“歴史の一頁”
無窮の果てにまで続く道がある。人類が歩み積み重ねて来た過去の遺産の上に築き上げられた…言わば人が生きた集大成の局地、それが歴史である。
生み出された想いの数は幾千億。紡ぎ、重ね、伝えてきた想いの数はたった一人の人間には抱えきれない程に膨大であり、漆黒の無限の空間で煌めく星々にも匹敵するだろう。
人類の持つ輝きは星々の生きる時の一瞬であり、一時にすら及ばない。しかし、その放つ輝きは、宇宙から砕け落ち、大気の中で光輝燦爛の最期の光を発する流星雨よりも強く輝き、刹那の儚さのままに散る。
そんな人類の一頁には様々な想いが込められている。誰かと愛し、誰かに愛され、家庭を築き、幸せを築く。平凡な人生と思う者がいるだろう。だが、人類はこの平和を追い求めて止まなかった。
人類の歴史を語る時、戦いの歴史というのを避けられない。羨み、嫉み、私利を求め、そして争う。一部の権力者達の争いは時に国家を巻き込み、多くの無垢な人々は醜悪の渦に飲み込まれ、歴史の濁流に流されては消えていった。
叡智ある者は国を豊かにし、賢明なる者はより国を発展させ、愚鈍なる者は民を虐げ、愚劣極めし者は文明をも廃れさせ、灰燼に帰してきた。
人々は歴史から何も学ばず同じ輪廻の輪を回し続ける。限りない生と死を繰り返しては、同じ過ちをも繰り返し…折り返し…同じ糸を織り返す。
そして、今…ここにも一つの歴史が新たに紡がれようとしていた。歴史を紡いではならないとある世界で。一方は世界を一つに統一しようと、もう一方は国を守ろうとする大義名分を掲げて。
仰ぐ旗は違えども己が信ずべき道は一つであった。“自分達こそが正義である”…と。時として勝者こそが正義を築き、強者の利益に他ならずとも言われこそするが、正義の意義は誰がために、何に対する想いを抱いているかを忘れてはならない。たとえ立つ立場は違えども。
「な…何が起こっているッ!! なぜ我々が包囲されているのだッ!? 我が軍は敵の倍する兵力を持ってこの戦場にいたのにッ! それが…どうして……」
とある戦場のとある指揮官は、嘆きを持って喚いていた。だが、その嘆きはもはや手遅れであり無意味な叫びであった。この戦場の勝敗、いや…この国家間における戦争での勝者は決した。
戦術レベルでの不利を一気に覆すだけの猶予も、戦略上での巻き返しも許されない程の敗北を、この一戦を持って敗れ去るからだ。
「…ッ!! ウワァァァァァァァァァッッッッッ!!!!」
「助けて…助…け……て…ぇ」
この指揮官も無能だった訳ではない。とある国の英雄で名の知れた用兵家であった。
だが、そんな英雄が敗れ去ったのだ。
「嫌だッ! ……死にたくないッ!! 死にたくないんだッ!!」
「…な、何が起きているッ! ぐ…やめろッ! 来るなァァァッ!!」
非常に有利な戦争において、彼らは敗れ続けた。
自分達より遥かに劣る国に。
「…まさか、また“あの男”がこの未来を描いたとでも言うのかッ!? こんなの誰が予測出来ようかッ!? このような結末など…ッ!!」
力なき手を天に掲げ、死の音が迫る戦場を呪いながら誰かに向けて咆哮をあげた。
その大声は無慈悲にも誰の耳にも届かない。なぜなら兵士達の怨嗟の声が無情にも上回り、さらなる呪怨を戦場に轟かせていたのだ。
これはただの死ではない。全ての者を苦しみながら無に帰す強烈な死だった。
多くの兵士が気が狂うのも当然である。兵士の優劣があろうとも関係は無かった。死は平等に全ての者を飲み込んでいく。
「…なぜ…こうなった…こうなって……しまったのだ……どうして…我々……が………」
命を賭した最後の呟きは、虚しくも壮絶な戦場に掻き消されていく。
自身に魔の手が及んだ時、終末の影から逃れる術はない。
これは一つの物語の局地でもあり、通過点でもあり、未来でもあり、そして…始まりとも言える歴史の一頁でもある。
歴史を紡いではならない世界において語り継がれる物語が…今、幕を開ける。