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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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切るもの 斬るもの 伐るもの

第百七節

 不思議な気持ちになりながら観ていたけど、僕が聞こうとする前にキャロウェイお爺さんが口を開いた。


「……ヨゼフ。お前さんが連れて来た人の子は、儂にとって……いや、儂らにとって、とても大きな存在じゃな」

「だな。どうやら俺の予想は当たっていたようだ。ドーファンは王都の風潮に染まってはいない。そう考えてキャロウェイ爺さんの前に連れて来た」

「はぁ!? この人の子が儂らを蔑むような考えを持っていないかを確かめもせずに、儂に会わせようとしたのか!?」

「だってよぉ。俺の中で爺さんに会うのは当然だったし、それにもし事前に爺さんのことを知らせておいたら、ドーファンの驚いた顔が見えなくなっちまうだろ? まぁ、こいつは驚いた様子もなく、爺さんを当然の存在と受け入れていた。俺の予想をいい形で裏切ってくれた」


 ヨゼフはドーファンの小さな肩にポンッと手を置くと、ドーファンの顔を見ながら笑っていた。心底嬉しいことが、その表情から読み取れてしまう。


「何を言っているんですか。ボクの中では当たり前の礼儀をしたまでです。そもそも、あんな考え方が根付いてしまっている事が間違っている」

「よく言ったっ!!」


 今度はドーファンの背中をバシッと叩く。


「い、痛いですよっ! ヨゼフさん!! そんな強く叩かなくても」

「わっはっはっはっは!! いいじゃねぇか! そのくらい俺はお前の事を見直したんだっ! さぁ! 爺さんの誤解も解けたようだし、飯にしよう! 山鳩の肉を焼いてたんだ。爺さんも一緒に食おうぜ。みんなで一緒にな」

「……あぁ、そうだな。ご相半にあずかるとしよう」


 少々置いてきぼりな状況にあるけれど、僕もなんだか嬉しくなってしまった。


 多分、ここまでの一連の流れからの単なる予想だけど、このキャロウェイお爺さんと一緒に食事を取ること自体、普通のことではないのかもしれない。

 けど、それを当然とすることの出来るヨゼフとドーファンのことを観て、キャロウェイお爺さんを含めた三人が嬉しそうな顔を浮かべているのを観て、心が温かくなった。


 何が起きているか、どんな会話がされているか理解すら出来てないハイクとイレーネも、目の前の光景を観ていて、知らず知らずのうちに僕と同じ気持ちになっていたようだ。


 僕達も顔を見合わせながら、クスッと笑ってしまった。


「おぉ、そうじゃ。そこの帝国の人の子よ」


 帝国の人の子は三人いるから誰のことかなって考えていたら、僕の前にキャロウェイお爺さんが近づいて来た。


「お前さん、後で儂と一緒にここに来い。有無は言わせぬぞ」

「へ?」

「“へ?“ ではない。とにかく一緒に来るのじゃ」

「わ、わかりました」


 な、何かされてしまうのかな? 本当に有無を言わせないまま一方的に会話を打ち切られ、焚き火場に向かってキャロウェイお爺さんはスタスタと歩きだした。

 うぅ、もしかして勝手に砥石を使った事を怒っているのかなぁ…。お説教でも待っているかと想像するだけで、ブルブルと身が震えてしまう。

 そんな考えとは裏腹に、ヨゼフは僕に向かって話しかけてきた。


「良かったな、カイ。お前も爺さんに気に入られたみたいだぞ」

「えっ? 何がどうなったらあんな会話で気に入られたってなるの?」

「………意外とその辺が鈍いんだなぁ、お前は。まっ、後の楽しみにしとけ。俺達も行くぞ」

「何を楽しみにしておくの? ねぇ、ヨゼフ? ………ねぇってば!?」


 ヨゼフはニヤニヤしながら答えてくれることもなく歩きだした。まるで僕の反応を楽しんでいるようだったのが釈然としないよ。


 この後、どうなってしまうんだろう……。




 僕達は焚き火場に向かって歩く。焚き火が近づくにつれ、食欲をそそる芳ばしい香りが強くなっていく。

 うわぁ! 本当にお肉の香りだっ!! お肉を食べれると考えただけで、じゅるりと唾が口の中で溢れる。


「ほう、いい匂いがするもんじゃのう。肉は久しぶりじゃわい」

「だろうな。但し、全員一羽分って訳じゃないから肉を切り分けて食べるぞ。カイ、早速砥いでくれた短刀を返してくれ」

「うん」


 僕は持っていた二本の短刀のうちの一本をヨゼフに渡す。今のうちにドーファンに後で短刀を使いたいって伝えておこう。


「ねぇ、ドーファン。ちょっと後でこの短刀を使って作りたい物があるんだ。まだ借りててもいいかな?」

「えぇ、大丈夫ですよ。ボクには使う予定はないので持っていて貰って構いません。どうぞどうぞ」

「ありがとう! もし、また砥石を借りられる許可が降りたら、砥いで返すから安心してね」

「刃を砥ぐとそんなに違うんですか? ボクは一度も砥いだことがないから興味深いですね」

「それはもう大違いだよっ! どれくらい違うかって言うと………」




 ストンッ!




