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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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そういう事なんだ

第百二十七節

「……とんでもない事を思い付きますね、カイは。一体何をどう考えればそんな発想が浮かぶんでしょうね」


 ドーファンは顎に手を当てながら面白がるように、地図を眺めながら感想を述べる。

 でも、否定的な意見ではない。僕は二人のそんな様子を見て、”あぁ、そういう事なんだ”とわかってしまった。


「ヨゼフ、儂にはてんでわからんがどういう事なんじゃ? なぜカイの案が良いと思える?」


 やはり幾ら考えてもわからないと言う感じで、キャロウェイお爺さんはヨゼフに率直な質問をぶつける。


「カイの考えはハッキリと言えば無謀な考えだ。無茶が過ぎる。馬鹿みたいな発想だ。普通の感覚をしていれば、こんな事はまず考えにも上がらないだろうな」

「えぇ、正直カイの気が触れたのではないかとボクは思いました」


 うっ! 確かに普通の考えではないとは自覚しているけど、そんな責めないでっ!! 


「だが、だからこそ意味がある。無意味だからこそ意味を帯びる。視点の転換を生かしたとんでもない提案だ」

「そうですね。時間と労力は途方もないものになりますが、それ以上の成果を得られる可能性が高い。これは凄い案ですよ、カイッ!!」


 バシッと手を握られて、興奮混じりのドーファンは大喜びをしている。そこまで喜ばれるような事なのかな? もしくはそこまでヤバいって事なのかな?


「まぁ、これは俺らじゃ手出し出来ない問題だから、ギルド長から国に働きかけて貰わなきゃいけないな。王都に着いたら相談してみよう」

「でも、きっと大勢の民もわかってくれますよっ! それくらい凄い事なんですからっ!!」

「そ、そうか。儂には難し過ぎてよくわからんがな」


 なぜ三人の反応が真っ二つにわかれているのか。これに多くの人が疑問に思う事だろう。これは恐らくだけど、王都にいるか否かが関係してくるのではないか。

 キャロウェイお爺さんは帝国の情報に対する規制を情報統制と述べたが、この王国では情報格差が起きているかと思われる。


 ヨゼフとドーファンの反応から、王都という国の中心地だからこそ得られる多くの情報は、ヨゼフやドーファンの立場でも得られるという事だろう。噂話し程度の情報の可能性もあるけど……。

 キャロウェイお爺さんは僕の提案に食いつきもしなかった。この村には、まだ情報が届いていないという事だと考えられる。

 これらの事を踏まえて考えると尽きない心配と懸念事項、幾つかの仮説がポンポンと頭の中で膨らんでいく中で、結論をイレーネが告げた。


「私にはカイの言っている意味はわからないけど、王都に行く理由が増えたって事ね」

「そうなるな。それも急いでだ」

「ヨゼフ師匠。何で急いで行かなきゃいけないんですか?」

「……カイの提案は時間が掛かるからな。だからなるべく早く、ギルド長に会って話すべきだからな」


 ヨゼフは理由を述べたが、それだけが理由ではない。それでもそれ以上を語ろうとはせず、ドーファンもその事には触れようともしない。

 ハイクとイレーネに今は告げるべきではないと二人は判断しているのだろう。その判断を僕は支持しこれ以上はこの話題に触れない方がいいかなと、違う話題を振ろうとした。


「ふむ、儂もヨゼフ達がそう判断した理由を知りたいところだが、そろそろ宿の準備をしないとなぁ」

「そうだな。そろそろ日が始まるからな」

「日が始まる? 日が暮れるじゃないんですか?」

「……日が暮れるだったな。キャロウェイ爺さん、俺らも手伝うぞ。何かやれる事があれば言ってくれ」

「助かる。では、儂と共にハイクとイレーネは夕食作りを手伝って貰おう。カイはお前さん達が乗ってきた馬の様子を見てくれ。必要であれば干草や水を遠慮なくあげてやってくれ。ヨゼフとドーファンは湯を沢山沸かしてくれ。皆、風呂に入りたいだろうからな。あの湯桶の七分目に入るくらいに頼むぞ」

