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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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誰かの視点 三

第百二十九節

 コンコンッ、コンコンッ


「何だ」

「ご報告です。皇帝陛下からの密書が届きました」

「わかった。扉越しに秘書に渡せ」


 自身の秘書官に扉の近くまで行かせ、秘書官は少しだけ扉のドアノブに力を入れると、扉から僅かな隙間を伺わせ、その隙間から固い封のされた密書を受け取った。


 やっと陛下からの返信の密書が届いた。私はかねてから陛下に嘆願書を前線に送り届けていた。どうか前線の指揮官の中から、幾人かを王国侵攻のために派遣して頂きたいと。



 今の我が帝国には幾つかの問題が立ち塞がっているが、現状の王国侵攻策の中での大きな問題として三つの点が挙げられる。


 第一の問題として、前線に有能な者や歴戦の将兵が引っ張られているせいで、今の帝都にはまともな将兵がいない。いや、いない訳ではないが、かの将とその兵は有事の際に帝都に留まっていなければならない。

 第二に、陛下があの北の国にここまで苦戦するなど誰が考えられただろうか。恐らく陛下自身も予想し得なかった事態だ。

 陛下の軍の運用術の前には、常人の指揮官では瞬く間に滅ぼされてしまう。これまで大小幾十の国を併合し、その度に陛下の威名を知らしめてきたものだ。


 そんな陛下と相対成せる人物など、間違いなく敵の中に転生者がいる。それも陛下と渡り合える程の英雄たる人物が……。

 前線がここまで膠着してしまっては、今後の計画にも狂いが出てしまう。陛下の大いなる目的の成就のためにも、私は出来うる限りの策と厄介な貴族共への裏工作を行うまでだ。

 なぜ裏工作を行うか? それはあの役にも立たない貴族共を持ち上げつつ、今回の王国侵攻軍に有能な指揮官を捻じ込むためだ。

 無能な貴族共という存在が第三の問題だ。奴らは自身の権威やら権力の示威行為に愉悦を覚え、それを絶対の条件とする。

 故に今回の王国侵攻策には、認めたくないものの総大将にはあの古くからの大貴族が任ぜられてしまう事は間違いない。




 王国侵攻は絶対に失敗してはならない。そのためにも有能な指揮官が必要不可欠。なんとか貴族共の軍に、せめて副将に戦を知る人物を配属しなければならない。……流石に前線で総指揮を執る階級が高い将は送られてこないだろうからな。


「密書の開封を命じる。陛下の御言葉を読み上げよ」

「はっ!」


 縋る思いで密書の開封を秘書官に命じる。固く開封された封を切り、その中に入っていた一枚目の書には短くこう記されていた。



 

 “かの将達の前線からの一時離脱、並びに王国への侵攻軍の将として命じる。思う存分に役立てよ”




 「オォッ!!」


 


 思わず席から立ち上がり、その書に記された文章に感謝の意すら示してしまい感嘆の声を上げた。これで王国侵攻策にも希望の兆しが見えてきた。

 二枚目の書の中には、その者達の名が書き連ねてあった。



 

 …………勝てる。王国の侵攻策はこれで成功を収める筈だ。陛下の人員配置の巧みさには舌を巻いてしまう。




 軍の運用の中でも、とりわけこの王都に残った重装軍の運用をどうするかを私は悩んでいた。だが、この人物なら間違いのない指揮能力と、重装軍の特異性を生かしながらも戦える人物だ。

 そして、もう一人。特別な名前が記されていた。この者も謀略に長けた人物だ。戦場での異常事態にも対処出来る頭の回る人物だ。とても安心出来る。

 

 今は王国内にとある工作を仕掛けたばかりだ。こちらの準備が整うまでの時間稼ぎは出来るはず。前線からこれらの人物達が戻ってくるための時間、何よりアレの完成のためにはかなりの時間が必要だ。さらにはこの工作が成功すれば、王国内が混乱状態の中に攻め入る事が出来る。いい事尽くしである。


 

 

 ………クックック。少しずつではあるが侵攻への基盤が固まりつつあるな。


 ふと、二通目の書に記された一人の人物の名前に目が留まる。じっと眺め、その人物が王国侵攻に加わる事について思案する。




「……………暗黒騎士か。これは王国内が荒れるな」





もうちょっと後に書こうと思ってた話しを、筆者の気分を転換させるために短めですが書きました。

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