 一つの音が辺りに響く。それは何かを切ったことだけはわかった。その音のした方へ、みんなの視線が向くのは必然だった。

 その音の発生源は、短刀を手にしたヨゼフが焼き上がったお肉をテーブルの上で切り分けていた。


 けれど、その表情は予想外の事が起きているような感じで、お肉と短刀を訝しんで睨むように観ていた。


「おい、カイ。何でこんなに切れ味が鋭いんだ? 俺は普通に調理するような力加減で短刀に力を入れたんだが……。テーブルに刃の跡がくっきりついちまってるぞ」


 ヨゼフの視線の先はお肉と短刀ではなく、刃の当たった先のテーブルだったようだ。


 ひぇっ!? こんなに刃の跡がくっきり残るの!! 

 

 ……言いづらいながらもドーファンに刃を砥ぐ良さをアピールしなきゃっ!


「こ、このくらいの切れ味になるんだよ……」

「カイ……。ボクの短刀はカイにあげる。あんなに切れたら手元が狂った時が怖いよ……」


 敬語で話さなくなる程に、ドーファンに恐怖を植え付ける切れ味だった。善意の気持ちで行ったつもりが裏目に出てしまったらしい。ご、ごめんなさい。




「おぉ、やはりそうなったか。……人の子よ。お前さん、かなり刃を砥いできたんじゃろ? そりゃそうなるわい」


 さも当然と言うように、キャロウェイお爺さんは口を開く。その言葉に釣られて疑問に思った事をつい聞いてしまった。


「ちょ、ちょっと待って下さいっ! 何で刃を砥いできたらここまでの切れ味になるんですかっ!? 僕はここまで切れるなんて正直驚いていますっ!!」

「えっ!? カイも驚いていたのっ!?」


 ドーファンから見事な突っ込みを貰ったが答える余裕は無かった。それだけキャロウェイお爺さんの言葉の意味が理解出来ていない。

 言葉が矛盾しているように思えたから。


「言ったじゃろ。それだけ砥いできた。つまりそれだけの経験を重ねてきたのじゃろ。だから刃が鋭くなり過ぎた。だが、お前さんは本物で砥いだことが無かった。それ故にこうなった」

「ほ、本物ですか?」

「そうじゃ。儂の持っている砥石はそんじょそこらで採れる砥石とは違う。本物の中の本物の砥石じゃ。今までお前さんが使ってきた物とは訳が違う。お前さんがこれまで砥いできた感覚で同じように砥いだら、自ずとこうなってしまうじゃろ。本物の石で砥ぐには、それぞれの目的を知らなければならない。切るもの、斬るもの、()るもの………。これらは全く目的が違う。どれくらいの切れ味を求めるかによって、砥ぐ加減を変えなければならない。本物を使うとはそう言う事じゃ」


 なるほど。たしかに僕は砥ぐ事に夢中で、仕上げることだけを考えて砥いでいた。その用途や目的について考えたことは無かった。

 天然砥石と人工砥石はそこまで大きな違いがないって思っていた。けど、この目の前で起きた現象を観るにそうじゃないのかも。もしくはこの世界の天然砥石が違うのか。

 謎は尽きない。一つわかるのは、僕は本物の砥石を使うにはまだまだ経験が足らないようだ。その感覚を掴むのはどれだけの時間が掛かるのだろう。それだけ職人技というのは奥が深い。


 ……まだまだって思い知らされた。得意だと思っていたものが打ち砕かれる感じだ。これでも頑張ってきたんだけどなぁ。




「じゃからお前さんは本物を知ればよい。後で儂の工房で少しでも教えてやる。人の子はドワーフほど生きないとしても、その直向(ひたむ)きな心を儂は知っておる。お前さんは筋も悪くない。その証拠に刃が澄んでおった」

「人ならではの短くとも長い一生を通して、色んな事を学べば良かろう。刃を砥ぐ以外にも、儂の知っている事で直接教えられる事なら何でも教えてやる」


 ポンポンッと、僕の頭を撫でてくれた。


 それはちょうど先程、拳骨を喰らった場所だった。


 まるで労ってくれるように、優しく、大切な何かに触れるように恐る恐ると言った感じで、ゆっくり、ゆっくりと撫でてくれる。


 母さんの柔らかい手の感触でも、父さんの男らしい手の硬さとも違う。ずっとずっと硬く、ゴツゴツした感触だった。乾燥した掌がより一層そう感じさせたのかもしれない。


 少し、土の匂いも感じられる。知らず知らずのうちに手に付いた砂が、頭の上で擦られているようだ。


 撫で心地が悪い。普通ならそう感じてしまうだろう。ましてやこの世界で、この国の王都に住む者からしたら嫌な気持ちになったかもしれない。


 綺麗とは言い難い見た目のお爺さんに撫でられて。しかもドワーフで。




 だけど僕の気持ちは、そんな負の感情にはならなかった。寧ろ真逆の感情が心を満たす。




 ………あぁ、悪くないなぁ。




 どこか懐かしく、待ち望んでいたものに触れられて、とても幸せな気分になった。




またまた投稿遅くなりました。申し訳ございません。なるべく早く体調を治して頑張って書きます。


置いてきぼり・置いてけぼりの由来が面白かったです。


置いてきぼり・置いてけぼりは、江戸本所七不思議のひとつ「置いてけ堀」の故事に由来し、夕方に堀で釣った魚を魚籠びくに入れて帰ろうとすると、釣った魚を堀に返すまで、堀の中から「置いてけ、置いてけ」という声が聞こえたという話に由来するそうです。


置いてきぼり・置いてけぼりのどちらを使っても大丈夫という事で、今回は“置いてきぼり”を使用しました。

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