「やったっ! お風呂に入れるのねっ!!」


 タイミングよくキャロウェイお爺さんが次の行動の指針を示した。イレーネはお風呂に入れると聞いて殊の外大喜びをし、両手を上げてわーいとはしゃいでいた。

 ずっと動き放しだったし、女の子だから余計にお風呂は嬉しいのだろう。


「こっちではお風呂は夜に入るものなんだ」

「いえ、本当はお風呂は朝に入るものです。キャロウェイお爺さんが気を遣って下さっているんだと思います」


 ボソッと呟いた僕の疑問の声を隣にいたドーファンの耳に入ったらしく、すぐに答えとして返答が返ってきた。なるほど。そこは帝国と変わらない習慣なんだね。なんとなくだがホッとしてしまった。




「皆々それぞれ頼んだぞ。ハイク、イレーネ。よろしくな」

「おうっ! なんだってやるぜ、爺ちゃんっ!!」

「えぇ、なんでも任せて頂戴っ!!」

「頼もしいのう。では、早速じゃが……」


 三人は宿屋の中に入って行き、扉が閉まると共にその声も萎んでいった。


「じゃ、俺らもやるぞ。ドーファン」

「そうですね。……そ、その火起こしのやり方を教えて下さい」

「そういえば、やった事ないって言ってたな。まぁ、王都にいる奴ならやった事がないのも不思議はないな。せっかくの機会だ。ゆっくりと教えてやろう」

「はいっ! よろしくお願いしますっ!」


 ヨゼフとドーファンは、木製のかなりデカい湯桶を持ってどこかに向かっていった。




「さて、僕一人になっちゃったね」


 ぽつりと誰もいなくなってから無意識のうちに呟いた。寂しさから出た言葉ではなく、一人きりになると現状の把握をする際に何となく独り言を呟いて、自分に言い聞かせるように言う癖が身に染み付いてしまっているからだ。


「よし、黒雲達に逢いに行こうっと」


 ちょっとウキウキ気分になりながら、黒雲達の元へと早歩きで向かい始めた。少しの時間くらいなら黒雲達と過ごしてもいいよね? 

 厩舎の前に着くと、黒雲達はゆっくりと寝て休んでいた。


 ………あぁ、良かった。

 

 外敵に囲まれた森の中と襲われる危険性が少ない厩舎の中では、黒雲達の休みの質も変わってくる。とても穏やかな顔をしながら寝ている。ゆとりを持って身体を休める事が出来る場所は、この村の次は果たしてどんな場所になるのだろうか。

 ちょっとした不安を抱きながら、膝を屈めて眠る黒雲の縦髪をそっと撫で、聞こえているかはわからないけれども独り言を呟き始めた。


「黒雲。やっとゆっくりと話せるね。ここまで本当にありがとう。黒雲達がいなかったら、僕達は今頃どうなっていた事か………」

「これから先、恐らくだけどもっと大変な状況になりそうだよ。……せっかく逃げて来たのにね。どうしてこんな事になっちゃったんだろう」

「………でも、僕の中ではもう決めている。僕は自分の家族をもう二度と失わないと父さんと約束したんだ。……ハイクとイレーネは、この先何が待ち受けていたとしても必ず守る。そう誓った」

「黒雲、アル、アイリーンには、もっと苦労をかける事になるだろうね。……だけど、どうか僕達の事をこれからも助けて欲しい。迷惑ばかりをかけて申し訳ないけど、これからもよろしくね」


 黒雲に語りかけたながら、さっきのみんなの反応を思い返す。……僕の提案した事は未だにこれが最善の道であるかはわからない。

 きっと、過去の偉人や英雄達も、僕と同じように本当にこれで良いのかと、悔いたり考え続けたに違いない。信じて選んだ未来の先の果てに、何が待ち受けているのかはわからないからだ。


 だけど、これだけは言える。


 自分をしっかりと保っていないと、人はあまりにもあっという間に、時代の流れにゆらりゆらりと流されていく。

 それは明確な歴史上の事実だ。以前の世界の歴史上、幾度となく興り潰えた国や王朝の最期の果て、敗者と罵られた者達の中には、時代の流れに取り残された者達も多くいた。

 だからこそ、自分の進むべき道を思考と試行を重ねて志向し続けることで至高に至らせるべきなんだ。どうすればより良いか、どうする事がより最善か。ひたすらに考え続ける。

 その思考を止めた時にその時代の歴史は停滞し、いずれは腐敗し、やがては滅亡へと至る。




 ただ、その先の未来の歴史を、大切な家族を守るために、僕は僕に出来る最善の道を考え続けようと固く誓う出来事だった。


 



 

年末で忙しく更新なかなか出来ずにすみません。

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