表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

Level.3 くだらない過去と模擬戦


『躊躇することを捨ててください』



後ろに立つ黒いタキシードを着た男に言われて俺は目の前で今にも死に絶えそうな狼の喉元をナイフで斬る。

苦しみ悶えていた狼の瞳から光が消え、完全なる死を迎えた。

俺は悪くない……悪いのは俺を捕食しようとした狼の方だ。



『帝様……生物の世界にルールは存在しません

 人は世の中のルールに従い行動しますが動物は自分の中の本能に従い行動するのです』

と言いながら男は狼の死体に火をつけた。



『帝様を狙う者が例え人であっても向かってくる敵意が殺意へと変わったのなら躊躇する必要はありません

 目には目を……歯には歯を……

 ルールを守らない人間には容赦は必要ないのです』



何故兄弟の中で俺だけがこんなに死にそうな目に遭ってまで訓練させられているのだろうか。

しかしそう教えられて頷くしか無かった俺はまだその時7歳だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……うっ……はぁ……はぁ!!」


悪夢にうなされベットから飛び起きた俺のパジャマは汗でベトベトだった。


……嫌な夢だ。

汗を流す為に朝風呂に入り、気持ちを一旦リセットする。

大丈夫だ……まだあの家に戻ることはない。


体を拭いて着替えようとした瞬間、脱衣所の扉が開いた。

脱衣所の中で水凪さんと目が遭ってしまった。


「早くしてくれる?

 私もお風呂入りたいから……」

と言いながら彼女はじっと俺の体を凝視している。


「おい……早く閉めてくれ

 着替えるから!!」


と言っても水凪さんは全然脱衣所から出る気配がなく凄い視線を感じる。

女の人も男にこんな風に見られているのか……。

と何故か俺は女の人の気持ちが少しだけわかった気がした。


「それ邪魔じゃない?」

と言いながら彼女は俺の股間を指さす。


「やめろよ……それ冗談になってないから……

 ったく……こういうイベントは普通女と男が逆なんだけどな」


そう言って俺は仕方なく着替えを持って濡れたまま部屋に逃げようとするとそこで水凪さんが


「じゃあ私が着替える所を見てみる?」


と言うので俺の足がその場からまったく動かなくなった。



期待して振り向こうとする俺の顔はとても下品だったに違いない。

すると振り向いた視線の先に環先輩がいつのまにかそこに立っていた。


「柊君?……私の言いたいことわかるよね?」


「……はい」


この状況でタオル一枚な俺は言い訳することもできずに朝から先輩に説教を食らって一週間朝食を作る係にされてしまった。


俺はなにも悪くないのに。


……ただほんの少し同級生の女の子の着替える所を見ようとしただけだ。

しかも本人も同意の上で……。


「んー……美味しい!!」


と俺の作った朝食を食べて環先輩の機嫌が元に戻った。

朝食は冷蔵庫に残っていた食材を利用して調理した。

一人暮らしをしている時に俺は食事にだけはこだわりを持っていた為、味には自信がある。


「これで許してもらえましたか?」

本当は俺悪くないんだけど……。


「んー……許す!!」

と笑う先輩の顔が可愛かったので少し見惚れていると、何故か水凪さんが冷めた目で俺を見ている。


「……変態」

こいつにだけは言われたく無かった……。



朝食を終えてそれぞれ違う時間に家を出る。

環先輩は授業の準備があるからと言って先に出た。


その1時間半後ぐらいに俺と水凪さんは家を出る……。



「……流石にこれは予想できなかった」



朝、寮を出て初めての授業。

今日俺が受ける授業はサポート武器の使用方法とメイン武器選択の授業だ。

すでに50人ほどの新入生が待機しており、教室である第二闘技場では様々な武器が用意されていて準備万端だった。



「はーい……じゃあ授業を始めますからそのままこっちを見てくださーい」



そう言っている先生が生徒でしかも環先輩だとは全く予想していなかった……。

ここ刃月学園は生徒が授業を行うことは珍しくない。

もちろん先生役は戦績報酬とはまた別に報酬をもらえるのだ。



「ほら!!そこの柊君!!

 授業に集中してください」


「は……はい……すいません」


周りにクスクスと笑われてしまった。


「それではまずみんなはメイン武器とサポート武器をそれぞれ必要なだけ手にしてここに戻ってきてください」

環先輩の声と共に、皆が武器の設置ブースへと移動する。


そこには刀、剣、ナイフ、斧、大鎌、盾、ハンマー、スナイパーライフル、アサルトライフル、ハンドガン、など様々な種類の武器が用意されており全員が武器を選んで元の場所に戻っていく。


「では今からその選んだ武器で模擬戦闘を行ってもらいます

 まずは適当にペアになってください」


人数も偶数だからその内あまり者でペアになるだろうと待っていると、後ろから声をかけられる。


「あれ?お前……学園史上初の《SAI》無し男の柊君じゃん

 ちょうどいいから俺と組もうぜ!!」

と見たことのない男子生徒から声を掛けられたので俺も丁度いいと思い組むことにした。


「あぁいいよ……組もうか」


全員がペアになった状態が確認できた所でペアになった者はそれぞれ二つに分かれて、皆の前で模擬戦闘をすることになった。



「じゃあまず君から行こっか?

