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派遣聖女1〜エプロンおばちゃん〜

作者: 神楽

広大なボルテノバ大陸には四つの大国を中心に遥か昔から栄てきた。

この世界には人族しかおらず、王族、貴族を中心に魔力を持ち、魔の森から溢れる魔獣と戦ってきた。

だが、ここ40年程魔獣の被害が増え続け、森にほど近い小国が1つ2つと魔獣に滅ぼされ、隠しきれなくなった四つの大国の話し合いの結果、魔の森自体が人族の領域に侵略している事を世間に公表した。

森からは魔獣と共に胞子が飛び、徐々に森は広がり始めたのだ。

相手が森となると、人の力ではどうする事も出来なかった。

そこで、あらゆる部門の有識者が集まり会議が行われたが、打開策は見つからなかった。

そんな行き詰まった会議室の扉を、1100年前から変人扱いされてきたある一族が、ある一冊の本を携えてやってきた。

この一族が世間から冷笑されてきたのは、この世界とは別の世界が無数に存在すると発表し、それを心から信じ、研究していたからだ。

その変人一族の努力の結晶とも言える本を元に、他の世界から、伝説の聖女を召喚出来ると発表した。

自信を持って本を見せたが、独自の数式も魔法陣も全く理解することが出来ず、やはり変人なのだと会場にいた者達の意見だったが、ある一国の王が、出来るかどうかではなく、このまま打開策が無いのならば誰に迷惑をかけるわけでは無いのだからやってみてはと意見した。

召喚の際の準備も魔力も、一族だけで済むみたいだし。と。


そして計算の結果割り出した時間と場所の元、多くの人が見守る中召喚の儀が行われた。


次々と訳の分からない魔法陣が数人の老人の指揮に従って会場を埋め尽くしていくうちに、徐々に見学人が増え、期待する者も出てきた。




そしてその時はやってきた。

術を発動すると、天から光が一筋の光が降り注ぎ、2ヶ月かけて用意した陣の中から煌びやかな光が少しづつ人型になり始めた。集まった人々はこの信じられない出来事を瞬きも忘れ魅入っていた。


完全な人型になると、光が弱まり、現れたのは予想外の人物だった。

意思のはっきりした目尻には笑い皺があり、口元は何故か花柄の布で覆ってある。膨よかな体には名札が付いたエプロンをしていた。


先程まで魅入っていた人々の心に思った意見は始めて満場一致した。


思ってたんと違う。と。


そんな空気を物ともせず、会場を一通り見渡したエプロンおばちゃんは、



「なんやけったいな格好した外人さんばっかりおるなぁ。なんかの撮影かいな?

いや、違うか。さっきまでパート中やってんから...

もしかして、流行りの異世界召喚かいな?

娘に進められて読んだ小説にありがちなパターンや。


ちょっと、代表者さん誰かおらんへんの?

こういう時はイケメンが手を取って、ハニートラップよろしく胡散臭い笑み浮かべながら、本人の許可も得てへんのに、『ようこそ。是非我々の世界をお救いください。』とか誘拐犯なのを棚に上げて言って迎えるんと違うの?


何や、おかんを喚んだんなら飯テロかいな?

あと30年若かったら聖女召喚かと思うけど、あ、まさか内政か?

あかんあかん!いくら旦那が自治会長やっててもうちは内政なんてわからんで?

後はなんかあったかいな?

もしかして、巻き込まれで追い出されて実はチートってやつかいな?


ほんで、誰なん?責任者は?

はよ、喚んだ説明せんかいな?パートは時給なんやで?サボってると思われたらお給料引かれるやんけ。」



時間ないねん。と、怒涛の勢いで一人喋りまくって、その中に正解があるので言われた事にも疚しさがあり、誰も名乗り出れなかったが、千年に渡り研究し続けた変人一族の1人が、魔力枯渇を起こしながらもヘロヘロで前に進み出てきた。


初の異世界人との会合一号を誰にも譲らんと、気力どころか、生命力をも削ってるんじゃないかと思うほどに必死に状況を説明し始めた。

その途中、余りの具合の悪そうな顔色を気にして、エプロンのポケットから出したアメチャンとやらを口に入れてくれた。

アメチャンは正に天上の食べ物。

口に入れた途端に魔力が一気に元に戻った。

感動し、涙ながらにお礼をし、状況を簡単に説明した。



「まさか、聖女とは思わんかったわ。まだ捨てたもんじゃあないな。

ほんで、その森から胞子が飛んできて森が広がるんやったな?それを阻止したいと?

なんや、この世界空気清浄器ないの?このご時世、今や一部屋に一台やで?

うちは息子夫婦がネットで買ってくれはったから、仕組みなんてわからんで?


あ、ちょっと待ち、何やテレビ通販の画面が目の前に出てきよったわ、見える?見えへんの?なら説明しよるから、ちゃんと聞きや。

これは、プラズマクラスターとかいうのもついて、12畳対応、1台14800円やって。

次は、異世界バージョン、お手入れフィルター交換要らずは10万セルター対応、1台白金貨300枚で、今ならスレイルを毎月第三の水の日に神殿に奉納してくれるなら1台金貨28枚にまけてくれはるって。

単位や市場価格知らんけど、うちの世界のがあっても役に立たんやろ?

異世界バージョン一択やな?ほんで、何台必要なん?突っ立てんと、はよ、お金出さんかい、そんな、無駄に煌びやかな衣装身につけてんからあるやろ?ほんでもって、勿論、毎月奉納するやんな?」



おばちゃんの勢いに飲まれ、多めの500台を注文し、お金を渡すと受け取ったおばちゃんが空中に入れるようにすると、あら不思議。お金は消えてしまった。

すると、人で埋もれた会場の外を警備する兵士から突如多数の謎の物体が現れたと報告があり、おばちゃんを先頭に皆んなで見に行くと、一面ダンボール箱に埋もれていた。


「どれかの箱の上に受領書があるからもってきてくれはる?あ、それやそれ。これにサインしたら帰れるみたいやわ。あら、派遣やってんな?説明書もあるな。

ほな、うちはもう帰ってええな?誰かにバレる前に戻らんと。あ、これお礼?いややわあ、そんな気ぃ使わんと、困った時はお互い様やしな。おおきに。有り難くもろうとくわ。

よぉみたら、あんた、うちの旦那に似てはるわ。うちの旦那さん日本人にしては濃い顔しよるしな。

ああ、なんや会いとうなってきたわ。

普段はこんな事思わへんけど、いざ遠くにおるとなるとやっぱり離れとうないわ。

結婚して30年、子供も手が離れて今うちには二人しかおらへん。うち迄おらんくなったら寂しいやろ?

保険証の保管場所やらも覚えとるかわからんし。

体が資本な仕事やさかい、毎日のお弁当も作ってやらんとな。

あの人にはうちがおらんと。

今晩は旦那の好物用意しよか。

あんさんらも、出来たら自分達の世界は自分達で守りや?うちらの世界かて、今ウィルスに侵されてるねんけど、力合わせて乗り切ろうとしてんねんで。ま、お気張りや。ほなさいならぁ。」



こうして初の召喚は見事成功に終わり、設置されたクーキセージョーキにより、胞子が吸収され、それ以上森が広がる事がなくなった。

異世界から見事聖女を召喚した変人一族は、この一件以降、賢者の一族と呼ばれるようになった。

表舞台に出てくるかと思えば、聖女帰還後、今度は魔力を元に戻すアメチャンの開発に一族揃って取り組んでいくことになったそうだ。










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