>>■ エピローグ
──ルジオン(カハル)視点
母国の西の隣国へ渡って直ぐに、闇市で『色変え液』を買った。
飲むと半年間全身の色を変える事が出来る薬だ。難点は『髪と瞳の色を別々には染められない』という事だが、俺たちはまず何よりも皆に知られている髪色を変える必要がある為に、迷うことなくその薬液を飲んだ。
色は二人とも同じ『紺色』にした。カハルの金髪とセッドリーの赤髪から離れた色なら何色でも良かった。
「……髪と目の色が変わるだけでなんか全然違う人になった気分だ……」
宿屋の備え付けの鏡に映った自分をまじまじと見つめてセッドリーの名前を捨てたリオンが独り言の様に呟いた。
「似合ってるよ」
リオンの後ろから鏡を覗いて笑いかける。
二人で並んで鏡に映ると、髪も瞳も同じ色になった俺たちはパッと見、本物の兄弟に見えた。
「ルジ兄はなんか渋さが出たな……」
「そうか? 自分じゃ分からないな」
リオンにそう言われて、前髪を弄りながら鏡をジッと見た。髪の色が金髪から紺色になると違和感が凄い。見慣れないが鏡を見る事も滅多にないので自分で気になる事は無い。
ふと気付くとリオンが鏡の中から俺をジッと見ている視線に気付いた。俺も鏡の中のリオンをジッと見る。
「これで堂々と兄弟だって言えるな」
「……ずっと兄弟でいくのか?」
少し不安そうになったその顔に苦笑する。
「……もっと離れた場所に着いたら止めても良いな。
……そしたら“恋人”と名乗ろうか?」
鏡の中のリオンの目を見てそう告げる。
リオンは途端に赤くなって口をへの字に曲げた。
「そっ! そこまでしなくていいよ! 俺たちは相棒だろ!!」
恥ずかしがってるのが分かって楽しくなる。クッ、と笑いを零した俺にリオンは照れ隠しに怒った顔をしてみせる。そんな反応が可愛くて、楽しくて、俺はその可愛い顔を手を添えてその唇を奪った。
「………っ、おい!」
「一生の相棒だよな、俺たち」
鼻先が触れ合いそうな距離で囁く。元は赤かったリオンの目は今は光を受けると青く揺らめく。その目をジッと見つめる俺の目もきっと今同じ色をしているだろう。その事が嬉しかった。
「……どっかいけって言われたって離れねぇからな……」
「言わないよ」
照れ隠しなのかおかしな事を言うリオンに喉の奥で笑って否定しておいた。
「…………っ」
もう一度その唇に口付ける。
リオンの体温を感じる為にその体を抱きしめて口付けを深くした。
背中に回されるリオンの腕に自然に口元には笑みが浮かぶ。
───2年後。
『よぉ、リオン! 今からダンジョンか? 今日はどこに行くんだ?』
『オハオオ! たじょん、みし! イク。きょぉ!』
『西のダンジョンか! ポーション忘れんなよ! 毒避けもな!』
『ほーしょン、もた! とぐよけ、買う! あがと!!』
『うはははは! だいぶ上手くなったな、こっちの言葉!!』
『れしゅ、してう!』
『頑張れよ!!』
母国のある大陸から船に乗り遠くの島国へと来た。
ここは小さい島にたくさんのダンジョンがあり、色んな国の人達が集まっている。逃亡先にはピッタリだった。
リオンも学園でこの土地の言葉も習ってはいたのだが、やはり書いて習う事と実際に話す事は違っていて、リオンは大分苦労していた。
舌足らずに喋るリオンはここの人達からすると良いオモチャのようで、時々ああしてからかわれたりもするが、それが良い勉強になっていた。リオンも積極的に喋っている。
「俺ちゃんと喋れてた?」
俺の側に駆け寄ってきたリオンが笑顔で聞いてくる。
「ん〜……、意味は通じてたな」
「マジか……ちゃんと喋れてた気がしたんだけどな……」
俺の返事にリオンはガッカリしたと眉尻を下げて肩を落した。
その様子に苦笑してしまう。
「ここの発音は独特だからな」
「ルジーは最初から完璧だったよな」
「そりゃ……、外国語は子供の頃から仕込まれまくったからなぁ……」
「そのお陰で今滅茶苦茶助かってるから有り難い」
ニッと笑うリオンの頭を俺は撫でた。
「さぁ、行くか」
「おう!!」
一瞬その顔に口付けをしたくなった気持ちをグッと押し殺す。どこでもそんな事をするなんて理性が許さない。
早足に歩き出した俺を不思議そうに伺いながらリオンが着いてくるのが嬉しくて、自然に口元は笑っていた。
幸せなんだ。
自由な世界で俺は幸せを感じている。
全てを捨てて……自分に関わった人たちを悲しませてまで掴んだ幸せだ。
これから、誰に何を言われたとしても俺は、この幸せを絶対に手離さない。
それが俺に出来る皆への……………
もう少し西へ行くと同性婚が出来る国が有るらしい……。
そこへ永住してもいいかもしれない……ダンジョンがあれば…だが……。
リオンが居て、ダンジョンがあれば、そこが俺の『幸せな世界』だ。