4>>□セッドリー視点2
「デートがしたいわ!」
そんなアリシュアの提案で、俺とアリシュアは学園から外出許可を取って、簡素な外出着を着て街へと遊びに行った。
学園のある街は、貴族の子供が集まる事から他の街より発展しているし治安も良い。そこかしこに警邏の騎士が立っていたり歩いていたりする。夜出歩くのはさすがに危ないが、冒険者は犯罪を犯した時点で冒険者資格を剥奪されてしまう事から、滅多な事がない限りは冒険者が騒ぎを起す事はない。地域に貢献するとギルドからの評価が上がる事から寧ろ冒険者が居た方が治安が良くなるという傾向にある。騒ぎを起こすのは大抵破落戸や酔っぱらいだ。
だから比較的昼間は安全で、学園の貴族の子供たちが出歩いていても問題はない。それが駄目になると放課後にダンジョンに行けなくなってしまう。治安の為に、国からも補助金が出ていると聞いた。
『冒険者が出来なくなったら警邏隊に入ろう!』という張り紙があったりするこの国はとても平和なんだと思う……。
露店街を2人で歩くのは不思議な感じがした。
アリシュアは通り過ぎる露店全てを覗き込んで目をキラキラさせていた。
平民の女性たちが美味しそうに食べていた砂糖をまぶした揚げパンを食べやすくしたお菓子をアリシュアはソワソワしながら見つめていたから、俺は2つ買って1つをアリシュアに渡した。
「セド! ありがとう!」
「みんなみたいにこのまま齧りつくんだぜ? できる?」
「ふふ♪ お皿に載ってないしフォークもナイフも無いのね! こんな食べ方するの、初めてだわ!」
「男子はダンジョンとか行ったら食べ歩きなんか当然なんだけどな。女子は絶対にさせてもらえないだろ?」
「当然よ! ふふ、お母様にバレたら絶対に叱られちゃうわ♪」
そう言って菓子パンに口を付けたアリシュアは、小さな口でパンを齧ると「……おいしぃ」と微笑んだ。
唇に付いた砂糖を、舌をペロリと出して舐めとったアリシュアが無邪気で、あぁ今日ここに来て良かったな、と思った。
「ねぇ、これ素敵ね!」
宝石店の前で俺を振り返ったアリシュアの指差す先を見る。
ひし形にカットされた赤く輝く宝石の付いたネックレスだった。赤い宝石を囲う様に桃色の小さな宝石が縁取っている。
「綺麗だな」
「ね! セドの色よ! 素敵!」
「俺、ここまで赤くないだろ?」
「あら? 光に当たるとこのくらい赤くなるわ!」
「そうなのか? この石……周りの色はアリーみたいだな」
「私の髪や瞳の色って昔はもっと茶色寄りだったのに、今じゃしっかり桃色になっちゃったものね。お姉様はまだ少し茶色に見えなくもないけど……」
「ティナ姉様は俺と同じ赤だもんな」
「お姉様もその内セドくらい赤くなるのかしら?」
「やった! お揃い!」
「あ! ズルいわ!!」
そんなやり取りが本当に楽しい。
「これ買ってやるよ。今日の記念に」
「まぁ!! ありがとう!!!」
赤い石のネックレスを店員にお願いして袋詰してもらう。伯爵令嬢にプレゼントするには安すぎる宝石だったけれど、思い出の1つにするだけの物だから、むしろ値段なんて関係ないと思った。
アリシュアの宝石箱に仕舞われるだけのネックレスを買っているとまたアリシュアから楽しそうな声が上がった。
「ねぇゼト! これ、ハル兄様みたい! きっとセドに似合うわ!」
アリシュアが嬉しそうに見せてきたそれは、金細工に紫色の宝石のはめ込まれたピン細工だった。
ハル兄様の瞳の色と同じ色の紫の宝石とハル兄様の金色の髪を思い出させる透き通るように輝く金細工はアリシュアが言うように一目見てハル兄様を思い出させた。
一瞬それに目を奪われたが直ぐにアリシュアに目を向けた。
「なんで俺になんだよ。ハル兄みたいならティナ姉様にだろ?」
内心の動揺を悟られないように苦笑してアリシュアにそう言った。
「あら? だってこれ男性用なんですもの。ねぇ、おじ様? そうですわよね?」
「え?! おじさま?!? え、えぇ、それは男性用アクセサリーですよ。祭りで着けると女性に受けがいいんですよ」
「ほら! 男性用ならお姉様には上げられないわ!」
アリシュアにおじ様と呼ばれた店員が、言われ慣れていない呼ばれ方に照れながら答えた言葉にアリシュアがどうだと言わんばかりに胸を張る。
でもだからって……
「俺がハル兄みたいなアクセサリー持っててもおかしいだろ? それならアリーの」
「なんでおかしいのよ? 将来義理でも兄弟になるんだからセドがハル兄様みたいなアクセサリー着けててもおかしくないわよ! それにこれ凄く素敵だもの! わたくしがこれをセドにプレゼントするわ!」
「アリー……」
アリシュアの勢いに負けて、俺はハル兄様を思い起こさせるピン細工のアクセサリーを貰った。
服に挿し込んで着けるそのアクセサリーを俺は一生付ける事はないと分かっていても……、俺はそれが自分の手の中に入ってきた事に、理解し難い……不思議な高揚感を覚えてしまっていた……。