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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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作りたい物

第百二十節


「待たせたな。ヨゼフ、お前さんの槍を砥いでいる間に使う武器を選んでくれ。好きな物でいい。安心せい、全て手入れは欠かさずにしておる」


 キャロウェイお爺さんは手に持っていた武器、ヨゼフが得意とする武器である槍を複数本と三振の剣を持ってきた。それらを近くの作業台に置くと、槍の柄の長さや太さも違う事が目についた。

 こんなに槍や剣を作ってある理由も何となくだが想像がついてしまった。


「……じゃあ、これを選ばせて貰う」


 ヨゼフは多くの槍の中から、自身が使っている槍に最も近い形状の槍を手にする。


「お前さん達も選べ。皆の武器も整備するからのう」

「えっ、俺らの武器も爺ちゃんが砥いでくれるのか?」

「当たり前じゃ。これから賊との戦いに行こうとしておるのに、事前の準備をしっかりせんでどうする。時間がない中でもやれる事はやっておくべきじゃ」

「それもそうだなっ! んじゃあ、俺はこれを借りておく」

「ボクはこれで」

「……………」


 ハイクが槍を手に取ったのを皮切りに、ドーファン、イレーネも自身で槍や剣を選んでいった。


 僕はこの光景を観て、作ろうと思っていた物を絶対に作りたいと考えを改める事が出来た。間に合えばいいけど……。


「……じゃあ、俺らは村長の所に行くとするか。カイ、土産にお前の分の甘味も貰ってくるから安心しとけよ」

「えっ! 別に大丈夫だよ。村長さんの所に行かないのに、貴重な甘味を頂くのは悪いよ…」

「大丈夫だ。どうせあの村長の事だ。俺らに無理矢理にでも持たせてくれるからな。だからお前は爺さんに教われる事に集中して学んでおけ。もしかしたら(にかわ)も今回の席で貰えるかもしれないしな」

「膠? 一体何に使うんじゃ?」

「カイが何か作りたいって言ってな。何に使うかは知らないけど」

「ほぅ……カイ、何を作るつもりなんじゃ?」

「うっ、今はまだ言えない。……そうだ、ヨゼフ。ヨゼフが持ってくれていた木はどこに置いてある?」

「あれならそこに置いてあるぞ。ほら」


 ヨゼフの目線の先には、いつの間にかヨゼフが置いてくれていた木が工房の隅っこに立て掛けてあった。


「いつの間に?」

「イレーネと一緒に道具を借りたタイミングで置いておいたんだ。どうせ加工するならここでやるんだろうなって思ってな。お前もあの魔石は持ってるよな?」

「もちろん」


 僕はヨゼフから貰った袋に魔石を入れていたけど、言われた通りズボンの腰にきつく縛って肌身離さず持っていた。


「よし、じゃあ今度こそ俺らは村長の所に行くぞ」

「カイ、じゃあ行ってくるなぁ〜」

「ちゃんとお爺ちゃんの言う事を聞いておくのよ」

「後でどんな作業をしていたか教えて下さいね」

「うん、わかった。みんな行ってらっしゃーい」


 工房の外への扉の向こうにみんなが出て行くと、工房の中には僕とキャロウェイお爺さんの二人きりになった。

 ………よし、みんな出て行った。足音も聞こえないくらいに離れていった。これで遠慮なく行動出来る。




「キャロウェイお爺さんっ! 不躾なお願いで恐縮ですが、どうか一緒に”ある物“を作ってくれませんかっ!?」

「うわぁっ! なんじゃいきなりっ!? 一旦落ち着けっ!!」


 僕は勢いに任せて口を開いてしまった。いけない、いけない。少し落ち着かなきゃ。


「スゥー、スゥー、フゥー」

「……少しは落ち着いたかのう。で、カイは一体何を作りたいと言うんじゃ? どうやらヨゼフ達には知られたくなかったようじゃが」

「うん、ヨゼフ達っていうよりはイレーネに知られたくなかったんだ……」

「イレーネに? どう言う事じゃ」

「実は─────」


 それから僕は包み隠さずキャロウェイお爺さんに事情を説明した。


 僕がなぜイレーネに知られたくなかったのか、なぜ”ある物“を早く作ろうとしているのか、なぜどうしてもそれを作ろうとしているのか。




「……なるほどのぅ。だが、その話しを聞く限り、お主の考えておる材料では無理じゃないか?」

「えっ! そうなんですかっ!?」

「うむ。膠ではダメじゃろ。くっつくかもしれんが粘着が弱い。気休め程度じゃろうな。異なる材質の物を合わせるとしたら瀝青(れきせい)の方が安心出来る」

「うぅ……、ヨゼフからこの村に瀝青がないと思うって聞いていたから、ひとまず膠で接着させて王都に着くまでの間だけでも()ってくれればと考えていたんです。王都に着いて瀝青で作り直そうと思って」

「…………」


 ショックだった。まさか作れないなんて思わなかったから。僕の知識も完璧ではない。前世の記憶を辿りながら、これなら出来るんじゃないかっていう予想も含んでいた。

 実際、自分で膠や瀝青を使ってこれから作ろうとしている物を自分の手で作った事なんてない。こうも出だしから(つまず)くとは思わなかった。

 顔が自然と項垂れていく。……自分の事ならこんなにショックは受けなかった。僕はどうしても早く作りたかった。………いや、作るべきだと思ったんだ。






 だって、このままじゃ……あの子の手は……………






「少し待っておれ」


 そう言い残したキャロウェイお爺さんは、また奥の扉の方に姿を消した。何やら考え事をしながら入っていった。

 呆然と目の前の木を眺める。木からは未だに不思議な感じが、こちらの気も知らないで帯びた神聖さを主張しているようだった。

 

 キィィッと、なぜか奥の扉からこちらの工房に戻る時だけ、扉の軋む音を工房に響かせながらキャロウェイお爺さんは戻ってきた。


「ほれ、これだけあれば充分じゃろ」

「え?」


 その手に携えていた木のバケツを作業台の上に置き、そのバケツに覆いかぶさっていた布を取り払い、その中身を見て驚愕した。




「っ!! こ、これはっ!!」


 バケツの中には黒い塊となった物体が幾つもバケツの中に入っていた。どうしてこんなにあるんだろう……


「お前さんの求めていた物は沢山持っとるわい。何で持っておるかも後で教えてやろう」




 そこには間違いなく瀝青が大量に入っていた。そう、天然アスファルトだ。




 前から出てきていた瀝青についてようやく言及出来ました。


 瀝青は接着剤として昔から使われていました。次は瀝青の解説についてです。

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