表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
124/409

税 一

第百二十八節

 黒雲達の姿を見て安心した後、黒雲達が起きた後に食事をする事を考えて、飼い葉桶の中に干し草を入れたり、飲み水を井戸から汲んで来て、バケツの中に入れておいた。

 うん、これなら大丈夫かな。黒雲達もこのくらいあれば、起きた後に食事も充分に取れるだろう。


 みんなの頭をナデナデしながら、もうちょびっとこの場にいたい気持ちにも駆られるけど、そろそろ陽も落ちてきた。結構時間が経つのはあっという間だった。


「今はゆっくりと身体を休めてね。また明日ね。おやすみなさい」


 少しばかり早い時間帯のおやすみなさいを告げて、厩舎を後にし宿屋へ向かう。




 クンクン、クンクン。




 何だかいい香りが宿屋から漂ってくる。少しどこか懐かしいような香りが……。


 宿屋の扉を開けると、そこには焼き立てのパンがズラッと並び、さらには沢山の焼かれた色とりどりの野菜料理が食卓の上に置かれていた。

 この懐かしくて良い香りは焼き立てのパンだったんだね。久しぶり過ぎて何の香りか扉を開くまでわからなかった。


「ど、どうしたのこれ?」

「おぉ、カイか。馬の世話は終わったようじゃな。これはな、村にヨゼフ達が到着してすぐに、竈門のある家に村長が命じてパンを焼いて届けるように依頼してたものらしい。野菜は竈門のない家からの提供じゃ」

「すっげーよなっ! 村のみんなが俺達のためにここまでしてくれるなんてっ! ヨゼフ師匠のジントク? に感謝だなっ!」

「人徳よ、ハイク。でも本当に凄いわよね。こんなに沢山食べていいなんて嘘みたい」


 そんなヨゼフの人徳の深さを知れる経緯を聞きながら、気になる言葉が耳を突いた。

 

 竈門のある家? 普通、竈門って一つの家に最低一つは設置されているものじゃないのかな。わざわざそこにあるのが特別みたいな意味を帯びているように聞こえた。

 僕は気になる言葉についつい横槍を入れたくなって質問をしてみた。


「キャロウェイお爺さん。今、竈門のある家にパンを焼くように依頼したって言いましたけど、もしかして竈門には税金が掛けられているんですか?」

「おぉ、よくわかったのう。その通りじゃ。竈門のある家には税金が掛けられるんじゃ。無論、竈門の数によってな」

「もしかして…パンは……」

「うむ。パンはパン組合のギルドに加入してないと作ると事は許可されていない」


 出たっ! ヨーロッパの悪徳税として名高い竈門税とパン組合ギルドの加入。


 中世ヨーロッパは家々に竈門の数に応じた税金を掛けて、ある家では税を取られたくないって竈門を潰したりしていた。冬は竈門が無くて寒くて仕方ない家もあったようだ。パンを焼き上げて作る事は、パン組合のギルドに加入してないと作ってはならなかった。


 うわぁ……この世界でそんな税を求められるなんて考えてもみなかったよ。



 …………まさかっ!?




「キャロウェイお爺さん。窓には税金って掛かるんですか?」

「窓? なぜ窓にも税金を掛けられなければならないんじゃ? そんな事されたらこの宿屋は窓だらけで大変な事になるじゃろうな」

「そうなんですね。良かったです」

「カイはたまに変な事を聞くのう」


 良かったぁ〜! 窓には税金は掛からないみたいだ。昔の中世ヨーロッパの意味不明税の一つに窓税というものがあった。

 窓の数に応じて税金が掛けられ、竈門の時と同じように、ある人達は窓を潰して税金から逃れようとした。

 そのため以前の世界のヨーロッパの街並みには、その時の名残で本来なら窓があった場所に、あたかもそこに窓があるように絵を描いてある家が沢山残っていた。最低限の風景の良さを残そうとしたようだ。

 さらに、窓から太陽の陽射しが家に入らなくなった事で、病気に掛かる人が増えたりと本当に厄介な事態を巻き起こし、多くの人を苦しめた最悪の税だ。


 まだ窓税が無いだけ救いかもしれないけど、竈門税やパン組合のギルドがあるのはちょっと意外。何かと前の世界に似た様々な文化や思想が根付いているように思える。

 僕以外にも前の世界からの転生者がいるとしか考えられない。ヨゼフもその疑いがかなり強い。ほぼ確定と言ってもいいくらいだ。

 そして、転生者には人類のために強い想いを抱いた転生者もいれば、自己の権威や権力を強める事に重きを置いた者もいるのではないか。

 竈門税の導入なんかは後者の考えの政策だ。寒く凍えた冬に自分の家に竈門がない事を考えもしなかった、民を追いやる愚者の政策としか思えない。

 

