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翌日、お父様に呼び出された。
コンコン。
「ソフィですわ」
「入りなさい」
いつも優しく笑顔のお父様は、今日はなんだか真剣な、でも少し悲しそうな顔をしていた。
「ソフィ、お前今懇意にしている男はいるか?」
とんでもないことを聞かれてしまった。
もしや、私についてだらしない噂があるのかしら。
慌てて首を振りつつもそう考えた。
「いや、お前の婚約者を選定していてな。
我がベルヌーイ伯爵家はもう栄えているし、人脈ももう十分にある。
だから、可愛いお前が1番幸せになれる結婚相手を探したくてな。
どうだ、平民でも構わないぞ。お前が幸せになることだけが大切なんだ」
「そんな殿方はいらっしゃいませんわ」
「ふむ、では結婚相手について、なにか要望はあるか?」
「ええと…では」
恥ずかしくて顔が一気に赤面する。
「お父様達にお会いできるように…この邸のお近くにお住まいで、領地もベルヌーイ領からさほど離れていない方が望ましい…ですわ」
最後は声が小さくなってしまった。聞こえた…かしら。
恐る恐る目線を上げようとしたその時、体をぎゅっと抱きしめられた。
「ソフィ、私達家族は、みんなお前を愛しているよ」
お父様に抱きしめられるのは、何年ぶりかしら。
淑女は家族だったとしても男性に触れられてはならないと、マナーの講師に言われた頃、つまり6歳頃からもうこんなことはしていない。
あぁ…父の腕とは、こんなに温かいものだったのですね。
私も、父をぎゅぅっと抱き返した。
「それでだな、お前の要望を満たし、かつお前を幸せにしてくれそうな男だが、
ハメルトン侯爵家嫡男、アルバート・ハメルトンはどうだろうか。
今21歳で、あと5年ほどで侯爵家を継ぐ予定だそうだ」
そう言って父は姿絵を渡してくれた。
アリボリー色の短髪に、氷を思わせる薄い青の瞳。
顔立ちは整っているが、冷徹な印象を受ける。
「こやつはな、顔立ちはこうだか頼りになるし、真面目だし、男が苦手なお前でもあまり怖くないような、可愛らしい男だ。
どうだ、一度会ってみないか?
嫌なら他を探すから、気負わなくていいぞ」
「ありがとうございます。
一度お会いしてみとうございますわ」
そう言って、私はにこりと微笑んだが、
そもそも結婚したくなどないし、彼は冷たい印象だったため、憂鬱以外の何者でもなかった。