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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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くっつけ

第百二十四節

 …………で、出来たっ! このすべすべの手触りなら文句無しだよっ! いやぁ〜、楽しかったっ!

 こういう黙々とのめり込んで行う作業ってついつい時間を忘れてしまう。

 木を削った後に漂よう心地良い芳烈ほうれつに包まれながら、僕は乾いた粗布で全体を優しく撫で回す。

 ヤスリを掛けた後に残るおが(くず)がどうしても付着してしまうため、それを払拭(ふっしょく)する事が主な目的だけど、自分が頑張って仕上げた物だから、どうしても愛着が湧いて()でるようにゆっくりと撫でてしまう。

 これならキャロウェイお爺さんからの許可を貰えると思う。うきうき気分でパッと席から立ち上がると、大事に磨いた品を手にキャロウェイお爺さんの元へ向かう。


 


 サッ、サッ、サッ




「……ふむ、これくらいかの」


 僕が近付いていた時にそんな声が聞こえてきた。どうやらキャロウェイお爺さんも丁度終わったようだ。声を掛けても問題なさそうで良かった。キャロウェイお爺さんから何かあったら声を掛けていいと言われているとはいえ、何度も作業中に声を掛けるのって何だか気が引けてしまう。

 こちらの都合で作業を中断させてしまう事を考えると、幾ら優しい人が相手でも何だか悪いなって気持ちが、沢山の思考がある中でも圧倒的に先行し脳内を占め、それが心にまで至りやがては行動にまで至ってしまう。

 

 そんな脳内論争が起こり得た状況を回避出来た事にも喜びを見出しながら、僕は遠慮なくキャロウェイお爺さんに声を掛ける。


「キャロウェイお爺さん。出来ました。もしよろしければ見て頂いてもよろしいでしょうか?」

「おぉ。丁度良いところに来たな、カイ。どれ、では観てみようかのぅ」


 さっき確認して貰った時よりも、もっと注意深く目で見て、時間を費やして実際に手で緩やかに触り、不思議な事にそれらの仕草はまるで木と会話しているようにも見えた。

 ふと、キャロウェイお爺さんの瞼が静かに閉じる。何かを吟味しているのか、キャロウェイお爺さんから次に口から出る言葉に自然と重みが増してしまう。

 やけに重い空気がのしかかる。僕もその空気に呑まれて、身体が過剰に強張って緊張してしまう。……うぅ、大丈夫かな。ベテランの職人に見て貰うのは本当にドキドキする。体感温度がグングンと上がっていく。




 実際には短い時間であったであろうほんの数分。僕の中では数十分に感じられたその時間は、ほんの数秒の言葉で終わりを迎える。


「………よくやった。これなら魔石とも良く馴染むじゃろうな」

「ほ、本当ですかっ!?」


 やった! キャロウェイお爺さんに認められたっ! 良かったぁ〜っ!! あともう少し、あともう少しで完成するよっ!


 嬉しさが抑えられずにピョンピョン跳ね上がると、僕の様子を見たキャロウェイお爺さんも嬉しそうに高らかに笑う。


「くわっはっはっはっはっ!! そんなに嬉しいのかっ! では、もっと嬉しくなる物を見せようかのう。カイ、こっちに来い」


 キャロウェイお爺さんは自分の横に来いと手招きして、ある物を僕に見せようとしている。

 もうそれが何かをわかってはいても、わくわくせずにはいられなかった。どんな風に仕上がったのかを見たい気持ちが逸って、身体を前へと踏み出させる。


 僕が横に立つと、キャロウェイお爺さんは万力から魔石を外し、僕の前にそれを差し出す。


「どうじゃ? これなら問題ないと思うんじゃが見てくれんか?」


 キャロウェイお爺さんは僕と同じように”見てくれる?”と、ちょっとお茶目に聞いてきた。

 “いやいや、もうそんな事は聞かなくても僕の答えなんて知ってるでしょ?” なんて野暮な事は言わない。

 だってそこには最高の仕上がりの魔石があったから。


「す、凄いですっ! 魔石が輝いてますよ!!」


 魔石が元の状態よりも、より一層キラキラと輝いていた。多分、気のせいだけど魔石からより魔力を感じられるようにも思える。


「そうじゃろそうじゃろっ! 輝いて見えるじゃろっ!! これがドワーフの力じゃっ!!」


 キャロウェイお爺さんは胸を張って、自分の種族の技術の誇りを、その素晴らしい技を持って体現した。

 自分が凄いと誇るのではなく、その技術を種族の力と言い切るキャロウェイお爺さんだからこそ、ここまでの輝きを持っているんだと勝手ながらにそう思えた。


「よし、ではこの魔石とカイが手を施した木をくっつけるぞ。まずは何も付けずにくっつけて確認するか」


 そう言ってキャロウェイお爺さんは、仕上げた魔石と木を組み合わせて、最終的にどんな仕上がりになるかを確認する。


「わぁっ! 殆どピッタリ嵌りましたねっ!!」

「少しだけ隙間を空けるように考えて作ったが、考えていたくらいの隙間じゃな」


 言われた通りによくよく見ると、ほんの僅かな隙間が見える。

 凄い。こんな緻密な計算をあんな瞬時にしてしまうなんて。


「どれ、アレもそろそろいいだろうな」

「アレ?」

「少し待っといてくれ」


 キャロウェイお爺さんは外に行き、そんな時間も掛からずに戻ってきた。

 手に革手袋を付けて、持っている物からはグツグツという音が聞こえ、その熱気は少し離れた僕の肌にも伝わってくる程の熱さだ。

 こんな状況でそれが何なのかをわからない訳がない。テンションが上がってついつい聞いているような口調で断言してしまう。


「それは瀝青ですねっ!!」

「そうだ。あらかじめ熱して煮ておいた」


 うわぁ〜、あとはくっつければ形にはなるぞっ! しばらく置いておく必要があったり、恐らく仕上げで何かの油を塗ったりすれば完成だっ! ……あれ? でもちょっと気になる事が。


「い、いつの間に外に行っていたのですか?」

「何じゃ? 気付かなかったのか? 初めの頃に少し抜け出して、これを熱しておいたのじゃ。まぁ、お前さんが夢中で作業していたから気付かなかったんじゃろうな」


 うっ、それは違うとも言い切れない自分がいる。いや、間違いなくそうだったんだろうな。ちょっと恥ずかしい……。


「ここからは一瞬じゃ。よく見ておくのじゃ」


 熱された瀝青が入った小さな鍋の中に、キャロウェイお爺さんは黒い鉄の棒を入れて、溶けた瀝青を掬い上げると、加工した木の平たい面に注ぎ込み、すぐに魔石をそこに嵌め込む。


 持っていた道具を置いて、右手に魔石を左手に木を持ちながら、異なる素材をくっつけようとギュッとそれぞれの手に力を加える。


 僕は無意識のうちに”くっつけ! くっつけ!” と両手に拳を握りながら心の中で声を上げ、その声に合わせて身体の熱量が増していく。


 次第にそれらの二つの素材は、瀝青を通してお互いを受け入れ合い、やがて一つの価値ある物として新たな物へと生まれ変わる。

 そして、シュウウゥという音と共に、遂に求めていた物の形は完成した。




「……出来たぞ」




 キャロウェイお爺さんが僕の前に差し出した物、それは一本の杖だった。

 



 カイが作りたかった物は杖でした。ようやく形になりました。次は仕上がりの描写をちょっと書きながら、キャロウェイお爺さんとある場所に行きます。


 次は土の匂いです。

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