 でこの人のペアの人も前に出てね」

と言って選ばれた二人の生徒は前に立たされる。



「『ルールファクトリー展開』!!」

環先輩の声と共に闘技場に新たな空間が設定された。


「ルールは簡単

 お互いどちらかが戦闘不能になるまで戦ってもらいます

 ただし今回の戦闘では《SAI》の使用は禁止

 死んだとしてもリスポーンがあるから二人とも全力でお互いを殺し合ってね?」


と言って先輩が腕を上げると、立体映像でカウントダウンが始まる。


3……2……1……GO!!



と同時に二人の戦闘が始まった。

初めはやはり銃撃戦となった。


《SAI》の使用が禁止されているこの状況下では遠距離戦は銃に頼るほかない。

フィールドの初期位置には障害物があるが、二人の初期位置の間には30メートルほど何の障害物もない空間がある。


撃ち合いが終わり、お互いヒットせずに弾が切れてそこから近接戦闘が始まる。

この仮想空間の近接戦闘において運動神経は必要ない。


必要なのはイメージである。


半仮想空間内にある自分達の肉体は脳でイメージした動きを忠実に再現して動くのだ。


「フン!!」


片方の堅いの良い生徒が思いっきり振り下したハンマーは正確に相手の生徒を捉えた。

相手の生徒も武器でガードするも武器ごと圧死させられた。


その後何組かのペアが終わり、リスポーンして復帰してくる生徒を見ると皆が死んだ様な顔をしている。

半全仮想空間とはいえ、痛みはある。


いわば擬似的な死を体験しているのだ。


実際に死ぬ痛みを体験したことで怯えてしまったのだろう。

そしてその怯えは待機中の俺達にも伝染する。


「次は……柊君とそのペア人!!前に出て」


俺だけ名前で呼ぶのをやめてくれないかな……。


皆が俺のことを覚えてしまいそうだ。

俺が選んだ武器はナイフとハンドガン。

対する彼が選んだのは刀とアサルトライフルだ。

二人が位置についた時、カウントダウンが始まる。


「サンドバッグ役よろしくな?」

俺の耳元でそう彼は囁き笑う。


お互いが初期位置に着いたところで彼はアサルトライフルを構える。


……しかし本当にあのゲームと似ているな。

そんなことを考えていると、カウントダウンが終わり試合が始まる。


スタートと同時に弾丸の雨が俺に向かって降り注ぐ。

俺はそれを遮蔽物の壁を利用して隠れる。


「どんな教育を受けたらあんな性格の奴が生まれてくるのか

 親の顔が知りたいね」


俺はボール型サポート武器の《インスタントウォール》を投げてお互いの間にある何もない空間に3つの岩壁を設置した。

この《インスタントウォール》は遮蔽物の無い場所に岩壁を設置できるサポート武器だ。

俺はその岩壁を利用しながら射線を切って、彼との距離を詰めていく。


「くそがっ!!……チョロチョロすんじゃねぇよ!!」

アサルトライフルでの射撃は継続されている。

彼の射撃の腕は悪くない。

だがしかし後数秒で弾薬が切れる筈だ……。



相手との距離は残り10メートル。



……頃合いだな。

俺は岩陰から出てナイフを2本構えて突撃する。


ライフルの弾薬が切れ、弾倉を変えようとする彼は俺のその動きを見て銃を捨てて刀を構える。

リロードが間に合わないと理解して近接戦闘に切り替えたのだ。


……いい判断だ。


近接戦闘においてナイフと刀ではリーチに差がありすぎる。

防御面ではナイフが有利かも知れないが、攻撃面においてはかなり不利だ。

しかし俺はその状況をあえて作った。


ナイフが相手ならリーチで勝る刀で遅れを取ることはないと思っている彼に俺は思いっきりナイフを投げた。

かなりの至近距離。

ナイフの向かう先はは彼の頭部。

がしかし何と彼はそれを刀で最も容易く弾いた。


この近距離であの速度のナイフを弾くのは見事な反射神経だ。


「これが実力の差って奴だ!!」

彼は勢いよく踏み込み刀を振おうとする。


だがその瞬間、彼の顔面と心臓、そして腹部に信じられない激痛が走り彼は痛みで気を失ってしまう。


そして試合は終了した。


「クソ……一体何が」


リスポーン(復活)した彼は何をされたか分からず自分が負けたことを理解できていなかった。


確かに投げた一本目のナイフは弾いた筈だ。

そこから踏み込んだ瞬間、奴のナイフではなく俺の刀の間合いだった筈……。


一体どうやって決着がついたのか全員が分からなかった。


俺は彼にだけ見えるようにチラッと服の裏側にあるサプレッサー付きのハンドガンを見せた。

そう、持っていた2本のナイフはブラフだったのだ。

彼が刀で踏み込んできた瞬間、服の裏側から頭部と胸部そして腹部に一発づつ撃ち込んだのだ。


「クソがッ……あんなやつ《SAI》を使っていれば瞬殺できたのに……」

と言いながら彼はこっちを睨んでいる。


「……《SAI》か」

ともあれやはり《SAI》無しでの戦闘はやはり銃がメインの戦闘武器となりそうだ。


「へぇ……やっぱりただ者じゃないみたいだねぇ」

と環先輩は俺を見てニヤリと笑った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