年とボタンの掛け違いを続けてきた。だから争いに終焉は訪れない。思想の貧困から脱却をなせないまま何千年という時を経て、民衆全体が国家という在り方について考えるようになったのは、僕の生きた時代から遡って数世紀単位の話しだ。


「そんな性急に多くの人達へこの考え方を普及しなくてもいいんだ。何十年、何百年と掛かっても構わない。けど、平和と歴史という人類が永遠に抱えていく課題について考えるきっかけを、この世界の人々に投じてみるのが一番初めに気付いた者の役割だ。だから、僕は帝国にいる僕達と同じ境遇にある多くの人々を救うためにも、多くの人達が自分という人としての価値への尊厳を向上させ、己の在り方、国という在り方を人々に考えて貰いたい。国があっての人じゃない、人があってこその国なんだ」

「……なるほどね。カイの言いたい事はわかったわ」

「カイはよくそんな発想が思い付くよな。俺じゃ考えつかない事だな」

「ふふふ。それから最後にもう一つあるんだ」

「ま、まだあるのかよ」

「うん。これは僕だけの考えかもしれないけど、二人にも出来れば協力して貰いたい」

「協力?」


 ハイクとイレーネは一体何を言うんだろうと、何を協力するのかという疑問が表情に出ていた。




「僕は、僕達のいた村にいつか帰りたいんだ」




「カイは何を言っているんだ? 俺達のいた村は帝国の領土だぞ。この国の領土じゃない。帰るなんて無理だろう」

「そうよ。それに逃げて来る時に、私達の手で小麦畑を焼いてしまったわ。帰ったところで焼け果てた地面しか残ってないわよ」

「二人の言う事は当然だね。だけど、僕はどうしても帰りたい」

「どうしても?」


 頭の良いイレーネでも、僕の目的へすぐに理解を出来ないでいた。当然だ。これは理屈じゃなくて、感情的な問題だからだ。




「あの村が焼かれていようとも、もし村が無くなっていたとしても、あそこだけが僕達の故郷だからだよ。僕はあの村に父さんと母さんのお墓を建てたい。聞こえないかもしれないけど、“ただいま”って言ってあげたいんだ」




 二人とも思ってもみなかった事を言われたようだった。言われた事をすぐに理解し、理解したからこそ、その目は少し潤んでいるように見えた。


「……そうだ。そうだな。あの村は俺達の故郷だ。ちゃんと父ちゃんと母ちゃんに“ただいま”って言わなきゃな!」

「………カイのやりたい事はわかったわ。私はもちろん協力してあげる。他の二つも含めてね。世界中の弱い立場の人を助けてあげるんでしょ? 喜んで手伝うわ」

「俺もだ! 俺達のような被害者をこれ以上出さないためにも、俺はカイのやりたい事に協力するぞっ!!」

「ありがとう。ハイク、イレーネ」


 良かった。二人も協力してくれるのは本当に嬉しい。途方もない目的であるのは間違いないけど。


「だ・け・ど、実際にそんな事が出来るの? 私達は帝国から逃げてきただけの、ただの子供よ?」

「イレーネ。さっきカイも言ってたろ? 理屈じゃないって。何を成したいかが大事だってよ」

「……ハイクはまだまだね」

「な、何だと!? 何がまだまだなんだよっ!?」


 二人は目の前でわーわー言い始めた。……さっきから見える綺麗な景色もいいけど、やっぱり僕はこの景色を眺めている方がずっといいや。




「おい! カイっ! カイもなんか言い返してくれ! 俺じゃイレーネに口喧嘩で勝てる訳ねぇ!!」

「……ハイク。潔いのは立派な事だけど、もうちょっとこう……自尊心とか………」

「今はそこを気にする時じゃないだろ!? 俺は俺の得意分野を、カイはカイの得意分野を生かすだけじゃねぇかっ!!」

「そ、そっか。じゃあ僕もイレーネに立ち向かうよ」


 スッと立ち上がってイレーネとの舌戦に臨もうとしたけど、その立ち上がった苦労はすぐに霧散した。


「もう! そうやってすぐにカイに頼るんだからハイクはまだまだなのよっ!! それにハイクは私の言葉を勘違いしているからまだまだだって言ってるのよ!!」

「勘違いってなんだよっ!?」




「私がハイクにまだまだって言っているのは、ハイクがカイの事を理解してないから言ったの。カイ? カイは何か考えがあるからここまで私達に話したんでしょ? どうやって私達の村へ帰ろうと、そして平和を実現しようとしているの?」




 第五節で出てきた法律の事をイレーネは言っています。カイ達には不評のようですね。

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