Level.2 寮
「これが寮か……?」
入学式とチームの振り分け、《SAI》の検査が終わり放課後俺は自分の寮へと向かっていた。
俺が寮に選んだのは一番安いボロボロのシェアハウスだ。
理由は一つ、月に学園から貰える報酬額のほとんどを特殊授業で使いたいからだ。
この刃月学園では授業を生徒が選んで受けることができる。
無論一年中サボることも可能だ。
しかし選んだ授業によって習得できるスキルもあるし、武器の扱い方などを知れる為、生徒は基本サボらない。
勿論俺は休みなく授業を受けるつもりだ。
《SAI》能力の無い俺にとっては授業を受けることでしか他の生徒との差を埋めることはできないのだから……。
俺はそんなことを考えながら寮の呼び鈴を鳴らす。
「……留守か?」
寮といっても正直ただの一軒家だ。
この一軒家の一室が恐らく俺の部屋なのだろう。
「お邪魔しまーす……」
鍵が空いていたので玄関を開けて勝手に中に入ると、何故か廊下で倒れている女子生徒を見つけた。
「大丈夫ですか!?」
彼女に駆け寄り意識があるかどうかを確認するが、制服の腹の辺りがほとんど血で染まっている。
この出血量では恐らく彼女に残された時間は少ない。
その瞬間玄関が自動で閉まり、内側からロックがかかり出られなくなってしまった。
「なんだよ……これ」
平和だった空気は一変して辺りは緊張感が漂っていた。
何故血を流しているのか理由はわからないが、何かがおかしい。
「き……気をつけて……中にまだ犯人が」
まだほんの少し息があったのだろうか?
彼女は右側にあるドアの方を指刺しながらそう言った。
あの中にどうやら彼女に致命傷を与え、俺をここに閉じ込めた犯人がいる様だ。
とりあえず犯人の居場所を目視で確認しておきたい。
位置の分からない相手との戦闘は避けたい為だ。
そう思いゆっくりとドアを開けて中の様子を伺おうとする。
しかし瞬間、なぜかタイミング悪く向こう側からドアを開けられてしまう。
「しまっ……!!」
頭部を隠して逃げようとする俺の体に向けて容赦なく『パン!!』と乾いた音が鳴り響く。
「入学おめでとー!!」
一人の女子生徒がクラッカーを鳴らしながら飛び出してきて、俺の体にキラキラした紙吹雪が降り注ぐ。
「……は?」
何が起こったか少しの間わからなかった。
「君が今日からこの神月寮の一員になる柊 帝君だよね?
私は藤堂 環よろしくね?」
いやいや……じゃあ玄関の彼女は一体なんなんだ?
そう思ってふと玄関の方を見てみると先ほどまで血まみれだった彼女が立ってこっちに歩いてくるではないか。
「私は水凪 村雨
貴方と同じユグドラシル所属の一年生……
よろしく」
「あ……あぁどうもこちらこそよろしく……」
そんな血まみれで自己紹介されても全然頭に入ってこないけど……
「あぁこれ……血のり
先輩に新入生の歓迎会だって言われて何故か同じ一年生の私がこんな格好させられたの……」
俺の視線に気づいた彼女は自分が血まみれになっている理由を説明してくれた。
そうか。
俺は馬鹿だ。
すでにこの学園内は半仮想世界なんだから死んでもリスポーンして復活できる。
簡単に気づけた筈だ。
「この神月寮って何人住んでるんですか?」
「ここにいる3人と……一人二年生の子がいるだけだよ?
君の部屋は2回の西側の部屋だからよろしくね」
一軒家といってもそこそこ広いのでそこまで窮屈な生活にはならなさそうだ。
「ちなみに今日は私が晩御飯を作るんだけど明日からは交代制でいくからよろしくね?」
と言って先輩は自分の部屋へ戻って行った。
「そういえば何で俺のことを知ってるんだ?」
俺は同級生である水凪さんに話しかけてみた。
「さっきの初期装備の《SAI》検査で学園初の能力無しがでたって注目されてたから」
なるほど悪い意味で有名になってしまったという訳か。
これでは連隊戦などになっても俺は除け者にされてしまうだろう。
明日から頑張るしかないな……。
「まぁとりあえずこれからよろしくな」
「よろしく……」
と言ってお互い自分の部屋へ入って別れた。