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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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歴史を変える 一

第百二十六節

 突然こんな事を言われたら混乱するのも無理もない。それくらいに突拍子もない提案をした自覚はある。それでもこの案の有用性があるからこそ口にした。推測に基づいているから説得する材料としての価値は低いけど……。


「カイ。お前さんは何を言っておる? 何でそんな発想が浮かんだのじゃ? それに、お前さんの考えは莫大な時間を要するし、かなりの人手も必要だ。何よりもそうする価値がある事なのか?」


 僕が悪ふざけで言った訳ではない事を悟ったキャロウェイお爺さんは、僕を見据えてその考えの根底にあるものを見極めようとしている。再び真剣に向き合って口を開く。


「僕の推測に基づいているので、キャロウェイお爺さんに納得して貰う事は難しいかもしれません。ですが、この考えが実現すれば間違いなく村のためにもなると思うんです」

「……どう言う事じゃ? 真面目に考えて言っている事は充分伝わった。だが、それが村のためになるという理由がわからん」

「これは実現するかわからない事でもあるんですが、これがあるか無いかでとても大きな影響があると考えています。そのために僕はあった方が良いと考えて提案しました」

「………儂一人では判断がつかんな。後でヨゼフに相談しよう」

「わかりました」


 ポンッと僕の肩に手を置いて、キャロウェイお爺さんは薄っすらと微笑んだ。様子から察するに、ちょっとまだ疑心暗鬼といったところかな。

 それでも僕の提案を考慮して、ヨゼフの意見も聞くと言ってくれた。ありがたい。確かにヨゼフの意見は参考になると思う。色々と王都の事情とかも知っていそうだし。


「どれ、では一緒に運んで貰おうか。あれじゃ」


 ちょっと薄暗くて先が見えにくかったけど、そこに何が置いてあるか目を凝らしてみてようやくわかった。

 ……うわっ! 何だあれっ!? 何であんなに樽がズラーッと並んでいるんだろう。大きな樽がかなりの数を占めていたが、キャロウェイお爺さんの指差した先は少し下を向いていたので、多分、あの幾つかの小さな樽を指しているのだろうな。樽?  樽って事は……。


「お酒ですか?」

「そうじゃっ! ここは儂の酒を作っておる秘密の工房。どうじゃ、驚いただろう?」

「こんな地下に、まさか酒造りの工房がある事は予想外でした。しかし、宿屋の前に立っただけでも、強いお酒の香りが漂っているので、村のみんなにこの酒工房もバレているんじゃ……」

「無論、心配ない。地上でも酒造りをしているから、まさかここで酒を造っているとは思わんじゃろうな」


 おぉ……、偽装工作も既に済ましているとは。案外、キャロウェイお爺さんは策士だね。伝説の将軍と凄腕の政治家の話しからも、そうなんじゃないかって思ってたけど。

 そんな人だからここに来た明確な理由があるんだろうけど、念のため確認してみる。


「何で地上で作ってあるお酒じゃダメなんですか?」


 僕の中では当たり前の質問だったけど、キャロウェイお爺さんにとってはそうではなく、わざわざ大袈裟にその理由を語った。


「久しぶりの友との再会っ! 新しい友との出逢いっ! 新たな旅立ちを祝わんでどうするっ! 儂の秘蔵の酒はここに隠してあるのじゃっ!! さぁ、一緒に運んで今日の夜は共に呑もうっ!!」

「い、いえ。僕達まだ子供ですし……。それに今日はハイクとイレーネと一緒に過ごすので」

「…そ、そうじゃった。儂とヨゼフしか呑めなかったな。将来、カイ達が大きくなったら共に呑みたいのう」

「僕もです。キャロウェイお爺さんの作ったお酒を呑んでみたいです」

「今から楽しみじゃのう。どれ、カイはそこの酒を持ってくれ。儂はこっちの酒を持つ」


 それぞれ一つの小さな樽を担ぎ、片手に松明を掲げ、入り口の燭台の火を消してから先程降りて来た階段を上り始める。

 

 ただ、黙々と上っていく。……き、気まずい。何か話題はないかなぁ。

 そうだっ! せっかくの機会だ。村長さんに聞こうと思っていた事をキャロウェイお爺さんに聞こう。


「キャロウェイお爺さん。ちょっとお聞きしたいんですけど」

「ん? どうした?」




「この村には学校はないんですか?」




 そう、この村に入った時にそれらしい建物は無かった。ずっと気になっていた。もし、学校があるならいいんだ。無かったとしたら……。


「学校か。帝国独自の文化じゃのう。この国も他の国にもないな」


 …かなり不味い気がする。帝国が学校の制度を設けている以上、他国よりも優秀な者を育て、見出す方法を国全体で設けているって事になる。何せ僕達の村にもあったくらいだ。

 帝国以外の国々は、どうやって人材発掘や人材育成やをしているのやら。


「その、何で帝国だけ学校の制度があるのでしょうか? どうして他の国々は学校を作らないんでしょうか?」

「ふむ。作らないじゃなく、作れないが正しいだろうな。教育という事に金を使う余裕など普通はありはしない。子供達にも働いて貰うのが帝国以外の常識じゃ」


 ……あれ? 帝国って本当にこの世界において、他の国と比較すると一つ先の時代をいっている国なんじゃないかな。もし、このままの状態で差が開けば、帝国の一強という展開もありえるぞ。