「どうしたの、カイ? 怖い顔をして…」

「……あっ、何でもないよ。イレーネ。ちょっと考え事をしていただけ」


 いけない。村のみんなから温かな食事を提供されているのに、ついつい考えが悪い方向に働いてしまう。気を付けないと。


「それにしても、こんなに村の皆さんに準備して頂いて、何の役にも立っていない僕としては恐縮しちゃいます」

「大丈夫じゃ。ヨゼフと共に賊の討伐を行えば、カイのその気持ちも少しは緩和されることだろうな」

「でもきっと、賊の討伐もヨゼフ一人で成し遂げてしまいますよ。僕は強い訳でもないし、賊の討伐に役立たないですよ」

「別に戦って勝つ者だけが功績を挙げる訳ではないぞ。旅の道中に仲間のために頑張ろうと、食事を準備したり、物を運んだり、道中の安全な経路を選定したり、仲間が怪我をした時に治療をしたり、あるいは仲間のために沢山の事を思案したりなどなど。何も賊を討伐するという結果だけが全てじゃないのじゃ」

「…そっか……そうですね。キャロウェイお爺さん、ありがとうございます。僕、自分に出来る事は何でも頑張ってみます」

「カイならみんなの役に立てる。最も、お前さんは考える事が得意なようじゃから、そこまで自分の価値を低く考える必要はないぞ」

「そうですね。僕は考える事が好きです。ですが、自分の得意な事を過信し過ぎてしまえば、いずれは自分の身を滅ぼす事にも繋がりかねません。だから僕は自分の事を常に低く鑑みる事にしています」

「その謙虚さは素晴らしい心構えじゃな。……だが、その逆もまた然りじゃよ。カイ」

「逆?」


 どう言う事だろう。何が逆なのだろうか? キャロウェイお爺さんのような長い人生の経験者が、褒めてくれた後にわざわざ口にするくらいだから、きっと意味のある言葉なんだと思う。


「………まぁ、これはまた後日に教えてやろう。もう少しお前さんの事も知りたいしな」

「えぇっ!? 今すぐ知りたいですよっ! 教えて下さいっ!!」

「くわっはっはっはっはっ!! 今は言えん。……それよりもな、カイ」


 キャロウェイお爺さんは僕の方に近づいて来て、耳打ちでボソボソッと教えてくれた。


「お前さん達の飯は二階のテラスに用意してある。テラスの突き当たりの右奥にコッソリと布に包んであの杖を置いておいた。後はお前さん次第だ。頑張れよ」

「ふぇっ!?」


 事前に考えうる事の範疇に外れた言葉に、焦りの声を上げてしまった。咄嗟に両手で口を押さえて、オロオロとしてしまう。


「そんなに驚いてどうしたんだ? カイ?」

「え、えっと……に、二階にテラスがあって、そこに僕達の分の食事が準備してあるって聞いて、少しビックリしたんだ」

「あぁ、その事か。俺らで二階に運んだんだよ。ここにある以外にもまだ食事があるなんてビックリだよなっ! しかも家の中にいるのに、家の二階の外で飯を食うなんてちょっとワクワクするよなっ!! 普通、家の中で食うだろうっ!?」


 妙にテンション高めのハイクは、とてもはしゃぎながら喜んでいた。確かに家にいるのにわざわざ外で食事をするのはウキウキした気持ちになる。

 僕も以前の世界では、あえてベランダに椅子を持っていって食事をしながら外の風景を観ながら食事をしたりした。

 多分、キャロウェイお爺さんが僕達に気を遣って食事の席を準備してくれたんだろうな。


「何から何までご厚意に感謝致します」


 頭を下げて感謝の意を示す。本当にこのまま頭をずっと下げていたいくらいに、キャロウェイお爺さんには頭が上がらない。

 僕達のため、いや、ほぼほぼ僕のために親切心を絶え間なく示してくれている。


「なぁに、大した事じゃない。儂もたまに一人であそこで食事を摂るんじゃが、なかなか良い場所なんじゃ。普段は客室に置いてある布を干すための場所なのだがな」


 しみじみと想い出しているように語るキャロウェイお爺さんの様子から、きっと何か特別な良い感情になれる場所なんだろうなと感じ取れた。


「儂らはここで食事を摂る。先に食べていてくれ」

「いいの? 勝手に先に食べて。今も動いているヨゼフとドーファンに悪いわよ」

「いいんじゃ。もとより別々に夜を過ごす予定だったし、飯は温かいうちに食べてしまうのが一番じゃ」

「イレーネ。ここはキャロウェイお爺さんのご厚意に甘えよう」


 せっかくの気遣いを無駄にしたくない事もあって、イレーネに言葉を掛ける。


「……そうね。お爺ちゃんの親切だものね。………ありがとう、お爺ちゃん。先にご飯を頂くわ」

「そこまで気にせんでくれ。風呂に入る時になったら呼びに行く。それまでゆっくりと話してくれ」

「爺ちゃんっ! ありがとうっ!! さぁ、行こうぜっ! カイ、イレーネっ!!」

「わっ、ちょっとっ! ハイクっ!?」


 ハイクは僕とイレーネの手を引っ張って、二階へと続く階段を駆け上がっていく。


「みんな楽しんでなっ!!」


 笑顔で僕達を見上げながら手を振って、キャロウェイお爺さんは送り出してくれた。



 

やっと書き溜めていた話しに、あともう少しのところまで近づいてきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