Level.7 漁夫
『始まりました!!
ユニオン対抗新入生代表戦!!
こちらは廃工場マップの中継です
現在ガーディアンとクロニクルの2パーティが戦闘中です』
対抗戦の様子はモニターで学園中の全員が観戦している。
『しかし早くも戦いは佳境を迎えすでに一対一
猫麦選手とハドラー選手のお互いの《SAI》が激しくぶつかり合い戦場はまるで焼け野原です!!』
お互いにパーティーメンバーを失った二人。
猫麦 彼方とハドラー・ニクスの両雄は建物内の中庭を挟んで向かい側同士で睨み合う。
「あの爆発からよく生還できたな
お陰で俺の舎弟達が全滅しちまった」
「事前に知らされていたんでな
ハドラー・ニクスの『イクスブラスト』には気をつけろとな……」
ハドラー・ニクスの『イクスブラスト』による爆破は爆破物を視認できない。
右手に触れた箇所を爆破出来る力。
触れた場所を見ていたり覚えていないと気付くことが出来ない。
「テメェがなんの《SAI》で俺の爆破から逃れたかは知らねえ……
けどなぁ俺の『イクスブラスト』はこんな使い方も出来るんだぜ?」
ハドラーは手持ちのハンドガンを猫麦の地面や後ろの建物の柱など様々な場所に弾丸を打ち込む。
だがハドラーの弾丸はどれも猫麦を狙ったものではなかった。
「これは!!」
猫麦は気づいて中庭に出ようとするが少し遅かった。
発射され埋め込まれた弾丸は『イクスブラスト』によって爆発し、猫麦側の建物は崩壊して猫麦は爆破の衝撃と建物の下敷きになった。
『ハドラー・ニクス選手のイクスブラストによる爆破攻撃が決まったー!!
爆破の衝撃と建物の崩壊の砂埃でカメラで捉えきれませんが猫麦選手のキルログが確認されました!!』
数秒後、砂埃の中に人影がその場に立っているのがカメラで確認できた。
『よってガーディアン対クロニクルの戦いはハドラー・ニクス選手率いるガーディアンの勝利となりまし………え!?』
その瞬間、キル報告システムのログにハドラー・ニクスの文字が現れる。
『これは一体……立っているのは柊 帝選手!!
いつの間に現れたのか……
これで勝負は残ったユグドラシルとルドラス
この2パーティーの争いとなりました!!』
30秒前……
「チッ……威力が高すぎて自分まで死にそうになるな……爆破の威力を調整しねーと」
ハドラーはそう思いながら倒した敵の装備品などを回収に向かう。
しかしその瞬間、後ろから音もなく現れた何者かに喉元を斬り裂かれた。
「随分と派手に暴れたな……」
ハドラーは振り向き様に咄嗟に右手で触れて、体を爆破しようとするがパスッという音と共に頭を撃ち抜かれキルされる。
何故敵位置検知レーダー範囲外から音もなくいきなり現れることができたのだろうか?
ハドラーは頭を撃ち抜かれる直前に男の顔を見た。
そこには《SAI》無しと呼ばれている学園最弱の男が立っていた。
「……頃合いだな」
俺は2パーティ分の装備品などを回収してある場所へと向かう。
これだけ揃えば十分だろう。
俺は爆破音を聞いてすぐに戦闘中の彼らを遠巻きに見ていた。
度々敵位置検知レーダーを使われていたがその範囲外のギリギリに俺はずっと立っていた。
そして一対一の戦いになった瞬間、音を『無くして』ギリギリまで近づいて勝った方を狩った。
かなり狡いやり方だが勝率はかなり高い。
「あれが幻一郎が推薦したとかいう生徒か?」
その様子を見ていた黒銀 寧々は隣で観戦している碧 幻一郎に問う。
「……あれはただいいとこ取りをしただけだ
アイツの強さはあんなもんじゃねぇ」
そう語る碧 幻一郎は刀を取り出し抜き放ち、刀身を露にさせた。
「軽くとはいえ俺の『黒鶴』の一撃を至近距離で躱したんだぜ?
それにアイツはまだ何かを隠してる」
「珍しいな幻一郎がそこまで他人に興味を持つなんて」
そう言って2人は再びモニターの方へ目を向けた。
『遂に出会いました!!
風峰選手率いるユグドラシル対雨竜選手率いるルドラス
二つのパーティーが今解除キーを挟んで激しい戦闘を繰り広げております!!』
風峰 零次はこの学園に来て自身に満ち溢れていた。
他人より強い《SAI》そして近接戦闘もできる、新入生代表戦のメンバーにも選ばれた。
だが中学も高校もそれなりにいい成績、運動神経も良く順風満帆だった風峰にとってそれは当たり前だった。
しかし痛感させられた。
上には上がいるということを。
「どーした零次?
今まであんなに調子に乗っていたのに今はなーんにも出来ないのか?」
そう言って膝をついて動けないでいる風峰を見下ろすのはかつての同級生、雨竜 司。
ルドラスのパーティーリーダーに選ばれた彼は中学、高校と風峰に見下されて馬鹿にされてきた。
だが同じようにこの学園に入り、《SAI》以外が全てが平等なこの世界で彼はずっと復讐の機会を伺っていた。
そして最高の《SAI》を手に入れた今、タイミングよく目の前に復讐の機会と巡り会えたのだ。
「まぁ動けねぇよなぁ?
そこはすでに俺の『範囲内』なんだからよ」
雨竜 司の『グラビドエリア』は指定範囲内に入った物体に重量を付与する力。
射程範囲は狭いものの近接戦は無類の強さを誇る。
すでにパーティーメンバーの鳴神はリタイア。
エリスは別の2人と交戦中。
そして後1人は足手纏いになるのがわかっていたので切り捨てた。
ほぼ敗北が決定してしまっている状況だ。
だが風峰もこのままやられっぱなしでは無かった。
うつ伏せになっている状態で見えない角度からN8爆弾を自分の体に設置し、起爆の準備を完了させていた。
「ただでは死なねぇ……小さい頃からずっと一緒だったんだ
お前も一緒に逝こうぜ?」
ニカッと笑い風峰は雨竜 司を巻き込み自爆した。