「学校は帝国の宰相が考案したと言われておる」

「宰相? その人について何か知ってますか!?」


 おぉっ! また面白そうな情報だっ! ぜひ今のうちに聞いておきたい。


「うーむ。宰相は幾人かいると聞いておる。誰が考案したかなどはわからんのぅ」

「幾人か?」

「そうじゃ。法を司り、教育を施し、軍の階級の明確化を図るなどを宰相達は行ったらしい。帝国の政治は(もっぱ)ら宰相達が取り仕切り、皇帝や将校らは基本的には戦いに明け暮れておる」

「何で帝国はそんなに戦える力があるのでしょうか? どうやったらそこまでの士気を保てるんでしょう。戦争が長期化したら民の暴動や貴族の反乱とか起こってもおかしくないのに」

「さぁのう。しかし、古くからの貴族と皇帝の間には、皇帝との固い忠誠が交わされていると聞いた事がある。そういう忠誠の厚さも関わっておるのかもしれんな」

「古くからの貴族との忠誠ですか」


 思った以上に厄介だ。そこまで強い絆で結ばれているなら、とてもじゃないけど付け入る隙すらないだろうな。

 帝国と敵対している国にとって、帝国はさぞやり難い相手に違いない。ここまで話しを聞いているに、国としての強さが段違いに感じる。

 

「カイは帝国にいたのに、帝国の事はあまり知らないようじゃな」

「はい。僕のいた村にはそんな事は知らされていませんでした。多分、知らせる必要がないと判断されてたんでしょうね」

「情報の統制か。徹底しておるのう……。どれ、ようやく階段を登りきったわい。さて、そろそろヨゼフ達も帰って来る頃かのう」


 先程の沢山の物が置いてあった部屋にたどり着き、鍛治工房の外に出て、焚き火をした場所のテーブルの上にお酒を置く。


「おーい、帰ったぞ〜」


 丁度その時、ヨゼフ達が帰って来た。何やらみんな、とても良い顔付きになっていた。


「みんな。おかえりなさい」

「カイ、ただいまっ! 甘味ってすげーんだなっ! めちゃくちゃ美味しかったぞっ!!」

「カイにもちゃんとお土産を貰って来たわよっ! 村長さんの家は案外狭かったわよっ!!」

「いやぁ、なかなか見れない物も見れて面白かったです」

「みんな、楽しかったみたいで何よりだよ。僕も楽しかったよ」


 思い思いに感想を語ってくれた。もっとゆっくりと話しを聞きたいくらいだ。だけど、そんな暇も無いと言わんばかりに、キャロウェイお爺さんはヨゼフに相談を持ちかけた。


「ヨゼフ。ちょっと良いか? いや、ちょっと聞いてくれ。カイからある提案をされたんだが、儂にはカイの考えをいまいち理解出来なくてな」

「何だよ、帰って来て早々に。一体何だって言うんだ?」

「カイ。みんなに説明してやってくれ」

「わかりました。ちょっと思い付いたんだけど───」






「「「「……………は?……」」」」





 みんなもキャロウェイお爺さんと同じ反応だった。……うぅ、こんな反応が続くと流石に自分の考えにも自信が無くなるよ。


「カイ、何でそんな考えが浮かんだんですか? 具体的に理由を教えて下さい」


 ドーファンも不思議でならないと様子で尋ねてくる。……そうだ。まだ陽は出ているし、ちょっとした木の棒ならその辺に落ちているし、僕の予想した地図を描いてみれば伝わるかな。

 僕はすぐに地面に落ちていた木の棒を拾って、これまでの話しや自分がいた場所、道中の記憶を頼りに簡易的な地図を地面に描く。


「みんなの話しとこれまでの経験から、何となくの地図を描いてみたけどこれで合ってそうかな?」


 地理を知っているであろう三人に確認を取る。三人もいればどこに何がありどのような経路かという、より詳細な場所がわかるかもしれない。


「あぁ。カイの描いた地図で大体合っているな。ちょっと足すとここはこうだな」

「えぇ。この村や瘴気の森、険しい山々、王都もこの辺ですね。あとはここにはこんな感じで」

「うむ。国境沿いの街から続く街道もこうじゃな。街道は大きく曲がっているからこうじゃな」


 それぞれの記憶や情報を頼りに、僕の持っていた木の棒を使って三人はちょこちょこと地図に描き加えたり、修正したりしている。ふむふむ、より詳しい全体図がわかってきた。これを見た事で僕の考えは確信へと近づいていく。


「ありがとうございます。これを見て僕の考えは役に立ちそうだなって改めて思いました」

「どういう事じゃ? やはり儂にはわからぬが……」


 キャロウェイお爺さんは地図を見ながら、さらに悩みが深まっているという様子だった。まぁ、その感覚が本当は正しい。地図を描く事で、()()()()()()()()()()()()()()()()。割に合わないと感じる人が圧倒的だろう。何のためにってね。

 もし、僕の考えが無意味だと思えるなら、それはそれでいい。それで知れる事もあるからだ。だけど、この考えに何かの意味や意義を見出してしまうなら………。



 

 ふと、ずっと地図を眺めながら考えているヨゼフを見る。深く、深く吟味しているようだ。やがて口を開くとヨゼフはこう言った。





「カイ。これはこの国を………いや、この世界の歴史を大きく変えるぞ」





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